欧州:今年の政治リスクを意識


今年欧州は政治リスクを大いに感じる金融市場ではないかと思います。
昨年6月の英国のEU離脱(Brexit)を問う国民投票の結果、国民の半数以上がBrexitに賛成の票を投じました。そして米大統領選挙では、米国第一主義を唱えるトランプ大統領が誕生する結果となりました。共に共通する点は、自国の利益を重視する政策が国民に支持を得たと言えます。
英国も米国も、自国経済を優先した政治、経済政策を打ち出しています。ある意味保護主義的政策にも映りますが、自国経済を活性化したく、自国民を豊かにする政策を次々に打ち出していると言えます。英国はメイ首相のEU離脱の基本政策を発表する背景に「A Global Britain」の文言が踊っていました。決して保護主義的政策を打ち出すとは言っていません。
そしてトランプ大統領は、TPP(環太平洋戦略的経済提携協定)から撤退し、2国間の貿易交渉を進めることで、自国有利の経済政策を打ち出したい戦術を全面的に打ち出しています。保護主義と一方的に決めつけるのは危険なようです。自国有利な政策を打ち出す流れが、今年欧州で益々強まる可能性が、今年の政治、つまり選挙スケジュールから読み取れます。

まずは3月のオランダ総選挙に注目が集まります。オランダも北部欧州と同様に、移民が多く住む国と言えます。反移民、反イスラム、反EU(欧州連合)を掲げるウィルダース党首率いる極右政党「自由党」が現在僅かにリードしているとメディアは報道しています。
そこに対し、ルッテ首相率いる「自由民主党」が迫っています。自由党が第一党になったとしても、自由民主党が連立政権を模索するため、一概に極右政権誕生とはなりません。しかし欧州諸国及び国民に与える影響は大きいのではと思います。

そしてフランス大統領選挙を4月、5月に迎えることになりますが、こちらも接戦が予想されています。ルペン党首率いる国民戦線が、英国、米国のポピュリズム的流れの追い風を受けていると言えます。こちらもフランス第一主義、反移民、反イスラム、そして反EUを主張して支持を集めていますので、国民の心理がどうしても英国など他国の選挙の結果に迎合する動きを示していると言えます。
共和党のフィオン候補は、夫人の不正給与支払い問題というスキャンダルに見舞われて、支持率を落としている現状です。有力候補が乱立しており、第一回投票では過半数の得票を得る候補者は少なく、第二回投票の決選投票に持ち込まれそうです。この動きからフランス国債10年は、国債売りの利回り上昇の動きが顕著になっています。投資家が不安になっている心理が利回り上昇の動きになっていると言えます。
下記は10年フランス債のグラフ(出所:米Market Watch)です。1年の期間で示しています。これを見ると昨年6月後の英国民投票の結果を受けた時点では0.50~0.00%とリスク回避の動きから債券買いの利回り低下の動きとなりました。しかし11月の米大統領選挙の結果を受けて0.50%以上の利回り上昇の動きとなりました。投資家が次第にフランスでもルペン党首がひょっとして大統領になってしまい、フランス第一主義の政策を打ち出すのではとの懸念が高まってしまったと言えます。
そして今年の動きとして、ルペン党首が大統領選挙でトップに躍り出るとの観測が強まっていることで、利回りが1.14%まで上昇しています。3月に入るとオランダの総選挙を気にする動きが強まります。そして4月に入ると世論調査の結果に債券利回りが大きく変動する可能性があると言えます。
利回り上昇は債券売りですから、投資家がフランス国債に慎重姿勢を強める、つまり投資対象ではないことを示していると言えます。5年の期間で見ると2012年には3.00%を超える利回りを示しています。従ってルペン党首が仮に大統領になり、EUから離脱する政策を打ち出したりすると、2. 00%を超える利回りも想定できます。フランス大統領選挙リスクも意識したいところです。

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次に来るのは、選挙日程が未定のイタリア解散総選挙です。今年前半にも総選挙が予想されていますが、事の顛末は昨年12月に行われたレンツィ前首相が憲法改正の是非を問う国民投票でした。イタリアは多数派の暴走を防ぐため、上院と下院に同等の権限を与えています。この状態を解消し、下院に大きな権限を与えることで、政権運営をスムーズにする憲法改正案を問いました。結果否決され、レンツィ氏は辞任することになりました。現在はマッタレッラ大統領から指名されたジェンティローニ首相が仮に務めている状況にあるようです。
予想される総選挙では、米国、英国の流れを受けて、イタリア第一主義を掲げる政党が勢力を伸ばすのではと予想されます。コメディアン出身のグリッロ氏率いる政党である「五つ星運動」が躍進することが予想されます。イタリアは多額の不良債権を抱えるモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行の再建問題を抱えています。政治と金融面で不安を抱えるイタリアの現状であると言えます。
イタリア国債10年の利回りは、昨年年央は1.00~1.50%で推移していましたが、米大統領選挙、そして国民投票の結果を受けて2.00%前後にまで上昇してきており、現在は2.24%と上昇の動きを強めています。こちらも2012年には6%超の利回りを示しており、今後の不透明感からは上昇する動きが加速することを想定しておいた方が良いのではと思います。

今年後半のヤマ場は9月予定のドイツの総選挙です。難民に寛容な政策を打ち出しているメルケル首相には向かい風の状況と言えます。世論調査では、次期首相候補のシュルツ欧州議会前議長がメルケル氏を上回る結果を示しています。経済がしっかりしているものの、欧州のポピュリズムの流れには抗することが出来ない状況にあるのではと思います。
昨年の英国、米国そして今年の欧州各国の総選挙、大統領選挙の流れを受けたドイツの総選挙には注目が集まります。同じドイツ語圏のオーストリアでは反移民を掲げる極右政党の台頭が顕著であり、ドイツもその風潮が感染してくるのかもしれません。ドイツ連邦債10年は現在0.35%とユーロ圏各国の債券利回りと比べれば、まだまだ債券買い、つまり利回り低位の流れになります。やはりドイツの債券はユーロ圏の盟主の動き、最後の砦と言えます。この牙城が崩れる動きになるのか、それともやはりドイツ連邦債であると確固とした地位を確保するのか注目したいところです。

このように見ると、今年は欧州各国で政治の季節であると、金融市場は強く意識することになります。皆さんも投資家の立場でこのような動きを注視しないといけないと言えます。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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