「とりあえずビール」は時代遅れ? 夏の醍醐味に異変あり! ビール消費の実態に迫ります


画像マネセツ102(山本)/ビールの経済学に迫る

史上最も暑い年になるとNASAが警告した2016年。
立秋も過ぎた8月8日に岐阜県多治見でこの夏の最高気温、摂氏39.7度を記録しました。
ビールの売り上げは、28℃を超えて1度上がるごとに大瓶(633ミリリットル)換算で1000万本近く増えると言われます。

6年振りの猛暑到来に、商機到来とばかりに生産量を増やしたビール業界各社。
とはいえ、この裏には来年予想される税制改正によるビールの税率引き下げを見すえた発泡酒などからビールへの回帰という経営戦略もあり、ビール系飲料の消費総量は気温の上昇に見合うほど増えていないのでは、という疑問もあります。
実際はどうなのか? ビールの経済学、開講です!
 

「とりあえずビール」衰退の背景

 
酒の席におけるわが国の慣例「とりあえずビール」をサビにした福山雅治のヒットソング「とりビー」。歌のノリは別として、まずはみんなでビールを飲もうというこの言葉も最近は威力を失いつつあります。
バブル経済が崩壊する1991年頃まで、乾杯といえばビールでした。サントリーが首都圏で実施した消費者調査(2014年)によると、いまや最初にビールを頼む人は45%で、全体の半分を切ったとのこと。もはや「とりビー」は主流とは言えないようです。

背景には若者を中心としたビール離れがあります。調査結果では49%の人たちが「気分、場所、相手で最初に何を飲むかを決める」のだそう。ビールの比率が少ないのが20代と女性で、サワー類の躍進が目立ちます。注ぎあうことなくすぐに乾杯できる手軽さや、苦みがなく淡い甘みで飲みやすいことも若者や女性に受けている原因でしょう。

消費者のし好の多様化とともに、お酒の場が個人で飲みたいものを自由に口にできる雰囲気に変わってきたこともあります。職場の延長に近い宴会に参加するよりも仲間うちで楽しく飲みたい、という若者のトレンドもこの傾向を一層助長しているのかもしれません。
 

新たな活路を見出した「クラフトビール」!

 
2015年の統計が発表され、ビールの国内出荷量が1996年以来19年振りの増加に転じたことが話題になりました。ピーク時の4割弱の水準とはいえ、前年比0.1%増の42億9780万本(大瓶換算)を記録したのです。

しかし、この裏では第3のビールの落ち込みがあり、ビール系飲料全体(ビール、発泡酒、第3のビールの合計)では前年比0.1%減となりました。発泡酒の出荷量は0.3%増だったものの、第3のビールが1.7%減と足を引っ張り、ビール類の出荷は1992年に集計を始めてから過去最低記録を更新。長期低落化傾向に歯止めがかかりません。

そんな中、明るい兆しも見え始めました。
小規模な醸造所でビール職人が丹精を込めて作り出すビールを手工芸品(Craft)に例えた「クラフトビール」人気です。
1994年の酒造法の改正で、最低醸造数量が2000キロリットルから60キロリットルへと規制緩和され、全国に小規模なビール製造会社が誕生。町おこしにもひと役買った地ビールのブームが沈静化した後、技術の蓄積と淘汰により高品質で個性豊かなビールが生み出されるようになったのです。

ベルギービールなどの外国産ビールの輸入増もあり、エールやヴァイツェンなどピルスナー以外のビールのよさも知られるようになります。高品質で美味しいものにはお金を払ってもよいという消費者傾向がこれに拍車をかけました。
キリンをはじめ大手ビールメーカーもクラフトビールへ参入し、いまビールは消費量を競うのではなく、品質を極める新たな時代に突入したと言ってよいでしょう。
 

日本のビール税は“超”高い!

 
2015年にわずかとはいえビールの消費量が前年を上まわったのは、2017年以降に予想される税制改正で、政府がビール系飲料に対する税率の一本化を検討しているため。
ビールは減税の方向、との観測が出たことで、ビール各社が発泡酒や第3のビールからビールの販売増へと戦略のかじを切り直したからとも。
では、ビールの税金はどうなっているのでしょう。

ビールは明治時代に高級酒として輸入され始めたことから、税率は日本酒や焼酎よりもかなり割高に設定され、戦後に庶民の飲み物として定着しても高止まりになったことがビール税の高さの原因です。

さらに、諸外国では含まれるアルコール度数に対して課税されるのが主流なのに対し、わが国では麦芽比率でランク付けしたうえ1キロリットルあたりいくらで徴収。ビール1キロリットルに22万円の税金がかかるのに対し、アルコール度数が約4倍の焼酎でも1キロリットルで20万円の税金です。これではアルコール度数の低いビール系飲料が他の酒類よりも割高になるのも当然でしょう。

その結果、ビールに課される酒税はドイツの20倍、アメリカの12倍と、世界トップの水準に。しかも、消費税は酒税にもかかるため、その部分は完全な二重課税です。ビール1本を飲むと、そのうち45.1%は税金で、泡と消える計算になるわけで……。

ビール業界はこの高い税率を回避して単価の低いビール系飲料を提供すべく、麦芽の比率を下げたり、他のアルコール分を加えて発泡酒や第3のビール作りに力を注ぎました。発売されるごとにその安さから消費者の支持を得たビール系飲料ですが、税率の高いビールから消費がシフトすることで税収減になるため、国税庁は発泡酒や第3のビールの税率を繰り返し上げ、まるでイタチごっこ状態に。
その末に生まれた究極のアイデアが「税率一本化」でした。現在、350ミリリットル缶1本あたりの酒税額は、ビール77円、発泡酒47円、第3のビール28円ですが、政府はこれを55円程度にそろえることを検討しています。

また、ビール系飲料の税率が3種類あるのも日本だけ。そのため、わが国のビール消費量を外国と比較する際は「日本の数字に関しては、ビール、発泡酒、新ジャンルの合計」と注記しなくてはなりません。
酒税の統一でビールの捉え方が世界と同列になるのを喜ぶべきか、発泡酒や第3のビールの値上げを消費者いじめと嘆くべきか。
今後のビールの消費動向について注視したいところです。

── キリンビールが8月10日に発表した2015年世界のビールの生産量は、約1億8900万キロリットル(前年比1.1%)とのこと。アフリカ以外のすべての地域で前年割れのなか、前年比01.%減にとどまったわが国は、まだまだ「とりビー」、そうビール党天国なのかもしれません。
 
 

≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、学校に通って介護資格を取得。現在は介護福祉士として勤務する日々。オペラをこよなく愛し、航空会社在職中より始めた音楽評論の執筆も継続している。


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