この春、財務省は1万円札の需要が増えていることを受け、2016年度の新札印刷枚数を、昨年より17%多い12億3000万枚とすることを決定しました。
前年度より増刷されるのは8年ぶりで、増刷枚数は1億8000万枚(1兆8000億円)相当となります。
電子マネーやクレジットカードが普及し、日常で現金を使う場面が減っている今日、なぜ1万円札の需要が増加しているのでしょうか。
タンス預金の残高は約40兆円!
日本銀行の統計によると、2016年2月の現金流通量は約90兆3000億円。
前年同月比で6.7%増と、2003年以来13年ぶりの高い伸び率を記録しました。
なかでも1万円札は約7%増と、5000円札(0.2%増)や1000円札(1.9%増)と比べて突出した伸びを見せました。
1万円札の流通・需要増の要因は、マイナンバー制度やマイナス金利政策への不安感から、自宅でまとまった現金を保管する「タンス預金」が広まったためとみられています。
金融業界の試算では、現在、国内のタンス預金の残高はおよそ40兆円!
現金の全流通量の半分近くが、家庭のどこか(タンス?)で眠っているとは、ちょっと驚きですよね。
マイナンバーのある施策が影響?
ご存じの通り、マイナンバー制度は行政手続きの効率化とともに、災害時の支援面などでも大きなメリットが期待されています。
その一方で、多くの人が懸念しているのが、2018年以降に適用される「マイナンバーと預金口座のヒモ付け」です。
これは、マイナンバーを個人の預金口座に適用することで、税務調査の厳格化や社会保障の不正受給防止などにつなげるという施策です。
現時点で預金口座の適用は任意とされていますが、将来的には義務化される可能性もあります。
こうしたことから、マイナンバーで資産情報を把握されることを嫌い、自宅に現金を置く人が増えているというのです。
現金回帰に拍車をかけるマイナス金利
さらに、マイナス金利の導入も現金回帰の動きに拍車をかけているようです。
2016年1月、日本銀行がマイナス金利の導入を発表し、主要銀行の普通預金の金利は年0.001%にまで下がりました。これほどの超低金利(100万円預けて1年に付く利子は100円程度)となれば、「わざわざ預金をするメリットやお得感がない」→「手元に現金を持っていても損はない」というわけです。
加えて、「マイナス金利=逆に金利を取られる」というイメージが預金者に不安感を与え、タンス預金を拡大させているとの見方もあります。
もちろん、このマイナスイメージは大きな勘違いです。そもそもマイナス金利とは、金融機関が日銀に預ける資金の一部に、年0.1%の手数料を設けるもの。
民間の銀行利用者の預金金利がマイナスになるわけではありませんので、どうぞご注意を!
タンス預金の拡大で、意外なモノが売れている!
今年度の紙幣増刷は、4年目に入った日銀の金融緩和策で、物価上昇率の目標が達成されていないことを受けた対応措置ともいわれています。
日銀の緩和策は、世の中に出まわるお金の量を増やして景気をアップさせようという考え方ですが、マイナス金利などの不安材料もあり「どんどんお金を使ってまわそう」というムードには至っていないようです。
ちなみに、マイナンバーの通知が始まった2015年秋以降、家庭用金庫の売り上げ・出荷数が急増しているそう。
経済産業省によると、2016年1月の出荷数は約1万3000個、前年同期比で約90%増と2倍近い伸びを見せました。
これは、自宅に金庫を置いて、マイナンバー(カード)や大金をしっかり保管したいという人が増えたためとみられています。
事実、ここ半年間、ホームセンターなどの金庫売り場では在庫切れの状態が続き、メーカーも増産体制でフル稼働しているものの、なかなか需要に追い付けない状態といいます。
お金がまわらず、モノが売れない時代、売れまくっているのが金庫とは……。
少々複雑な心境になりますが(笑)、金庫メーカーにとってはうれしい悲鳴といったところでしょうか。
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。
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