肉に替わる新タンパク源を探せ!将来の「タンパク質危機」に挑むフードテック企業《2》


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世界の人口が年々増え続ける中、近い将来、家畜飼料の生産が追いつかなくなり、重要なタンパク源となる肉類が食べられなくなるかもしれない──

そんな「タンパク質危機」への懸念が広まる近年、国内外で急成長しているのが、食品に関わる課題を先端技術で解決する「フードテック」と呼ばれる産業分野だ。

前回の《将来のタンパク質危機の挑むフードテック企業~1》では、肉類に替わる新たなタンパク源として「昆虫食」の研究開発を進める、日本のベンチャー・スタートアップ企業の取り組みを紹介した。
続く今回は、昆虫食とは異なるアプローチで将来のタンパク質危機に挑む、国内企業や研究機関の取り組みにフォーカス。さらに、地球から宇宙へと広がるフードテックビジネスの新たな展開と可能性について見ていくことにしよう。

生産効率に優れたタンパク質源「藻類」の可能性

新たなタンパク源として、すでに広く活用されているのが水中生物の「藻(そう)類」だ。

一般的な藻類の栄養素組成を見ると、とくにタンパク質の含有量が50~75%と多く、種類によっては大豆の2倍近くになるものもある。なかでも、スピルリナ・クロレラ・ユーグレナ・ドナリエラなどの藻類は、良質な植物性タンパク質源のほか、人体に必要なビタミン・ミネラルなどの栄養素も豊富に含まれており、健康食品やサプリメントとして世界中で利用されている。

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また、光合成によって水中でエネルギーを蓄え、タンパク質などの栄養素を生成する藻類は、単位面積あたりのタンパク質の生産効率が大豆の約10~15倍と、地球上で最も生産性の高い生物のひとつとされている。肉類と比べてもその効率は極めて高く、養豚で得られるタンパク質量が1ヘクタールあたり185キログラムなのに対し、藻類(スピルリナ)は10トンを超えるという。
さらに、水中で育つ藻類の栽培には大量の散水や土壌が不要なため、一定の貯水設備などを設ければ、農業が行えない塩性土壌や砂漠地帯でも生産が可能だ。森林伐採による農地の拡大には限度があり、環境上も多くの問題があることを考えると、これは大きな利点といえるだろう。

スピルリナの活用を進める日本のバイオベンチャー

こうした藻類の特性とメリットに着目し、藻を活用した健康食品の開発を手がけるのが日本のバイオベンチャー「タベルモ(神奈川県川崎市)」だ。

現在、スピルリナを美容・健康食品として販売する同社は、2018年に産業革新機構や三菱商事から17億円を調達し、スピルリナの量産工場をブルネイに建設すると発表。国内の既存工場に加え、海外にも生産拠点を拡大することで、生産量を現在の10倍に増やすことを目指す。

同社では「2025年にはタンパク質不足が顕在化する」とみており、今後はタンパク質の摂取に主眼を置いた商品も展開しながら、藻の生産量を増やして生産コストと価格を下げ、付加価値が高いたんぱく源としての普及を進めていきたいとしている。

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新ジャンルのミートテックとして注目される「人工培養肉」

肉類に替わるタンパク源として、肉そのものをラボや工場でつくり出す「人工肉」の研究開発も盛んだ。人工肉の生産に特化した分野は「ミートテック」とも呼ばれ、すでに欧米では植物由来の人工肉を使ったハンバーガーやパテなどの商品が販売されている。

さらに、新ジャンルのミートテックとして、ここ最近注目を集めているのが「人工培養肉」だ。これは動物から採取した細胞を特殊な培養液に浸し、筋細胞を増やして「肉に育てる」方法で、再生医療や創薬における細胞培養の技術が生かされている。培養肉は家畜生産より環境負荷が低く、衛生管理も容易なため実用化への期待が大きい。ただ、現在のところ培養肉の多くはミンチ状の段階で、ハンバーグやパテには向いても、ステーキ肉のような食感を出すのは難しいという。

日本の研究チームが実現した世界初の「培養ステーキ肉」

そうした中、日清食品ホールディングスと東京大学の研究チームは今年(2019年)3月、牛の筋肉細胞からサイコロステーキ状の組織をつくることに世界で初めて成功したと発表。研究チームは、牛の筋肉細胞を特殊な培地で育てて細長い筋繊維を作製し、層状に重ねて培養することで弾力のある立方体(1センチ×0.6センチ×0.7センチ)の筋肉組織を実現。今後はさらに大きな組織の作製に挑むという。

現時点ではコスト高が課題となるが、日清食品ホールディングスは「将来は巨大な市場が見込まれる。生産体制やコスト、安全性を検証し実用化を目指す」としている。東大研究チームの竹内昌治教授も「培養肉が大量生産され、スーパーで手軽に購入できるようになれば、将来の畜産を補う役割が期待できる」と話す。

月面で「地産地消」する宇宙食としての活用も

藻類や人工培養肉は、宇宙に滞在する際のタンパク源としても注目されている。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は今年3月、国内30の企業や大学などと連携して、将来の月面滞在で必要な食料生産システムの検討を開始すると発表。現在、人工培養肉のステーキや藻類のスープなど7品目のメニューが候補に挙がっており、藻類の活用事業を展開する「ユーグレナ(東京都港区)」や、人工培養肉の開発に取り組む「インテグリカルチャー(東京都新宿区)」などの企業が宇宙での食糧生産を担う。

人間が月に長期滞在するには、地球から持ち込む食料だけでなく、月面で手に入るもので「地産地消」する資源循環システムが必要となるため、滞在によって出るゴミや排泄物も活用することになる。インテグリカルチャーCEOの羽生雄毅氏は、「滞在施設の下水から得た窒素や炭素の成分と、月にある鉱物の栄養分や太陽光で藻類を育て、その藻類を使った培養液で人工培養肉を作れないか」と考えているという。これはまさに、食の完全リサイクル&リユースを実現する、究極のエコシステムといっていいだろう。

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宇宙と地球で共通する食糧問題の解決に向けて……

こうして今、食分野から循環型社会を目指す日本のフードテック企業は、宇宙と地球で共通する食糧問題の解決に挑もうとしている。地球上の資源が限られている以上、将来はタンパク質に続く栄養危機(ビタミン・炭水化物・脂質危機など)に迫られることも十分考えられる。そして、数百年後には人類が飽和状態の地球から脱出し、月や他の惑星で暮らす時代が訪れるかもしれない。

そんな未来を見据え、国内外の企業がいかなるアプローチで先手を打ち、人類を支える食の可能性を広げていくのか……。その無限大のビジネスチャンスとマーケットを狙って、今後、フードテックへの新規参入や投資がますます増えていくことは間違いないだろう。

※参考/JAXA・タベルモ(ちとせGP)HP、日本経済新聞、朝日新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫  
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。


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