2017年、エクスペディア・ジャパンが発表した有給休暇の国際比較調査(30カ国対象)によれば、日本の有給休暇消化率は50%で、2年連続最下位となった。
また、「有休取得に罪悪感を感じる人の割合」は63%にのぼり、30カ国中トップとなっている。日本人は休むことに罪悪感を持つ“休み下手な国民”といえる。
そこで、「ワーケーション」という言葉をご存知だろうか?
これは2000年代に米国で生まれた働き方の新しいスタイルで、昨年あたりから日本でも注目されるようになってきている。休暇に仕事を取り込むことで、長期の休暇を取りやすくするメリットがある働き方なのだが、有給休暇の取得率の低い日本のサラリーマンやOL、そして企業に、このワーケーションはどのような効果をもたらすのか。そして、この働き方は日本の社会に浸透していくのだろうか。
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ワーケーションとは、休暇先で効率的に仕事をすること
「ワーケーション」とは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、リゾート地などの旅先で休暇を楽しみながら、テレワーク(ICTを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方=リモートワーク)を行うこと。つまり、「休暇で旅をしているのに出勤扱い」になる働き方だ。
欧米のICT関連業界などを中心に浸透してきているスタイルで、休暇中に仕事を組み込むことで長期休暇が取りやすくなることが大きなメリットだ。また、業務終了後にすぐレジャーに戻れる効果から、家族や恋人などとの時間を大事にでき、気持ちをリフレッシュすることが可能。これにより、休暇後にオフィスに戻った時も、新たな活力で仕事ができることなどが期待されている。
日本航空、Uber、和歌山県のワーケーションへの取り組み
では、具体的にどのようなワーケーションが行われているのだろうか。制度を取り入れ始めた日本企業の事例を紹介しよう。
●日本航空
日本航空では、パイロットや客室乗務員などを除き、2017年から7月〜8月の2カ月間のうち、最大5日間、ワーケーションを認めることとした。
就業開始時・終了時に上長に電話で進捗状況などを共有すれば出勤日として扱われ、有給休暇と組み合わせての取得も可能。会議には、電話会議システムを通じて出席すればOK。これにより、今までは会議などの都合で長めの家族旅行などができなかった社員が、気兼ねなく旅行できるようになった。
前述したパイロットや客室乗務員のほか、空港での接客担当、機体の整備担当の人など、現地出勤の仕事を担当していた人にとっては活用が難しいという問題点もある。しかし、働き方に関する新たな発見もあると期待され、対象期間を拡大するかどうかなど今後検討していくという。
●Uber
カーシェアリングサービスの大手Uberの取り組みは、通常は一緒に働くことのない社員で少人数のチームを作り、どこか旅に出かけ、一定の課題に対してクリエイティブな答えを探すことに取り組ませるというもの。
これはいわば問題解決のプロジェクトを、メンバーが旅先に集まってクリアするというもので、休暇というよりも働く環境を変える意味合いのほうが強そうだが、ここで生まれた企画が実際に同社の事業にもつながっていくことで、社員のモチベーションも上がっている。
このワーケーションは公募制で行われ、記録的な数の参加希望者が集まったという。働く環境を大きく変えることで新鮮なアイデアが生まれることも、ワーケーションの大きなメリットのひとつと言えそうだ。
●和歌山県
和歌山県は事業所としてワーケーションに取り組んでいるわけではなく、ワーケーションの受け入れ先としての動きを加速させている。ITを活用して白浜温泉街などの観光地で仕事と休暇をしてもらおうと、積極的にワーケーションをPRし、企業誘致にも力を入れている。
ワーケーションのメリットとデメリット
ワーケーションのメリットとデメリットについて、労働者と企業の双方から考えてみよう。
【労働者側のメリット】
(1)長期休暇が取りやすくなる
仕事の都合でまとまった休みを取りづらい人も、ワーケーションなら旅先である程度仕事を進められる。家族や友人と予定が合わない場合でも、ワーケーションで旅行できる可能性が高まる。
(2)新しいアイデアが生まれやすい
旅先で新しい体験をすることが、仕事にもプラスになる。新鮮な景色、人、体験によって、新しいアイデアが生まれることが期待できる。
(3)仕事への集中力が増し、効率が上がる
休暇中にリフレッシュできれば、その後の仕事の効率も上がる。また、休暇中の限られた時間に仕事をすることは、集中力が増して生産性が上がる。
【労働者側のデメリット】
(1)オンとオフのメリハリがなくなる
メリハリのある働き方ができなくなる恐れがある。休暇中に確認事項や依頼事項が増え、休暇が台なしになることもあり得る。
(2)周囲の理解が不可欠
社内の同僚はもちろん、取引先などとも事前調整が必要になる。仕事をする日程や時間帯、業務範囲を明確にしなければ、ダラダラとメリハリのない休暇となる。
(3)滞在先にネット環境が必要
リゾート地はビジネスホテルとは違う。滞在先でWi-Fiが利用できるかなど、チェックしておかなければならない。
企業側のメリットとデメリットは?
企業側のメリット
(1)働き方改革の対策になる
企業として、働き方改革へのわかりやすい取り組みとしてPRできる。社員の離職防止やリクルートにもつながる。
(2)事業継続性の確保につながる
多くの社員がテレワークに参加することで、事業に切れ目がなくなり、継続性が確保できる。これにより企業としての信用性も高まる。
企業側のデメリット
(1)情報セキュリティのリスクが高まる
パソコンやスマートフォンの盗難・紛失、安全性の低いWi-Fi利用によるトラブルなどが心配される。これにより、大切な情報の漏洩などのリスクも高まる。
(2)労務管理が複雑になる
出退勤などの記録をどのようにするかなど、実際に働いた時間の把握がしにくくなる。
ワーケーションは、自律的な働き方ができてこそ浸透するもの
政府は、インターネット環境等を利用して在宅や遠隔地で仕事を行うテレワークを推進している。そういう意味からもこのワーケーションは、今後ますます注目される働き方になっていくだろう。
しかし、ワーケーションを実際に定着させていくためには、会社も社員も、休むことの重要性と「ワーケーションは休みを取りやすくするためのもの」という目的をきちんと認識することが大切だ。ワーケーションを「休暇中も仕事をする(させられる)ためのもの」と、労使双方が思っているうちはまったく意味はない。
── 「仕事はオフィスに行ってやるもの」といった固定観念から解放され、場所も時間も自分自身で決め、オンとオフを切り替えながら過ごす。そういう自律的な働き方ができる人が増えれば、ワーケーションも日本社会に定着していくのではないだろうか。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、エンタメ系など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車などなど。新潟県長岡市在住。
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