2019年前半の世界経済を振り返って


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今年も半年が過ぎ去りました。皆さんは今年初めに想像していた経済金融の風景は、今の風景と大きく違っていたでしょうか?それともほとんど同じであったのでしょうか?

そして、資産は理想の通りに増えましたでしょうか?どうにも芳しくなかった、と思っている方が多いのではないのでしょうか。
今回は、いったん立ち止まり、2019年の上半期を振り返りたいと思っています。

米中貿易摩擦の影響色濃く

一言で表現すると、米中貿易摩擦の影響が経済金融全般に暗い影を落とした状態が続いている現状と言えます。
金利安、ドル安、株価の米国一人勝ちの様相、そして商品価格の上昇という内容です。
まずは筆者の金融界での一丁目一番地である金利と為替動向を振り返ってみましょう。

金利においては、主要先進国の債券利回りが急低下の動きとなった上半期でした。
やはり米中貿易摩擦の経済への悪影響を意識した投資家の動きです。市場はリスク回避モードであり、債券を積極的に購入する動きとなりました。FRB(米連邦準備理事会)が金利引き下げを示唆し、10年米国債で見ると2%近辺まで下がってきています。
下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は過去1年間の利回りの推移を示しています。グラフの右半分の動きが今年の動きです。これを見ると年初には2.50%近辺の利回りを示していました。

米中貿易摩擦の影響でかなり楽観論が出ており、FRBは辛抱強く(patient)という文言を使い、現状の金融政策を継続するとの印象を強めました。
しかし現実にはどんどん悲観論が噴出し、今月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、辛抱強くとの文言は削除され、適切に行動する(act as appropriate)という表現に変わり、市場に近いうちに政策金利(FF金利)の引き下げ観測が強まりました。

ファーウェイ製品では譲歩あるも通信技術競争は終わらず

6月28-29日にG20が大阪で開催され、米中首脳会談では、5月以来決裂していた米中貿易協議の再開、そして知的財産権移転、安全保障上に問題に関わる中国大手通信機器ファーウェイに対して、一部米国製品の販売を認める方針となりました。
米国は3,000億ドル相当の第四弾追加関税は先送りするとし、やや譲歩したなとの印象を筆者は受けています。今週から、リスク志向の金融市場となるか見守りたいところです。
しかし米中の貿易を巡る問題は、根本的には米国、中国のハイテクを巡る覇権争いがあり、問題は容易に解決できるものではありません。
筆者は短期金利先物(3ヶ月物)の動きにFRBの今後利下げの幅(スプレッド)があるのか参考にしていますが、6月28日現在12月限1.925%、来年6月限1.63%の水準となっています。
現在のFF金利の上限金利は2.50%です。単純に考えると、今年年末までに、0.50%の利下げがあり、そして来年6月までには更に0.25%もしくは0.50%の利下げがあると金利ディーラーは読んでいるのではないかと推測しています。金融市場の相場観は往々にして極端から極端に一気に行ってしまう傾向がしばしば見られます。

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米GDPは好調も他国は追従できず

重要なのは短期金利先物のイールドカーブ(利回り曲線)がどの時点で最低利回りを示し、反転してくるのか。
つまり底はどのあたりであるかを短期金利ディーラーは読んでいるのかであると筆者は考えます。
現状では2021年3月限1.455%に位置します。景気が更に悪化し、追加利下げがあるのではと読めば、この限月から更に延びます。反対に景気が戻ってくると判断すれば、この限月から手前に金利の底が見られることになるのではと思います。

米経済は現在GDP(国内総生産)も直近第1四半期では3.1%と非常に好調です。冷静に米国経済を見ると、結構良いのではと言うのが筆者の感想で、金利の底も前に来るのではと推測します。
その他失業率を見ても他の主要経済圏よりも遥かに良い数字となっています。結果として筆者は、今年は米国の景況感、その他経済圏の金利政策を鑑み、最大0.50%の利下げもあるのかなと思うのですが、来年は再び辛抱強くとの政策に再び戻り、FF金利据え置き、景気の推移を見守る動きを強めるのではないかと思います。引き続き中期的米中貿易摩擦の進展を見守る動きが今年下半期も続くのではと思い描いています。

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欧州圏では政局含め不安定な動き

次に欧州、日本、その他主要先進国の債券市場を見てみましょう。欧州の債券市場でのリスク回避の利回り低下の動きが継続しています。
指標銘柄の独連邦債10年金利は、年初0.22%でしたが、現在は-0.35%近辺とマイナス金利となっています。景況感は、米国よりも圧倒的に悪化していると言えます。
ユーロ圏経済では一番大きなドイツは、第1四半期GDP:0.7%と米国の3.1%と比較すると非常に悪いと言えます。ユーロ圏全体の数字も1.3%とこちらも米国と比較すると非常に悪く、英国の債券利回りも低下を続けています。
英ギルト債10年を見ると、年初1.25%でしたが、現在では0.80%近辺と0.50%程度低下しています。EU(欧州連合)からの離脱(Brexit)が依然としてこの国の政治経済の大問題と言えます。
メイ首相も交代する予定であり、後任にジョンソン前外相が就任するのではと観測されています。ジョンソン氏が次期首相に就任された場合には、合意のある離脱を目指しているようです。
しかし政治的に混乱期にあり、Brexitの正確な見通しは依然として不透明と推測されます。混迷が続き、こちらも債券利回り低下の動きとなっています。

ユーロ圏債券市場でも軒並み利回り低下の動きになっています。直近では、10年国債で見ると、仏:-0.01%(年初:0.75%)、オランダ:-0.16%(年初:0.40%)とマイナス圏まで低下してきています。
財政問題で注視されるイタリア:2.10%(年初:2.95%)と、五つ星運動出身のサルビーニ副首相が財政規律を守らない姿勢を示しているにも関わらず、この利回り低下の動きです。慢性的に財政問題が注目されるギリシャでも2.50%(年初:4.35%)と債券市場のリスク回避の動きが止まらないようです。

スペイン債は市場のリトマス試験紙に

筆者が個人的に注視しているスペイン国債の動きについてちょっと解説します。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)はスペイン国債10年の過去1年の動きを示しています。
年初には1.55%水準でしたが、直近では0.40%を実に1.15%の利回り低下の動きとなっています。スペイン経済はユーロ圏の中で優等生的立場にあります。
第1四半期GDP:2.4%とユーロ圏主要4ヵ国の中では断トツの一位ですが、観光立国の立場を活かしたサービス部門が好調なようです。
世界の金融市場の荒波に飲み込まれるリスク回避資金が集まっているスペイン債。6月中旬にスペイン政府が募集した10年債60億ユーロは発行に対して、実に275億ユーロの応募があり、4.6倍近い応募倍率となりました。如実に現状の債券市場の状況がリトマス紙として映し出されています。

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まとめ

今回は為替、そして株式、商品市場にまでは至れない債券市場の解説となりました。次回以降に解説する予定でいます。今回解説を省いた日本、そしてオセアニアの国債利回りも急低下しています。
安全志向に継続して向かう世界中の投資家の資金の動きの現状としては、米中通商協議の行方が一番の注目点には変わりありません。
明確に米中関係の急速な改善が見られないと、債券市場から株式市場などのリスク商品に大量の資金が向かい始めるのは現状では期待できません。
依然としてローリスク、ローリターンで満足しないといけない金融市場の現実を認め、ミドルリスク・ミドルリターンなクラウド商品に益々注目が集まる金融市場ではないかと思います。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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