2019年の映画興行収入が、史上最高となる2550億円を突破!


劇場にしばらく足を運んでいない人が多くなったいま、2019年は、映画界にとって記念すべき“いい年”になったようだ。

というのも、現在の公表形式に変わった2000年以降、史上最高の興行収入2550億円に到達する見込みだといわれているからだ。同様に入場者数も過去最高になるという。
映画会社系列シネコン(シネマコンプレックス)大手3社が入場料を100円アップし、最大1900円に価格変更しながらのこの快挙は、いったい何が功を奏したのか、今回はその理由を探ってみよう。

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100億円超のメガヒット作品が続出

かつてビデオデッキが家庭に普及し始め、街にビデオのレンタルショップが雨後の筍(たけのこ)のように乱立した頃、もう映画館に足を運ぶ人はいなくなるのではないかと危惧されたことをご記憶の人も多いだろう。
そしてたしかに、一時期入場者数は大幅に落ち込んだが、当時、巨匠といわれ『お葬式』『マルサの女』の監督としても知られる伊丹十三監督が次のように言ったのを思い出す。

「結構です。どうぞ皆さんビデオを借りて観てください。でも、きっとまた映画ファンは劇場に戻ってくると信じています」。

それがいま、まさに現実になったのだ。インターネットによる配信やテレビの有料チャンネルなど、映画をとりまく環境はビデオ普及のころよりさらに厳しさを増しているにもかかわらず、劇場に足をのばす客は確実に増えている。とくに最近では『君の名は。』が250億円の空前のヒットを飛ばした2016年、興行収入2355億円、入場者数1億8018万人と最高の記録を残した。そして2019年は、その2016年をさらに上まわり、興行収入2550億円、入場者数1億9000万人を突破するのが確実になった。この「1億9000万人を突破」は2億人超えも夢ではない数字となる。

最大の功労者はディズニー!?

新海誠監督のアニメ『天気の子』が興行収入140億円
ディズニーアニメの実写版『アラジン』が121億円
人気アニメのシリーズ『トイ・ストーリー4』が100億円
このように3ケタに到達する映画が3本も生まれている。さらに11月下旬に公開された『アナと雪の女王2』も、お正月をはさんですでに112億円に達している。2018年の100億円突破が『ボヘミアン・ラプソディ』の1本だったことと比べると、昨年の映画界がいかに好況だったかがわかる。

この興行収入史上最高をもたらした最大の功労者は、なんといってもディズニーだ。下に掲げた興行収入ベスト10のうち4作品(2位、3位、4位、6位)がディズニーで、そのうち3作品が100億円超えというからすごい。ディズニーの作品は大人から子どもまで安心して楽しめ、しかも実にていねいに仕上げているのが、観ていてよくわかる。日本だけでなく、欧米、アジアなど世界中でヒットを飛ばしている。

また、安心して見られる映画だけでなく、エッジの効いた大人向け作品も2019年は大ヒットを記録した。バットマンの敵役として有名なジョーカーが、凶悪な殺人鬼へと変貌を遂げるプロセスを描いた映画『ジョーカー』は、米国でR指定映画(年齢制限を設けた作品)の興行収入の記録を塗り替え、日本でも大ヒットとなっている。
注目は、ディズニーの『アラジン』、そして『ジョーカー』は、それぞれ映画館の閑散期といわれる6月と10月に公開されている点だ。従来なら客足の落ちる時期に、こうした実力ある作品が発表されたことも、全体の興行収入を押し上げた理由ともいわれているようだ。

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さらに洋画ばかりでなく、邦画でもアニメばかりでなく、『翔んで埼玉』や『キングダム』など、映画業界を超えて、ニュースなどで話題になるほどの力作がラインアップ。全体の興行収入を押し上げた。

観客本意の環境を整えた映画館の努力が実った

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史上最高の興行収入は、確かに昨年発表された作品の実力に負うところは大きいのだが、それだけではない。いっときどん底を経験した映画会社、映画館の懸命な回復への努力も見逃せない。とくにここ数年、映画館は大きく変貌を遂げている。

そのひとつがシネコンの存在だ。シネコンとは「cinema complex」の略で、ひとつの建物の中に、複数のスクリーンを持つ映画館のこと。

スタートは、地方都市の主要道路沿線に、大きな駐車場をそなえたショッピングモールなどと併設され、地方の活性化にひと役買うことが目的とされたのだが、このシネコンのスタイルは成功し、次第に定着していった。そしてここ数年、東京など大都市のターミナル周辺にも、続々シネコンが誕生している。
例えば東京の新宿には、駅周辺のたった数百メートルの範囲内に3つもシネコンがある。どれもが同じ映画を同じタイミングで上映することも多いのだが、人気作品ともなれば、どのシネコンも満員ということがしばしばある。

鑑賞スタイルが変わり、アトラクションと化したシネコン

でも、なぜこんなにシネコンに人が集まるのか? シネコンは、かつての映画館とはずいぶん趣が異なることをご存じだろうか?

たとえば新宿のあるシネコンの場合、ひとつの建物に12ものスクリーンがある。今公開中の話題の映画がズラリとならんでいて「どれでもお好きな作品をどうぞ」という品ぞろえだ。しかもロビーの電光掲示板には、どの映画が満席なのか、あるいは空席があるかがひとめでわかるように表示されており、それによって人気の度合いもすぐにわかる仕組み。
さらに、ひとつひとつの場内の座席数は限られているものの、事前予約と定員制が徹底しているため、立ち見という概念はない。その代わり1日に5回くらい上映を重ねるので、その回が見られなくても、チケットだけ購入しておいて、少し時間をつぶせば次回の上映は必ず座って見ることができることになる。

また、鑑賞のスタイルも幅が広がっている。通常の鑑賞のほかに、3DメガネをかけてのIMAXや、座席が前後上下に振動し、水しぶきや匂いといった臨場感も体感できるメディアメイションは、劇場ならではの特典だ。例えば、ヒーローが敵と海や川で戦うシーンでは、作品世界さながらの雰囲気を体感できるなど、映画鑑賞の迫力や魅力は大きく様変わりし、いまやアトラクションの色合いが非常に濃くなっている。

さらには劇中の出演者といっしょに歌がうたえる「応援上映」まで広がっている。こうなるとちょっとしたテーマパークだ。映画の作品を見ることと同じくらい、映画館で過ごすことが、ひとつの楽しみになっている。これは自宅のDVD鑑賞では味わえない魅力だ。

──昔のような場末にひっそりたたずむ映画館とはまったく異なる世界が広がっているのが、今どきの映画館。これらは作品の質の向上とともに、なんとか客を映画館に足を運ばせようとした関係者の努力のたまものといえるだろう。映画は、また新しい魅力を備えた娯楽の王道のひとつとしての地位を復活しつつある。これからもっと大きな変貌を遂げていくだろう。

≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロデュースを手掛けている。


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