収入を得れば所得税、会社を作れば法人税、モノを買えば消費税、家や土地を持てば固定資産税、住めば住民税、贈れば贈与税、親からもらっても相続税……と、生きていくためには実にさまざまな税金を支払わなくてはならない。
われわれを取り巻くほぼすべてのものに税金がかかっているわけだが、それでも国はまだまだ税収不足だという。
もしかしたら近い将来、新しい税金が誕生するかもしれない。そんなわれわれ庶民の心配をよそに、「走行税」という新税の導入が検討されていることをご存じだろうか。この「走行税」とは、自動車で走った距離に応じて税金がかかるというもの。
すでに導入されている国もあるようだが、果たしてわが国では国民の理解を得られるのだろうか。もちろんまだ導入が決まったわけではないが、政府は少しでも税収を上げたいわけだから、今後の政治の流れ次第ではおかしな(!)ことにもなりかねない。今回はそんな走行税について調べてみた。
走行税とは、一体どんな税金なの?
自動車には現在どれくらいの税金が課せられているのだろうか。購入段階には消費税はもちろんのこと、自動車取得税にかわって2019年10月1日から導入された環境性能割がかかっている。保有段階では自動車重量税と自動車税(軽自動車は軽自動車税)がかかる。もちろん走行すれば燃料によって揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、軽油取引税などが、さらにそれに対する消費税も。
つまり、自動車にはすでに何重にも税金がかけられているのである。
これらに加えて、注目を集めているのが走行税であり、2018年にその導入議論が急浮上してきた新税だ。しかし、2019年度の税制改正大綱、2020年度の税制改正大綱でも見送られ、今のところは「課税のあり方について中長期的な視点に立って検討を行う」との結論に落ち着いた。つまり、廃案にはなっていないが検討中ということ。
したがって、すぐに走行税が課せられることはないが、それでも将来的に導入される可能性は十分ありそうな走行税について、予習の意味も込めて学んでおこう。
走行税は、その名もズバリ「自動車で走った距離に応じて課金される税金」のこと。
自動車を走らせる燃料にかけられるものではなく、走行する行為自体にかけられる税金ということになる。どのような仕組みで課税されるのか、すでに導入されている他国の走行税についてみてみよう。
走行税を導入している外国の例を見てみよう
【ニュージーランド】
世界に先駆けて走行税を導入した国のひとつがニュージーランドだ。課税されるのはディーゼル車などが対象で、事前に走行する距離を1000キロ単位で申請し、それに応じた税金を納める仕組みになっている。金額は車種によっておよそ90通りに細かく分かれており、小型のバスで走行1000キロあたり約5000円とのこと。走行距離が事前申請より伸びた場合は、あらためて申請しなくてはならない。
【ドイツ】
自動車大国であるドイツでは、12トン以上の大型トラック走行税がかけられている。専用の車載器を搭載し、この機械が計測・分析した走行距離やCO2の排出量によって課税されるという。アウトバーンが整備されて陸上交通が盛んな国だが、それだけに大型トラックによる渋滞にも悩まされている。大型トラックに走行税がかけられるのは、そんな渋滞緩和の狙いもあるようだ。
【アメリカ】
他にもアメリカのオレゴン州で導入されているし、カリフォルニア州など9つの州でも実証実験をしている。
そのほか、ヨーロッパでも導入に前向きな国はいくつもある。世界的に見れば、走行税導入は格段珍しい税金ということにはならない。むしろ、地球温暖化を促進させる化石燃料を使った自動車の利用抑制につながる税金として、注目を集める存在になっているようだ。
いまなぜ、走行税導入が検討されるのだろうか
現在、導入が検討されている走行税は、既存の自動車税の代わりに納める税金になる可能性が高い。なぜこうした税金が検討されるのだろうか。
“若者の自動車離れ” といわれて久しいが、自動車は以前より確実に売れなくなっていることが大きな要因のひとつだろう。バブル期のように高級な自動車を持つことがステータスだった時代はとうの昔に過ぎ去り、今ではレンタカーやカーシェアを利用し「必要な時だけあればいい」と考える人が相当数にのぼっているのだ。
また、電気自動車やハイブリッドカーの増加によって、ガソリン車が減少。地球環境にとってはよいことなのかもしれないが、ガソリン税の税収も年々減少している。つまり、自動車に課せられる税金の制度設計そのものが、時代にそぐわず古くなってしまっているということだ。これが走行税導入への最大の要因なのだ。
走行税のメリット・デメリットを考えてみよう
では、走行税が導入されるメリットとデメリットには、どのようなことがあるだろう。
【メリット】
① 自動車は持っているものの、あまり乗らないという人などは、現在よりも税金が安くなる可能性がある。
② 電気自動車やハイブリッドカーにも、ガソリン車同様の税金を課すことができる。
③ 国の税収を増やすことができる。
④ 走行距離を正確に申告するため、自動車メーターと課税が直結するような、新たなインフラが整備される可能性がある。
【デメリット】
① 現在でも何重に課せられている自動車に対する税金がさらに増える。
② 自動車しか移動手段がない地方在住者に大きな負担がかかる。
③ 運送業などに大きな負担がかかり、配送料などに転嫁される可能性が高い。
④ 走行した距離をどのように正確に申告するか、問題点も多い。
⑤ 今以上にクルマ離れの風潮が広まる可能性が高い。
走行税が税金であるがゆえ、メリットは国に、デメリットは納税者に偏ることは仕方のないところだ。特にデメリット④に関しては、すべての自動車で正確な走行距離を測れるのかどうか、税の公平性の観点から難しい問題がある。自動車にGPSを装着して走行距離を測るといったアイデアもあるが、これはその人がどこを、いつ走ったのかデータが残ることになり、個人のプライバシーの侵害にもつながりかねない。
走行税は、新しいクルマ社会の形を問う課税のひとつかもしれない。しかし、現在のところその導入には、まだまだ検討しなくてはならない問題点が多数あるといえるだろう。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車。
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