政府による働き方改革関連法が順次施行された年でもあった2019年。終身雇用制のもと、会社に毎日通って長時間働くことがよしとされた時代は終焉を迎えつつあり、いま労働市場は大きな変化のさなかにあるといえます。
実際、大手企業でも社員の副業を認めるケースが増えるなど、働き方は多様化しています。
“働き方は生き方”ともいわれますが、これからはさらに就労の形も変わり、自らのスキルを活かすべくスキルシェアリングなどを活発に利用した仕事術を創出する人も出てくるでしょう。また、育児や介護などの事情によって働くことをあきらめていた人もリモートワークを活用して仕事に復帰するなど、さまざまな就労機会が広がっていくと考えられています。
そこで今回は、インターネットを経由した新しい働き方「ギグエコノミー」についてご紹介しましょう。
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時間、場所の制約がない働き方
ギグエコノミーという言葉をご存じでしょうか。
ギグ(gig)とは、ミュージシャンが一夜限りの契約で単発ライブを行うこと。そこから派生した「ギグエコノミー」とは、インターネットを経由して単発の仕事を請け負う働き方や、それによって成り立つ経済全般を指します。これまでの終身雇用制をベースとした仕事形態とは異なり、会社に雇用されるという従来の働き方の概念に縛られず、自分のスキルをその時々のタイミングで活用できる新しい働き方として、インターネットの普及によって加速的に広まりました。
新しい働き方ということもあり、ギグエコノミーに対する厳密な定義はまだ難しい部分もありますが、もう少し具体的にいうと、発注者はネット上のプラットフォームに仕事の依頼内容を公開し、仕事をしたい人(ギグワーカー)は、その仕事が気に入れば受注するというもの。
つまり、ネット環境下にあるPCやモバイル端末があれば遠隔で仕事を受注できることになります。それ以外にも、仕事内容によっては特定の場所に行って仕事をすることもありますし、あるいは自宅やカフェなどの好きな場所でリモートワークするケースや、ときにはプロジェクトごとに社内に留まったりするなど、案件によってさまざまな働き方があります。
正社員とは違い、フリーランスという立場ならではの利点は、ワークバランスの選択肢を自分で握りながら主体的に仕事ができる点にあり、それだけ時間や距離の問題をクリアにできるため、育児や介護などで時間的制約がある人や、地方在住者などにもギグエコノミーは最近大きな注目を集めているのです。
2015年ごろにアメリカで登場し、急速に拡大!
このような働き方が登場したのは、2015年ごろのアメリカ。配車サービスのUber(ウーバー)、家事代行サービスのTaskRabbit(タスクラビット)に代表されるように、人(スキル)とそれを欲しがる人をマッチングする、これまでになかった新たな形態の仕事が生まれ始めました。
たとえばUberは、登録すれば一般人も自分の空き時間と自家用車を利用してドライバーになれるというシステムを採用(日本の場合は、白タクの規制があるため事業者登録した車になります)。
アメリカの場合を例にとると、Uberに乗車したい客がいたとします。その客はスマホのアプリから身近にいて短時間で利用できるドライバーを選択して、スマホ上で手配します。配車要請を受けたドライバーは客を乗車させ、目的地まで運んで収入を得ます。このシンプルなしくみがUberの配車サービスなのですが、Uberについてはいろいろな意見はあるものの、現在では世界50カ国超、約290都市で展開するほどの広がりをみせています。
また、TaskRabbit(タスクラビット)は、ちょっとした用事──たとえば犬の散歩や庭の手入れ、購入した家具の組み立てなど、「してほしい人」と「できる人」をネットで結び、仕事を完結させるというもの。スウェーデン発の大手家具メーカーIKEAが、2017年にTaskRabbitを買収したことでも話題になりました。
このように、就労の概念を大きく変えてしまうサービスが大手企業をも巻き込み、いま世の中にひとつのムーブメントを起こしているのです。
学生、主婦にも人気が広まり、登録者は700万人にも
日本でもギグエコノミーの認知度は急速に広まっており、日経新聞によると、主要な仲介サービス6社に登録している人は延べ約400万人になるとされていて、非上場の新興企業も含めると、登録者数は700万人超におよぶと見られているそう。さらに、登録者数は1年で4割も増加しており、新しい仕事の形態として一気に広まっているようです。
ギグワーカー向けのサービスは、「クラウドワークス」「タイミー」「ハコベル」「助太刀」「メリービズ」などがありますが、「クラウドワークス」はWeb制作やデザイン制作などを指し、「タイミー」は飲食店へのアルバイト派遣、「メリービズ」は経理のアウトソーシングなどの専門に特化したプラットフォームを提供するサービスのこと。
たとえば「タイミー」であれば、面接なしで仕事がしたいと思ったその日にアルバイトができるもの。最近CMなどでそのしくみを知った人も多いと思いますが、実際に学生を中心に人気が広まっています。
また「メリービズ」の場合、事務畑で働いていたものの結婚を機に退職する女性が多い中、出産後の育児の合間に、独身時代に培ったスキルを活かしたいと考えている主婦のニーズにマッチングしたサービスのこと。子育ての空いた時間を活用できるリモートワークとして、場所と時間の制約なく働ける点から人気が高まっているといわれています。
そのほか、営業職向けのマッチングサービスを提供するプラットフォームなどもあり、日本でもこれからさらに広がっていく分野であるといえるでしょう。
人材を確保する側とギグワーカー側のメリット・デメリット
ギグエコノミーにおいて、人材を確保する側のメリットは、コストをかけてイチから育てなくてはならない人材を、相対的安価で、欲しいタイミングで得ることができる点にあるといえるでしょう。
また、慢性的な人材不足をギグワーカーで補うこともできますし、特定のスキルを持った即戦的人材を探すこともできます。
しかしその一方で、常駐するスタッフとギグワーカーがスムーズに協力・協働し合えるのか、あるいは、チーム内でのコミュニケーションやモチベーションを維持するうえで、上に立つ人のマネジメント手腕が問われる場面も出てくるでしょう。
ギグワーカー側のメリットとして挙げられる点はやはり、組織に入って時間を拘束されるわずらわしさから解放される「時間や場所の自由さ」が大きな魅力といえるでしょう。さらには「お試し」で仕事をする手軽さも受けているようです。
その反面、ギグワーカー側のデメリットとして考えられる点は、会社員のような社会保障もなく、スキルに応じて収入面や受注面で格差が出てくる点にあります。もし、一案件の単価が低ければ、複数案件をこなさざるを得ず、逆に時間的余裕がなくなってしまう本末転倒な状況に陥る可能性もありえるでしょう。
さらにリモートワークの場合、顔の見えない人とのやりとりによる意思疎通の不安も否定できませんし、最大の魅力である「時間や場所の自由さ」も、ともすればプライベートと仕事の境界線がなくなってしまう可能性をはらむことになります。こうした点から、会社のような一定の場所に出向いて、社内の仲間とコミュニケーションしながら仕事をするほうが、気持ちが安定して働きやすい……という方もいるでしょう。
インターネットが可能にした働き方のイノベーションは短期間で多様化を遂げており、さまざまなチャンネルの中から自ら自由に選択できるチャンスが広がっています。そうした多様性の中で、仕事と生活のバランスをいかに上手に作り上げていくか、自分の適性や仕事のスタイルをどう見極めていくか……といった視点をもって、上手に収入を得ていくことが、今後の大事なポイントになることは確かでしょう。
これからさらに広がり、多様な変化が見込まれているギグエコノミー。新しい働き方が、社会にどのようなイノベーションを起こしていくのか、ぜひ注目していきたいものですね。
≪記事作成ライター:ナカムラミユキ≫
千葉出身。金沢在住。広告制作会社にて、新聞広告を手がける。映画、舞台からメーカー、金融まで幅広い記事広告を担当。著名人インタビューや住宅関連、街歩きコラム、生活情報まで興味のおもむくまま執筆しています。
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