最近の流行語、米大統領も大好きな「フェイク」といえば、フェイクニュースに代表されるように、うそ、ごまかし、にせもののことだと思っていたら、一方グッドな意味合いで注目を集め、未来産業として大いに発展を遂げつつある業界があることが分かった。
「フェイクミート」とは代替肉のこと。
お肉は好きでも肥満やコレステロールが心配という現代人のために、牛肉や豚肉ではなく、豆類など植物を由来にした新しいお肉。ダイエットにも地球環境にもやさしいと、いま世界中でブームが起きている。
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ビヨンド・ミート社の株価、売り出しの2倍以上を維持
今年5月、植物由来の代替肉を開発している米国の食品メーカービヨンド・ミート社がニューヨークのナスダックに上場したところ、売り出し直後に価格は2.6倍に跳ね上がり、その後、株価は一時は3倍にまで到達。3カ月以上経過しても倍以上の水準を維持している。
この会社は10年前に創業され、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツや俳優のレオナルド・ディカプリオらが上場前に出資したことで知られている。
なぜこの会社が、世界中から注目を集めているのか。なんといっても同社の開発した“肉”が、大豆やココナッツなどの植物を加工して精製した「フェイク」であるにもかかわらず、牛肉や豚肉とほとんどそん色ない味覚、食感を備えた高品質だからだ。
創業者のイーサン・ブラウン氏によれば、「肉を製造するのにもう動物は必要ない。肉を構成するアミノ酸、脂質、微量ミネラル、水分は、どれも動物以外から調達が可能だ」という。
ビヨンド・ミート社の肉は、米国のスーパーで販売されるとともに、業務用のハンバーガーのパテとしてバーガーショップに卸され始めている。
植物由来のお肉は低カロリー、低コレステロール
こうした反応はすぐに米国外にも飛び火し、台湾では、モスバーガーを運営するモスフードサービスが、ビヨンド・ミート社の代替肉パティを使用したハンバーガーを、この6月から販売開始。スタートは5店舗だったが、上々の売れ行きにのって、さっそく販売店舗の拡大を検討している。
この「代替肉」とは、いったいどんな肉だろう。
従来の肉や牛、鶏など畜産物の食肉に代わる新しい製品として、食感、風味、外観などを人工的に肉風に再現した加工食品。大豆やエンドウ豆、キノコなどの植物性タンパク質を主原料とし、ハンバーガーパテ、チキンナゲット、ソーセージ、もしくはピザやブリトーなどさまざまな製品がつくられている。
もともと欧米にはベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義者)などが一定の人口を持ち、それらの人々の間で植物由来のフェイクミートの食品の需要はあった。しかしそれは、肉とはほど遠い風味、食感のものだった。それが、最近の品質の様変わりによって、一般の人々にまで急速に浸透してきたのだ。
肥満、エネルギー消費、二酸化炭素排出を抑制!
肉や魚の動物性タンパク質は、カロリーが高く、コレステロールも高いので、高血糖や高血圧の原因となりかねない。植物性タンパク質の摂取は、むしろその逆で、肥満防止に効果があり、コレステロールを抑える働きがあって健康にいいとされる。
また、地球環境への影響も叫ばれている。牛肉1キロを生産するためには、えさとなる穀物が11キロも必要といわれている。畜産のための牧場や畑、水などのエネルギーの消費は半端ではない。二酸化炭素の排出も膨大な量だ。代替肉なら、こうしたエネルギーの無駄を大幅に削減できる。
こうした点から、フェイクミートのメリットが、世界中に理解され始めたといっていいだろう。
日本能率協会によれば、代替肉を中心とした人工肉(培養肉を含む)世界市場は、今後急速に成長すると見込まれ、2020年には1200億円に達した後、2023年には1500億円にまで伸びると予測されている。それはまさに「すさまじい成長」と形容してよいものだろう。
国内メーカー、小売店もフェイクミートにこぞって参入!
もちろん国内の食品メーカーや小売店も「すさまじい成長」過程にある代替肉をだまって見過ごしてはいない。国内の食品加工メーカー、輸入代理店、バーガーショップなども、ぞくぞくフェイクミート市場に参入している。
以下、主な動きを紹介しよう。
●大塚食品
国内食品メーカーで代替肉に積極的に取り組んでいるのが大塚食品だ。2018年の暮れに「ゼロミートハンバーグ」を発売。大豆を主原料にした代替肉ながら、自らキャッチフレーズ「“肉”じゃないのに、“そこそこ美味い”」とうたってスーパーなどに売り出したところ、ヘルシーでおいしいと大好評。余勢をかって、この6月には「ゼロミートソーセージ」も発売を開始し、順調に売り上げを伸ばしている。
●SYOGUN BURGER 新宿1号店
外国人観光客でにぎわう東京新宿の歌舞伎町。SYOGUN BURGERは、本格和牛肉を使った高級ハンバーグが売りのバーガーショップだが、そのメニューの中に、フェイクミートを使ったバーグを加えた。
材料はやはり大豆が中心で、すべて植物由来。外国人の中にはベジタリアンも多く、なるべく肉を食べたくないという客の間で、お肉とほとんど味も食感も変わらないと大好評だという。
●グリーンカルチャー
埼玉県にあるベンチャー企業、グリーンカルチャーは、大豆を主原料にした代替肉を使ってシュウマイを開発。7月より発売した。
ハンバーグやソーセージが先行する代替肉の市場だが、日本人のための本格的肉加工食品に挑戦したいと、シュウマイの開発に人力したという。食感はほとんど既存のシュウマイと変わらず、同社ではこれから本格的な代替肉の時代がくる……と自信を抱いたようだ。
そのほか、スウェーデンの家具販売大手イケアの日本法人が、国内の9店舗で代替肉を使用した「ベジドッグ」を5月から発売。これはパンで挟んだソーセージの代わりに代替肉を使用している。ひよこ豆やグリーンピース、ニンジン、ケールなどを原料とし、動物性食材は使用していない。
牛にビールを飲ませる飼育法は、時代遅れの動物虐待か?
こうして代表的な代替肉の採用実例をみていくと、フェイクミートとはあなどれない新しい加工食品に成長しつつあることがよくわかる。
大塚食品の嶋裕之氏は、次のように語っている。
「本物のハンバーグがどうなっているのか、顕微鏡でサイエンスしたり、どんな香りになっているかを研究したり、徹底的に本物に近づくよう努力している。まるでスマホをバラバラにして分析するように」
牛にビールを飲ませて太らせる飼育法は、ある意味、時代遅れの動物虐待といってもいいのかもしれない。牛肉がおいしいことは否定しないが、風味にそん色のない植物由来の代替肉が普及するなら、そちらにシフトするのが、自然なことなのかもしれない。
IT技術、医療、エネルギー、環境など広範な領域において科学技術が大きな進歩をもたらしてきたが、代替肉は今日、明日の私たちの食卓を変えることになる。そうした意味でも、代替肉の普及は、とても身近に感じられる食の革新といえるだろう。
── 消費者、製造者双方のみならず、社会全体に大きな変化をもたらす代替肉。その「すさまじい成長」と「革新」の過程を消費者の一人として今後も見守っていきたいものだ。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。
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