フィンテックを活用した電子地域通貨。新たな“通貨”導入で地方経済は救えるか?


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いまや当たり前になりつつある「キャッシュレス」。

日本円でのコインやお札といういわゆる“法定通貨”を使用せずとも支払い可能な、クレジットカードやデビットカード、電子マネーなどが便利に使われており、通勤でバスや電車をSuicaやPASMOで乗り継いだり、自販機で飲み物を購入するのは日常茶飯事のこと。コンビニでおにぎりを買う電子マネーや、レストランで食事代も支払えるおサイフケータイなども多くの人が利用していることでしょう。
そんな中、ビットコインに代表される仮想通貨が話題ですが、地域限定で利用できる電子通貨の導入も増えつつあります。フィンテック(FinTech)なくしては運用できないシステム「電子地域通貨」。まだ耳に新しいキーワード「電子地域通貨」は、果たして地方経済を救えるのでしょうか。

 

300以上の加盟店を持つ、岐阜県の「さるぼぼコイン」

 

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限られた地域や共同体で使え、使い方は主にスマートフォンを提示するだけ。そんな簡単さに加えて、地域限定だからこその特典がある……それが「電子地域通貨」です。

ユニークな名称の「さるぼぼコイン」は、岐阜県飛騨高山地域(高山市、飛騨市、白川村)で利用できる「電子地域通貨」。この通貨は、飛騨信用組合がIT企業アイリッジ(iRidge)開発の電子地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」を活用して提供されており、2016年からの実証実験を経て、2017年冬から商用化がスタートしました。
気になる“さるぼぼ”とは、飛騨地方の方言で“猿の赤ちゃん”の意味。赤い顔の猿の赤ちゃんをイメージした民芸品の人形は(画像参照)、「災いが去る(猿)」「疫病が去る(猿)」といった語呂合わせから、安全祈願、妊娠祈願、安産祈願、子どもの成長祈願に由来した厄除け等のお守りとして親しまれてきたものです。

そんな愛着あるネーミングの「さるぼぼコイン」はスマートフォンにダウンロードするアプリで、利用者は入金や取引履歴などが管理できるほか、二次元コード(QRコード)の読み取りで手軽に決済可能なうえ、チャージするとプレミアムポイントがつく特典も。気になるセキュリティは、指紋認証や暗証番号の設定などで対策がとられていて、参加する店舗側にとっても初期投資や手間がかからない点も大きな特長となっています。加盟店は2018年2月14日時点で300を超え、食事や土産物の購入だけではなく宿泊や旅行などにも使えるため、地域活性化に向けて「さるぼぼコイン」が大きく期待されています。

 

「しまとく通貨」は、長崎県の離島活性化を目指す

 

次にご紹介する「電子地域通貨」は、長崎県の離島市町(壱岐市、五島市、小値賀町、新上五島町、佐世保市宇久町)による「しま共通地域通貨発行委員会」が、2016年10月から電子化して発行しているプレミアム付き商品券の「しまとく通貨」です。
1セット5000円で、2割にあたる1000円分の特典がつく商品券「しまとく通貨」は、すでに2013年から2015年の3年で約104億円分の販売実績があり、その販売データを分析したところ、島を訪れる観光客は複数の島を周遊する傾向があることが判明。そこで、「しまとく通貨」が利用できる新しいツアーを旅行会社等と開発し、商品化しました。今回の電子化によって、利用者の利便性向上に加え、25%相当のコスト削減も見込まれているそうです。

「しまとく通貨」のシステムとして選択されたのは、株式会社J&Jギフトと株式会社ギフティが共同提供する電子地域通貨システム「Welcome! STAMP(ウェルカム スタンプ)」です。これはスマホ上のウォレットで管理され、画面を見せるだけで支払いが完了、チャージも簡単にできるすぐれもの。さらに店舗側は、スマホに電子スタンプを押すだけで決済が完了するというしくみです。「しま共通地域通貨発行委員会」では、販売対象である観光客等に積極的に利用してもらうべく、「しまとく通貨」で利用可能な商品を揃えながら、離島の活性化を目指して普及に力を入れています。

 

フィンテックが地域を変えていく

 

「地域通貨」というと、これまでは紙で作られた商店街の商品券や小切手、または磁気カードなどを指し、地元に経済効果をもたらすことを目的として導入されたものが一般的でした。それらはコストや管理に手間がかかるうえ、継続的普及が難しく、地域に根差す通貨になりにくい側面がありました。
一方、アマゾンや楽天などのインターネット通販企業がしのぎを削る昨今、消費者はわざわざ買い物に出かけずとも、いまや家の中や電車の中など、いつでもどこでもショッピングができる時代に。特に地方ではその傾向が顕著で、廃業に追い込まれる店舗が相次いでいます。

この状況に危機感を募らせたのが、地方の銀行や信用組合などの金融機関です。地域の経済発展プランを描く中で、「地域限定」であり「手間やコストをおさえ」「使いやすい」……これらの条件を満たす「電子地域通貨」に注目し、そこで活用されたのが「金融」と「IT」を融合させた「フィンテック」だったのです。

 

あちこちで導入の動きがあり、期待が高まる「電子地域通貨」

 

「電子地域通貨」は先にご紹介した岐阜県飛騨高山地域、長崎県の離島市町のほか、愛媛県の伊予銀行や千葉県の君津信用組合などが実証実験を行う(予定)など、あちこちで導入の動きがあり、期待が高まっています。しかし課題がないとは言えません。どのような魅力ある特典で利用者を増やし、そこからどのように定着させていくのか……。さらには、使いやすさはもちろん、セキュリティにも当然注意を払わなければなりません。あるいは長期的視点に基づき、日本が抱える大きな問題である人口減少や少子高齢化、地域経済の停滞などを、どう盛り上げていくべきか……。

そうした中、2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて増大化する観光客(特に訪日外国人)への対応も大きなポイントとなるでしょう。短期間のうちに財布に“法定通貨”をさほど入れず、電子マネーを使用する光景が珍しくなくなったように、今後は「電子地域通貨」普及が “日本の有り様”を大きく変化させるかもしれません。

参考:朝日新聞、「さるぼぼコイン」、「しまとく通貨」

≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、介護福祉士の資格を取得。現在は社会福祉法人にて障がい者支援の仕事に携わる。28年に及ぶクラシック音楽の評論活動に加え、近年は社会問題に関する執筆も行う。


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