2017年2月5日(日本時間2017年2月6日)に開催された第51回スーパーボウル。
アトランタ・ファルコンズの初栄冠かと思われた試合展開でしたが、終盤に追い上げたニューイングランド・ペイトリオッツの逆転勝利という結果になりました。
アメリカの「4大スポーツ」と言われる中でも、MLB(野球)やNBA(バスケットボール)をしのぐ人気を誇るNFL。そこには、どのような戦略が存在しているのでしょうか。前回に続き、NFLのリーグ運営システムについて考察します。
シーズンは短い、でもニュースは年間を通じて途切れない!
1月の記事でもご説明したとおり、NFLのレギュラーシーズンは、9月から12月(年によっては1月初め)にかけて。わずか4か月ほどと、野球やバスケットボールなど他のスポーツに比べてとても短いシーズンです。
これは、「1試合あたりの価値を高める」というNFLの戦略によるもの、と言われています。試合が少ないからこそ、「チケットを入手したい」「あの試合を観に行きたい」という、NFLのブランド力の向上につながっているのです。
レギュラーシーズンが短いのは事実ですが、年間を通じてさまざまな話題を提供しているのもNFLの特長です。たとえば、レギュラーシーズンに続いて行われるのは、上位チームによるトーナメント方式の「プレイオフ」。ワイルドカード(地区優勝はできなかったが勝率の高いチーム)によるワイルドカードプレイオフ、それに勝利したチームと地区優勝チームによる「ディビジョナルプレイオフ」、さらにNFC、AFC両リーグのチャンピオンを決める「チャンピオンシップ」と進んでいき、その勝者どうしがスーパーボウルでぶつかる……およそ1か月かけて、週末ごとに1発勝負の試合が楽しめるようになっています。
このほかにも、プレシーズンのキャンプ、ドラフト候補選手を集めて行われる運動能力テスト「コンバイン」、そして華やかに開催されることで有名なドラフト……と、年間を通じて話題を提供。これも、NFLの試合の価値を高める一助となっています。
スタジアムは、試合の勝ち負けを越えた「経験」を共有する空間
アメリカのスポーツビジネス界には、スポーツとは観客が「時間を過ごす」ことに対して対価を受け取る「時間消費型ビジネス」である、という発想があります。決められた日時、決められたスタジアムに、チームは試合を開催し、そこにファンが集まる。時間消費型ビジネスは、提供者と消費者がある意味で「協働」する空間です。
スタジアムでは、ただ試合を観るだけでなく、「グッズ購入など、ショッピングを楽しむ」「トークショーやサイン会に参加する」「仲間と出会い、語らう」「喜び(悔しさ)を共有する」など、さまざまなイベントが発生します。試合の勝敗ではなく、それらの経験の善し悪しが、リピーター獲得を左右する……NFLをはじめとするスポーツビジネス界では、このような考えが主流になっています。だからこそ、「スタジアムを訪れる」経験そのものの価値を高めていこう、という発想になっていったのです。
「常勝チームはいらない」が本来の理想。しかし……
スポーツビジネスにおける商品である「試合」は、複数のチームが関与して成立します。ですから、特定のチームだけが強い状況が続くのは、長い目で見て「商品の価値を損なう」ことになります。そのためNFLでは、ウェーバー制ドラフトの導入などで、チーム間の戦力が均衡するよう努力しています。
個々のチームが力を持ち、それぞれの集客アイデアを競うヨーロッパ型のスポーツに比べ、NFLをはじめとするアメリカのスポーツビジネスは「リーグ集権型」と言われます。巨大なリーグに成長し、ゆるぎない基盤を持つかに見えるNFLですが、過去には経営難などに苦しんだ歴史があります。そんな中で、リーグ発展のためには「収益力の強化」「財務体質の強化」「マーケティング力の強化」が不可欠である、という認識が、関係者に共有されていったのです。
「リーグの発展を目指す」というフィロソフィーを背景に、強力なリーダーシップを発揮しているNFL。とはいえ近年では、プレイオフに進出するチームの固定化や、集客に悩むチームが大都市へフランチャイズを移転する、などの動きが相次いでいます。従来の戦略に限界がきているのか、新たな舵取りはどのようになされていくのか……これからの経緯を見守っていきたいと思います。
参考:種子田穣「アメリカンスポーツビジネスNFLの経営学」(角川学芸出版)
《記事作成ライター:奥田ユキコ》
生まれも育ちも東京のライター。教育や語学、キャリア、進学、サイエンス、生活の雑学、ライフスタイルなどをテーマに、雑誌や広報誌、ウェブなどの記事を手がけています。「マネセツ」では、主にスポーツと「お金」にクローズアップした記事を書いていきたいと思います。
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