医療機関を受診する中高年が増加── 幅広い世代に広がる「ネット依存」の実態


ここ近年、ゲーム依存・スマートフォン依存といった「ネット依存症」が社会問題化しているが、果たしてあなたはどうだろうか……?

とくに、10~20代の若年層で深刻化するゲーム依存の実態が、厚生労働省による全国初の調査で明らかになり、スマホやオンラインゲームの過度な使用による心身への悪影響が懸念されている。
一方で、30~50代のミドル・シニア世代でも、スマホの使いすぎで仕事や生活に支障をきたし、医療機関の専門外来を受診する人が増えているという。

若者や子どもだけでなく、中高年層にもジワジワと広がりつつあるネット依存症。もはや他人事ではない依存の実態とともに、脱依存を支援する「デジタルデトックス」の活動・サービスについて解説する。

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平日にゲームを3時間以上する若者は約2割

昨年(2019年)11月末、オンラインゲームの依存(ゲーム障害)に関する全国初の調査結果が厚生労働省から発表された。
調査は昨年1~3月、無作為に選んだ全国の10~29歳の9000人を対象に行われ(回答率56.6%、約5000人)、全体の85%にあたる4438人が過去12ヵ月間にスマートフォンなどでゲームを利用したと回答。このうち2割近くが平日に3時間以上ゲームをしており、6時間以上という回答も2.8%あった(グラフ参照)。

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また、ゲーム利用者を対象に依存症状の有無について聞いたところ──
「本来、ゲームをしてはいけない状況(授業中や仕事中など)でよくゲームをする」⇒7%
「学業に悪影響が出たり、仕事を危うくしたり失ったりしてもゲームを続けた」⇒5.7%
「腰痛、目の痛み、頭痛、関節や筋肉痛など体の問題を引き起こしても続けた」⇒10.9%、
「ゲーム機・ソフト購入や課金などでお金を使いすぎ、重大な問題になっても続けた」⇒3.1%
──このように、一部の利用者で依存の症状が見られ、いずれも利用時間が長くなるほど、症状の出る人が増加する傾向にあった。

眼の障害や精神疾患にもつながる恐れが……

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とくに子どもの場合、スマホやゲームに熱中して画面を見続けると、眼に対する障害(斜視、強度近視など)が起きやすくなるだけでなく、精神面や心の発達にも悪影響を及ぼす恐れがあるという。
世界保健機関(WHO)でも、ゲーム障害をギャンブル依存症などと同じ精神疾患として位置づけており、以下のようなケースを診断の基準として示している。
《1》ゲームの時間や頻度を自ら制御できない
《2》日常生活の中でゲームを最優先する
《3》問題が起きているのにゲームを続ける
※上記のいずれかの症状、または複数の症状が12ヵ月以上続き、社会生活に重大な支障が出る場合

ゲーム障害の治療に関しては、薬物・アルコール依存と同様、国内の医療機関や更生施設などで支援する動きも広まりつつあるが、実際の患者規模はなお不明で、治療のガイドラインも確立していないのが現状だ。
同調査を行った国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長は、「今回のようなゲーム障害に関する大規模な実態調査は世界でもまだ珍しい。調査結果を今後のテスト手法やガイドラインの策定に生かしていきたい」と話す。

スマホからの膨大な情報流入が招く「脳ストレス」

また、子どもや若年層だけでなく、働き盛りの30~50代でも、スマホの過度な使用で心身や社会生活に支障をきたすケースが増えているという。

スマホは生活や仕事に必要だから手放せず、しかも常にそばにあるので、つい気になって習慣的に触ってしまう……。そんな日常生活を繰り返すうちに、自らの意思でネットやゲームを利用する時間と場所をコントロールできなくなり、重症化するとイライラして物忘れが激しくなったり、判断力や生活意欲が低下したりすることもあるという。

その原因のひとつとして、最近の研究で指摘されているのが「脳過労・オーバーフロー脳」と呼ばれる脳ストレスだ。これは、スマホから文字や映像などの膨大な情報が絶えず流入し続けることで、脳の情報処理が追いつかなくなり、前頭葉の血流が減少することで起こると見られている。

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医療機関を受診する中高年は氷山の一角

こうした医学的な見地から、薬物依存の研究などに取り組んできた神戸大学医学部付属病院(兵庫県神戸市)は、2018年5月にネット依存症に対応する専門外来を新設。患者はこれまで子どもや若者が多かったが、昨年ごろから中高年の受診が目立つようになったという。

患者の主な症例としては「いつも落ち着きがなく、仕事が手につかない」「プロジェクトの企画や立案ができなくなった」「無意識のうちに部下を怒鳴りつけてしまった」「同僚や家族から性格が変わったといわれた」「眠れない、起きられない、食欲がない」……など、仕事や生活に支障をきたすものが多い。

同院の曽良一郎教授は「中高年の場合、自己破産したり仕事が手につかなかったりして、生活に影響が出るまで受診しない例が多く、来院する患者は氷山の一角。潜在的には子どもや若者と同程度の患者数がいると思われる。脱依存が難しいのは本人の意思の弱さではないので、ひとりで悩まずに専門の医療機関を訪ねてほしい」と呼びかけている。

あえてネット環境から離れる「デジタルデトックス」

一方、現時点で心身や社会生活に支障が出ていなくても、スマホの使い過ぎを自覚している人は多いようだ。たしかに、いまやどこにいても携帯の電波が届くので、自分からネット環境を断ち切るのは、なかなか難しいかもしれない。ただ、自覚があってもやめられないのが依存症の始まりで、使いすぎをやめるには何かしらの対策が必要だろう。
そこで、脱スマホを図る対策として最近注目されているのが、あえて(=強制的に)ネット環境から距離を置く「デジタルデトックス(DD)」体験だ。

ネット依存からの脱却を支援する「日本デジタルデトックス協会」では、スマホなどのデジタル機器を預けて大自然を体験する、DDキャンプやDDヨガなどのイベントを定期的に開催している。子ども連れで参加するファミリーも多く、ネット環境から離れて自分自身や家族、大自然と向き合うことで、知らずのうちにネットに縛られていた日常に気づく人も多いという。

また、同協会ではIT関連企業の従業員を対象に、ネット依存が心身におよぼす影響などを伝える講習会も実施している。担当者は「企業の間でも従業員のスマホ依存に対する懸念が強まってきている。今後、ネットを酷使する職場では、デジタル機器との付き合い方が大きな課題となってくるだろう」と話す。

「デジタルデトックス」に特化した宿泊サービスも登場

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社会的に脱スマホへの関心が高まる中、ホテル業界にもDDに特化した宿泊サービスが登場している。
星野リゾートが展開する滞在型リゾートホテル「星のや」では、国内の5施設(軽井沢・京都・竹富島・富士・東京)で、チェックイン時にスマホやパソコンを預ける「脱デジタル滞在プラン」の通年提供を昨年4月から始めた。

同プランでは、ネットやデジタル機器から離れて、各地の自然や地域文化に触れる体験型のアクティビティを用意。利用者からは「日ごろから、スマホを想像以上に触っていたと気づかされた」「最初は落ち着かなかったが、アクティビティに没頭することで、心身ともにリフレッシュできた」といった声が寄せられているという。

現代のデジタル社会を生き抜くために……

インターネットという新たなテクノロジーとともに登場したデジタル機器は、ここ20年ほどで急速に発展・普及し、いまや私たちの暮らしに欠かせない「当たり前のツール」となった。ただ、テクノロジーの劇的な進化によって、その役割が人間の認知力や生態機能を超えた領域に踏み込んでしまった感もある。
いずれにしても、依存症の患者が増えている現状を考えると、アルコールや薬物などと同様、その使用に関しては社会的・医学的な啓発を含め、自主的な防衛策も必要となってくることは間違いないだろう。

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とくに、スマホが手元にないと落ち着かない人は、まず自分が毎日どれぐらいスマホを使っている(頼っている)のかチェックして、なにげに触ってしまう習慣を意識的・強制的に排除すること。少なくとも、食事・トイレ・入浴・就寝中や人と会っている時には、スマホを手の届かない場所に遠ざけて、目の前の事柄や相手としっかり向き合うことが肝要だ。
そんなネットリテラシーを自主的に身に付け、依存体質を作らない生活習慣を心がけることが、現代のデジタル社会を生き抜くためのマストポイントとなってくるのではないだろうか。

※参考/厚生労働省HP、星野リゾートHP、日本経済新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫  
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。


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