Soft Brexit模索するメイ英首相


メイ英首相は、英国のEU(欧州連合)を離脱する基本政策を発表しました。予想通り「EU単一市場には残ることが出来ない。」として離脱の方針となりました。移民の流入、そしてEUの法的縛りを嫌い英国独自の法の下で活動したいという2つの大きな制約からの解放を意味します

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画像:ロイター通信 17/1/17 

しかし1/17のメイ首相による演説の場の背景には、「A Global Britain」との文字が踊っています。この意味するところは、英国がポピュリズムや保護貿易主義といった狭小な国に陥ることなく、世界に開かれた国家であることを宣言するということにあると思います。
英国は確かにEUメンバーから離脱することになりますが、依然として欧州の一員であるとメイ首相は強調します。関税同盟からは離脱するものの、EU各国と関税同盟に代わる新たな協定を結び、今後も自由貿易を求めるとしています。
EUに危害を与えるつもりはなく、そして欧州と前向きで建設的な関係を築きたい。
極力、Hard Brexit(強硬な離脱)の印象を薄め、Soft Brexit(穏健な離脱)に近い印象を今回のEU離脱に関して、性格付けをしたいとのメイ首相の思惑であると思います。
英国民の総意であるEU離脱の決定を重視し、移民問題が最大のBrexitの理由付けであるとしました。しかし、最終的なEU離脱の最終案は議会の採決にかけるとしています。

A Global Britainと言うことですが、今後EUとの貿易取引の縮小も予想されます。IMF(国際通貨基金)は今週世、界の経済成長率予想を発表しました。それによると、今年の英国の経済成長率は1.5%と10月時点よりも0.4%上方修正されています。しかし来年の予想は1.4%と10月時点から-0.3%下方修正されてもいます。
英国は今年3月にEUに対して正式に離脱を通告、そして2年後の19年3月に離脱でEUと合意するシナリオです。もし19年3月に合意しなければ、長期化する可能性も残されています。このようなプロセスの過程で、英国経済が縮小へと向かうシナリオをIMFは描いているのでしょう。
単一市場へのパスポートを放棄するので、本邦金融機関、製造業などが、英国に拠点を構えEU全経済圏に企業活動を行っていたというメリットがなくなります。そのために、大陸、例えばフランス、ドイツ等に新たな活動拠点を構える必要が出てくることになります。次第に英国から大陸各国にその比重が移されることになるため、その結果の経済活動の縮小ではと思います。

しかし、メイ首相は何としてもそのような事態を防ぐための方策を考えるのではと思います。EUがメインパートナーであることには違いありませんが、その他地域との経済活動をより積極的に進めるのではないでしょうか。
BBC(英国国営放送)はトルコ、カナダとのモデルケースを示していました。トルコは欧州の隣国で、経済的にはほとんどEUメンバー並みの貿易協定をEUと結んでいます。また永世中立のスイスにしても、特に金融に関しては、何ら支障がない金融取引をしています。
そしてノバルティス等の製薬会社、ABB等の重工業会社など、特に不当に高い関税が課せられているという訳ではありません。こと金融に関しては、ロンドンのシティという欧州の一大取引所としての立場が直ぐに崩れるというものではないでしょう。長年築いてきた基盤というものが盤石であると言えます。そんなに危機感を持つほどのものではないのではと筆者は楽観視しています。

貿易に関して、対EUとの貿易縮小という損失に対して、英国はこれまで以上に、グローバル化の下、海外展開を進め、失うと予想される貿易額を補うのではと思います。アジア、その中でも特に中国との関係強化。そして米国との結びつきを深めるかもしれません。
メイ首相が演説の中で出されていたインドなど、大英帝国時代に旧植民地であった国々との経済的関係を深める動きも強めるようです。英連邦会議なるものも毎年開催されており、英語と言う共通の言語を通じて、経済活動の関係を進めることになりそうです。これが「A Global Britain」の意味するところと察します。
英国はEUとの経済的損失を最小限にとどめて、グローバル化に活路を見出すのではと思います。その意味では、メイ首相の頑張りによっては、経済学者、エコノミストが予想する程、英国が縮小経済に陥る可能性は意外と少ないのではないかと思います。

メイ首相の演説に対する反応がEUからの今後出てくることが予想されます。余りにも英国に都合の良い演説内容から、Brexitに対して強硬な意見が噴出してくることが予想されます。いいとこ取りは許さない、という姿勢は崩さないのではないでしょうか。
移民は受け入れることなく、関税のかからない自由貿易を希望するとの内容に、メルケル独首相、オランド仏大統領は、不快感を示すのではと予想されます。また2年の間にEU加盟27ヶ国と個別に貿易交渉を進めるということについては、人材、時間共に足りないのではと思います。
またスコットランド等の独立の機運を再び呼び起こすことが想定されます。スコットランドは単一市場にアクセスできないことには反対の姿勢です。北海産原油のリグ(石油プラットフォーム)が近く、そのメリットが損なわれることには反対なようです。

ポンドの動向、国の信用を占う英国国債(ギルト債)の動向を見ましょう。ポンドは対ドルの動きを見ます。下記のチャートは17年からの3年間の期間のチャートです。これを見ると長期的なポンド安のトレンドを示しています。
緑の丸で示した部分は昨年6月の国民投票の結果Brexit賛成を決めた局面です。1.50から1.30を下回る動きとなりました。今回直前メイ首相はHard Brexitの内容の演説になるとの予想がありましたが、実際はかなりSoft Brexitを希望する内容であったため、大きくポンドが戻すことになりました。
しかし、今後EU首脳から厳しい発言が予想され、また自由貿易の交渉が順調に行くとの保証もありません。IMFの予想通り、英国のマイナス成長が中期的には見えてくることになります。その意味では中期的には1.10方向に進むと考えるのが素直です。
ギルト債については、10年債1.30%水準と利回りに変動はほとんどありません。英国安全資産としての立場に現在の所揺らぎはないようです。

本邦投資家としての見解です。
英国金融商品は、為替についてはポンド安傾向が中期的に続くと予想します。そうなると購入対象には不適切と言えます。
一方で、英株式、英債券はそんなに資産価値が下がることはないのではと思います。前段で説明した通り、メイ首相はEUとの経済的損失をその他経済圏に活路を見出し、成長経済を維持する努力を怠らないのではと思うからです。
今年も海外金融商品をポートフォリオに組み込むことには慎重でありたいものです。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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