なぜシャープと鴻海の交渉は難航するのか


クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

電子機器受託製造サービス大手の台湾・鴻海精密工業が経営再建中のシャープに対し、三者割当増資で1000億円超の出資を検討しているもようだ。

しかしシャープは出資により、鴻海がシャープの経営権に影響を及ぼすことを懸念。両社の交渉は難航している。両社は出資を巡って、2012年に交渉をスタートしたが、折り合いがつかず、交渉は凍結された経緯がある。両社の交渉はなぜこれほどまでにこじれるのか。この詳細についてカイセツする。

シャープと鴻海、サムスン

鴻海は2012年3月末、業績が悪化しつつあったシャープに対し、当時の全株式の9.9%を1株当たり550円で買い、総額約670億円を出資することで合意した。ところがその後、シャープの所得隠しが発覚し、同社の株は急落。含み損を抱えてしまうことを懸念した鴻海側は上記の条件の変更とシャープの技術供与を要求したものの、シャープは難色を示し、交渉は暗礁に乗り上げていた。

その後、シャープはサムスンからの出資を受けることを決断。サムスンの日本法人、 サムスン電子ジャパン(東京・千代田)を引き受け先とする第三者割当増資を実施し、1 株290円で発行済み株式の3.04%に当たる103億円の出資を受けることを決定した。しかし、シャープにとって103億円程度の規模は同社の経営にそれほど影響を及ぼすものではないが、非常に小額で「焼石に水」であるとの意見も出ていた。

こうしてサムスンに出し抜かれた鴻海であったが、いまだにシャープへの関心は高く、交渉再開に意欲をしめしているようだ。鴻海は今年になり改めて、1000億円を出資することを検討していることが明らかになった。2015年4月3日付の産経WESTの報道によると、鴻海はシャープ買収を通じて、コストの削減とシャープの技術力と鴻海の販売網を生かした相乗効果をねらっているという。また受託生産を得意とする鴻海は、シャープの白物家電の生産を請け負いたいなどの目論見があるようだ。同メディアは、鴻海はシャープのブランドを利用して中国市場を開拓する狙いがあると分析。鴻海は2010年に独流通大手メトロと合弁で家電量販店を中国で展開したが、撤退した経緯がある。

経営権を守りたいシャープ

一方、シャープは、鴻海が1000億円規模の大型出資をすることでシャープの経営に大きな影響を与えると懸念している。事実、1000億円規模の出資となると、鴻海の出資比率は20%を超えることになり、シャープは鴻海の連結子会社になってしまう。シャープ内部からは、シャープ独自の技術が流出することを懸念する声が出ている。

また、シャープが鴻海の出資に難色を示す背景には、会社利益を上げること以上に、純日系ブランドを日本人の手で守ることで、イメージダウンを避けたいという意思も働いているかもしれない。

2012年5月23日付日本経済新聞の記事によると、2012年の両社の交渉で、シャープの会長(当時)の町田勝彦氏は鴻海董事長の郭台銘氏に対して、鴻海のグループ会社4社程度を使って、それぞれ出資するよう頼んだという。1社が集中して買収すると、有価証券報告書の主要株主欄にその会社名を書き入れなければならず、町田氏はそれを嫌ったものとみられる。鴻海との交渉をまとめると、役所、銀行、メディアから叩かれる可能性があり、経営再建中のシャープとしては当時、そのようなトラブルを避けたかったようだ。

日系家電メーカーは技術力を武器に、1980年~1990年代、世界中を席巻した。日本の国内市場でも消費者の信頼は厚い。一方、いまの世界をみると、サムスンやLGなどの韓国勢やハイアールやレノボなどの中国勢の台頭で情勢は急速に変容している。日本勢としても、こうしたグローバルな流れを冷静にみつめながら、ベストな選択をしていきたいものだ。

ライター 藤川健太郎

参考文献:

http://mainichi.jp/select/news/20150329k0000m020080000c.html
視点:なぜ、ここまでこじれているのか?・債権者と出資者で利害が対立することも影響しているのか?・今後のシャープの動向は

シャープ所得隠し、鴻海社長が不満、
http://biz-journal.jp/2014/06/post_5221.html

資本提携のさそい、シャープ技術流出心配
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/business/sankei-wst1504030013.html

http://news.goo.ne.jp/article/businessi/business/fbi20150402023.html

参考 サムスンとシャープの関係
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/130316/wec13031612000005-n1.htm

解散請求
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/5526729.html

鴻海の食指を伸ばす内容について
http://www.sankei.com/west/news/150403/wst1504030020-n1.html

参考:
http://diamond.jp/articles/-/38667

 3月に入るとシャープと鴻海(ホンハイ)精密工業の交渉は詰めの段階に入った。

 シャープ本体への出資は解散請求権が発生しない10%未満。液晶の堺工場の運営会社シャープディスプレイプロダクト(SDP)への出資はシャープと同率とし、生産するパネルの半分を鴻海が買い取る。資本提携の大枠が固まっていく過程で、シャープ会長(当時)の町田勝彦(68)は鴻海董事長の郭台銘(61)に1つの条件を出した。

記念写真に納まるジャパンディスプレイの大塚周一社長(中央)ら(2日午後、東京・大手町)
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記念写真に納まるジャパンディスプレイの大塚周一社長(中央)ら(2日午後、東京・大手町)
 「郭さん、あんたのグループにはいろんな会社があるやろ。それを使って(シャープ本体への出資を)4つくらいに分けてくれんか」

 郭はけげんな顔をした。4つに割ろうが5つに割ろうが、鴻海グループがシャープに9.9%出資することに変わりはない。なぜ、そんな面倒な事をするのか。鴻海がまとめて9.9%を出資すると有価証券報告書の「主要な株主」の一番上に鴻海が来る。町田はそれを嫌った。

 「金融機関が一番上にいればいいのか」「そうだ」

 「日本というのは変な国だな」

 (この交渉をまとめたら役所にも銀行にもメディアにも、間違いなくたたかれる。ここは鴻海の名前が目立たん方がええ)

 そんな町田の胸中を知らぬ郭は、しきりに不思議がった。

 シャープが鴻海と交渉を始めた昨夏以降、日本ではもう一つの「液晶再編」が進んでいた。ジャパンディスプレイ。東芝、日立製作所、ソニーが中小型液晶事業を統合し、産業革新機構が2000億円(70%)を出資する「日の丸連合」である。

 テレビ用の大型液晶パネルでは日本はサムスン電子など韓国・台湾勢に惨敗したが、スマートフォンやタブレット端末で使う中小型液晶ではまだ優位。競争力があるうちに国内メーカーを糾合し、国産液晶の最後の砦(とりで)にする。それが経済産業省の狙いだった。

 液晶パネル事業でシャープより先に鴻海と提携交渉していた日立は、結局、ジャパンディスプレイに乗り換えた。「日本の総力を結集すべきだ」。11年の中小型液晶市場で世界1位だったシャープも、再三にわたって誘われたが町田はこう考えた。

 (事業っちゅうのは、腹をすかしたもんが目の色を変えてやらんことには成功せん)

 町田は日の丸護送船団に背を向け、腹をすかせた鴻海の手を握った。(敬称略)


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