年金制度〈超〉入門 その5 ── 本当に年金制度は崩壊するのか?


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「将来、年金はちゃんともらえる?」「年金制度はうわさ通り崩壊する?」「年金を払うくらいなら、自分で貯金したほうがまし」……。
依然として、噴出してやまない懸念や疑問が未払い問題にも直結している「年金」。

しかしながら、日本に渦巻く年金への疑問を解くためにも、まずは一人ひとりの年金制度への理解が欠かせません。
今回は、「100年安心」などと銘打たれているものの、実は決して安心ではない……という不安を増長するかのごとくひんぱんに繰り返される、「年金制度改革」の基本についてです。
 

厚生年金と共済年金の一元化

 
まず、「マネセツ」7月掲載の「年金制度〈超〉入門 その3」で、年金制度の基本的なしくみとして、公的年金は職業ごとに3つの区分から構成されていると記しましたが、ここにあらためて補足します。

●「国民年金」:自営業や農林水産業、無業者や非正社員が加入
●「厚生年金」:民間企業のサラリーマンやその主婦(主夫)が加入
※「被用者年金一元化法」により、これまで厚生年金と3つの共済年金に分かれていた被用者の年金制度が、2015年10月1日から厚生年金に一元化されました。

一元化された背景には、厚生年金、国民年金に比べて優遇されてきた共済年金との「格差」が問題視されてきたことがあげられます。このため、一元化に際してこれまでなかった「共済年金の加入年齢の上限設定」「共済年金の保険料が引き上げ」といった変更がされています。

「改革」が常態化しているといっても語弊のない年金制度ですが、これにはやはり、少子高齢化と経済の不透明感によって、年金制度の財政状態が年々悪化していることが、その原因とされます。
基本的に、現制度下で保険料が減少し続ければ、「保険料引き上げ」または「給付カット」しか道はないのですが、細部におよぶ「改革」は、果たしてどれほどの実効性があるのか誰もが気になるところでしょう。
 

ひんぱんに繰り返される制度改革

 
2004年まで5年に一度、年金の財政状況のチェックを行い、年金制度の維持のための制度変更が行われてきました(これは法律で義務化されていました)。

近年では、保険料引き上げだけでなく、60歳から65歳への年金給付年齢の引き上げ、国庫負担の引き上げ、また積立金の早期取り崩しなどの「改革」が行われています。ただしこれは結局、国民の負担を増やすという意味では、そう変わりあることではありません。
何より、わかりにくい「年金制度」が、より一層わかりにくくなっている理由をひもとけば、
● 近年の「改革」は、多くの人に不利益が生じるものである
● それゆえに、例外措置や緩和措置などを伴った意味不明の用語と複雑な制度が増え続けている
このように、制度改革が常態化していることに加え、その「改革」そのものが難解になっているのが、今日の「年金」の実情なのです。
 

「100年安心プラン」は、本当に安心なのか?

 
2004年の年金制度改革の際に出されたのが、「年金100年安心プラン」というもの。
「年金100年安心プラン」は、保険料の引き上げと給付カットは実施するが、100年先まで積立金が失われず、年金財政が維持されることを自公政権が国民に約束したものなのですが、ここで重要なのが「所得代替率」という聞き慣れない用語です。

この「所得代替率」を簡単に説明すると、「現役の労働者の平均収入に対して、高齢者の受け取る年金額の割合」。
もっと大雑把に言えば、「生活に必要な収入は年金でどのくらいまかなえるか」の指標となる数字になります。

この「所得代替率」、厚生年金の場合は2004年には約60 %だったのですが「年金100年安心プラン」では、今後給付カットは想定されるものの、100年にわたって50%を下回らないことが公約として掲げられました。これはもちろん法律にも明記されています。

ところが、2004年の予想時点において想定されていたのは、「約30年後の所得代替率は50.2%」。
つまり、公約が掲げたもともとの数字は「50%を下回らない」という約束ギリギリの水準だったのです。
周知の通り、2008年にはリーマンショックがありました。もちろん年金財政にとっても、運用損や景気の減衰が大きなマイナス要因となったことは明白です。しかしながら、今後リーマンショックのような経済危機は果たして二度と起こらないのでしょうか。

実際に、5年に一度の財政チェックは今も行われており(財政検証)、2009年の財政検証でも「将来の所得代替率は50%を下回らない」という予測がなされています。
しかし、この見通しはギリギリの水準であるばかりか、運用利回り、賃金上昇率、物価上昇率、出生率などの数字をかなり楽観的に設定したうえでの数字。つまり、当時から批判が多いものだったのです。
 

公表された2014年の財政検証

 
そして、2014年の財政検証が公表されました。
この検証では、前回より現実的な数字が並んでいます。

複数の経済状況の変化が想定され、大きく「経済再生ケース」「参考ケース」に、さらに想定の数字が細分化され、8つのケースにわけられています。

「経済再生ケース」はまだまだかなり楽観的な設定です。
というのも、労働力率、物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りなどの条件が整えば、「所得代替率は50%を維持できる」とされているのですが、一方でそれらの数字が改善されず、結果として経済成長が実現しない場合、「2058年には所得代替率は40%程度まで低下するだろう」という見通しも。
さらに、最悪の場合「状況次第で積立金は枯渇するだろう」という見方もあるほどなのです。

── 冒頭にあげた、「将来、年金はちゃんともらえる?」「年金制度はうわさ通り崩壊する?」……といった疑問は、果たしてどうなるのでしょうか。

超高齢化社会に突入した日本は、単に国民の平均年齢だけでなく、国家そのものが老齢期に突入した、と比喩されます。国に蔓延する「将来に希望が抱けない」「老後が不安」といった不安感。その最たる象徴が「年金」と言えますが、次回はもう少し踏み込んで、「マクロ経済スライド」などの仕組みなどの側面から、「年金」の“いま”をさらに掘り下げてみることにしましょう。
 
 

≪記事作成ライター:帰路游可比古[きろ・ゆかひこ]≫
福岡県生まれ。フリーランス編集者・ライター。専門は文字文化だが、現代美術や音楽にも関心が強い。30年ぶりにピアノの稽古を始めた。生きているうちにバッハの「シンフォニア」を弾けるようになりたい。


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