歴史に見る「おカネに困ったとき」には(1)── 江戸時代の改鋳と贋金


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ここ数年、若者が紙幣偽造の罪で逮捕されるといった事件が多発しています。
捕まった当人にしてみれば、興味本位や軽い気持ちだったのでしょうが、精巧な複製機能をもつコピー機やスキャナーで大量偽造した偽造通貨を行使した場合、その罪は国家経済の根幹を揺るがす事態にもなりかねません。

偽造通貨の歴史は古く、わが国最古の貨幣、和同開珎(わどうかいちん、わどうかいほう)が出ると同時に、私鋳銭(個人が勝手に作った銅銭)が作られ始めました。これは「贋金(にせがね=がんきん)」と呼ばれるもの。贋金による犯罪の歴史は長く、世界中にさまざまな記録が残っています。今回は、江戸時代に行われた貨幣の改鋳と贋金づくりについて紹介します。
 

複雑な貨幣制度 ── 金貨・銀貨・銅貨

 
江戸時代は、金貨・銀貨・銅貨の三貨制でした。
金貨は、主に大名や上級の武士などの贈答用などに使われ、銀貨は商人の取引などで使われ、庶民が日常的に使う貨幣は銅貨(銭貨)でした。

金貨・銀貨などには、「品位」という基準があり、貨幣に含まれている金や銀の量によって決まります。しかし、金銀は基本的に鉱山から採掘されるものですから、貨幣経済が拡大して採掘量が増えてしまうと、資源は枯渇し、結果的に貨幣量を増やすことができなくなり、財政難となります。

徳川幕府は、財政が厳しくなると、量目(目方)や品位を落として(金銀の含有量を落として)貨幣を改鋳して財政難をしのいだのです。
元禄の改鋳では、金の含有量が87%だった慶長小判は、含有量57%までに下げて改鋳されました。
つまり、2枚の慶長小判から3枚の元禄小判が作り出されたことに。そして、古い小判を回収し、小判を市中に戻したのです。

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差益目当ての貨幣改鋳

 
増えたぶんは幕府の金庫に入ります。
この差益は「出目(でめ)」と呼ばれ、元禄の改鋳では幕府の利益は500万両にのぼったと言われます。幕府はこれに味をしめ、改鋳はこの後もたびたび行われました。

この結果、悪貨が市中に大量に出回ることとなり、幕末になると小判は信用を失って、経済が混乱するひとつの原因になっていきます。
なかでも、幕末の万延小判の目方は慶長小判の半分ほどで、金含有量も、56%ほど。改鋳は通貨発行権を持つ国家が行うことで、贋金とは異なりますが、タガのゆるんだ幕府によるたび重なる改鋳は、現在の日本の財政政策とも重なって見えます。
 

官民挙げての贋金づくり

 
もちろん民間でも贋金事件は起こっています。
安政5(1858)年には、業平橋近くの料理茶屋・在吾庵を舞台にした贋金事件が明るみに出ました。
これは江戸時代の銀貨を鋳造していた銀座の複数の関係者が銀貨を偽造した事件で、その額は8000両。金貨・銀貨の偽造は重罪で、打ち首にされました。

さて、幕末になると、幕府の財政事情はいよいよ厳しくなってきました。
しかも外国からの圧力や、朝廷をいただいて新政府を樹立しようとする尊皇派との争いも頻発します。
戦争、そして政治活動にはもちろんお金がかかります。これに音を上げて、各地の藩では、贋金の鋳造に手を出し始めることになります。
 

薩摩、秋田、加賀、広島、筑前藩も贋金を作っていた!?

 
たとえば、薩摩藩は文久2(1862)年に、「琉球の警護に必要だから」という名目で、時限つきで「琉球通宝」を鋳造する許可を幕府から得ました。
ところが、薩摩藩はこれを隠れみのに、実際に通用している「天保通宝」を偽造していたのです。このときに偽造されたのは、なんと290万両だったといいます。これに続いて、二分金も偽造しました。これはもう贋金と言っていいものでしょう。
あまり知られていませんが、薩摩藩が明治維新で主導的な立場を果たすことができたのは、この贋金も大きな原動力だったようです。
加えて、秋田藩、加賀藩、広島藩、筑前藩なども贋金を作っていました。
幕末の志士であり、株式会社の礎をつくった土佐の坂本龍馬も、戦費調達のための贋金づくりに、関心を示していたといいます。

── いつの世もおカネに困ると、民間であろうが、国家であろうが、なんとか足りない部分をひねり出そうと、あの手この手を考えるようです。
特に中学生、高校生のお子さんをお持ちのご家庭であれば、軽い気持ちでコピーした紙幣をコンビニなどで使ったらどうなるのか……。おカネの怖さ、おカネの大切さといった話を、ぜひ普段からしておきたいものですね。
 
 

≪記事作成ライター:帰路游可比古[きろ・ゆかひこ]≫
福岡県生まれ。フリーランス編集者・ライター。専門は文字文化だが、現代美術や音楽にも関心が強い。30年ぶりにピアノの稽古を始めた。生きているうちにバッハの「シンフォニア」を弾けるようになりたい。


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