欧州の政治情勢が騒がしいようです。英国ではメイ首相が突然の総選挙実施の発表となりました。総選挙のみそぎをまだ受けていない保守党メイ党首は、現在の世論調査からして、過半数の議席は確保できるのではとの思惑から総選挙に打って出たようです。総選挙は6月8日実施予定です。EU(欧州連合)からの離脱交渉には、欧州大陸諸国からの相当なハードルが予想されます。ハード・ブレグジット(強硬離脱)に向けて国民の支持を取り付けたいと思ったのでしょう。ある意味、英国ファーストと英国の利益を最大限に求める交渉を進めたいと思っているのでしょう。
金融市場は、強い英国のイメージから、ポンドが心理的に買われる動きが出ましたが、やはりBOE(イングランド銀行)は、ブレグジットリスクを考えると、利上げには動けないと市場参加者は読んでいるようです。従って、対ドルで1.30以上のポンド高を演出することには無理がありそうです。意外と冷静に対応している金融・為替市場と言えます。
そして、フランスでは第一回目大統領選挙です。マクロン元経済産業相と極右政党国民戦線のルペン党首が第一回投票を勝ち抜きました。市場が恐れていたシナリオ、つまり、左派のメランション氏と右派のルペン氏が勝ち抜くことだけは避けられたようです。フランス第一主義を取るルペン氏、そして国民の格差是正を掲げるメランション氏は共にEU離脱を公約として掲げています。両者が勝ち抜けば、どちらが買ってもEU離脱というシナリオに辿りつくことになったため、金融市場はほっとしたのでは。
そして、マクロン氏には、共に中道勢力のフィヨン元首相が即座に支持を表明しました。現在の世論調査の結果がそのまま第二回大統領選挙当日(5月7日)まで続けば、マクロン大統領誕生と言うことになります。フランス国営放送のニュースを見ていると、マクロン候補の地元企業の海外移転との報道を聞きつけ、ルペン氏が企業に乗り込み、そのような決定には反対であり、従業員の雇用を重視し、選挙戦での挽回を図っているようです。また格差社会の是正を謳ったメランション氏の左派勢力の票を取り込む動きも強めそうです。ルペン氏には焦りがあり、仏大統領選挙はマクロン氏の優勢でほぼ決定のようです。
このような政治情勢の中、仏債券市場では市場参加者が安心しているような動きになっています。下記は仏10年債利回りの1年間の動きを示しています。3月には大統領選挙ではひょっとしてルペン氏が大統領になってしまうのではとの観測が出て、一時1.20%の利回りを示していました。
政治が不安定になると、どうしても投資家心理としてその国の債券を売る行動に出ます。従ってその結果、利回り上昇の動きとなります。現在は、0.85%前後の動きとなり、落ち着いています。波乱がないと読んでいる投資家心理を微妙に表しているようです。そして、欧州債券市場では、リスク回避行動の動きの場合は、フランスの債券売り、ドイツ連邦債に逃避資金が流れ込む動きが顕著になりました。
独連邦債はフランス政治が混乱している局面では、資金流入で一時10年債0.15%まで利回り低下の動きになりましたが、現在は0.35%前後で落ち着きを取り戻していると言えます。そして、欧州の株式市場では、揃って高値追いの株式市場、好転しています。本来に経済のファンダメンタルズに従った株式市場になることが期待されています。
今後の日程を見ると、6月にイギリス総選挙、そして9月にドイツ総選挙とまだまだ波乱の欧州選挙日程と言えます。しかし3月のオランダ総選挙、そして今月のフランスで第一回大統領選挙と、昨年から続いていた選挙戦の流れを一旦断ち切っているのではと思われます。5月7日にはマクロン大統領誕生、6月8日にはメイ首相信任となれば、後半の選挙戦ではリスク志向の欧州金融市場になることが期待されます。そして、9月のドイツ総選挙でメルケル独首相が信任されることが期待されます。
政治の影に隠れて、最近はECB(欧州中央銀行)の報道が薄れる傾向が見られました。4/27には定例理事会とドラギECB総裁の記者会見がありました。ECBの政策金利は、中心的金利Main refinancing operationsが0.00%です。金融機関が主に日々の資金繰りにECBから借り入れる金利と言えます。
預金金利(金融機関が余剰資金を預け入れる金利)は-0.40%です。この金利の意図は、金融機関に対して、ECBに預け入れるよりも、取引企業に対してもっと融資に積極的に取り組んでほしいとの意味があります。現在は過去最大のマイナス幅となっていますが、このマイナス幅が狭まってきたら、利上げの素地があるとも解釈できます。Main refinancing operationsのレートと共に注目したいところですが、貸出金利は0.25%にとどまっています。ECBのインフレ目標は2.00%です。ユーロ圏における3月消費者物価指数は1.5%前年比となっています。原油などの上昇を考慮しても、まだ2.00%のインフレ目標には達していません。そのため、ECB定例理事会では政策金利を変更することはないのではと思います。2.00%を超えてきて、GDP(国内総生産)の各国数字が継続して上向いていれば“要注意”となりますが、現在はその段階ではないのではと思います。
ただし、ドイツ、スペイン等は、良い経済状態を続けており、相当に利上げをするように主張しているユーロ圏各国中央銀行総裁がいることも事実と言えます。そしてもう一つの量的緩和政策、資産購入枠で、ECBは毎月600億ユーロの国債を中心とした資産購入を12月末まで続けており、市場に流動性を供給しています。
このように欧州の政治・金融情勢を考えると、リスク商品つまり株式等に価格上昇の動きはあるものの、まだまだ波乱な欧州金融市場には変化がありません。為替を考えると、ユーロ相場も、明確にECBが出口戦略に着手するメッセージを発信していないだけに、ユーロ高の相場観を持つことは少なくとも今年中は疑問符をつけます。本格的なユーロ高は来年以降ではないかと思います。まだまだミドルリスク・ミドルリターンな商品の出番ではないかと思います。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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