曲がり角を迎えている「ベースアップ」「定期昇給」。争点はどこに?


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2018年の春闘がまさに大詰めを迎えようとしています。連合(日本労働組合総連合会)は、ベースアップ(ベア)の幅を「2%程度を基準」とし、定期昇給(定昇)と合わせて4%程度の賃上げを求める方針を掲げました。

一方、政府も安倍首相が3%の賃上げを経済界に要請し、経団連(日本経済団体連合会)は、ベアと定期昇給を合わせて3%の賃上げを会員企業に求めています。
バブル経済崩壊後、死語になりかけていた「ベースアップ」という言葉。アベノミクスとともに2014年の春闘から復活しましたが、「ベースアップ」と「定期昇給」の違いを正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。これらの言葉の意味を軸に、賃上げのしくみを再考してみます。

 

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ベースアップと定期昇給の違い

 

同じ賃上げでも、ベースアップと定期昇給はまったく別物です。勤続年数や年齢が上がるごとに基本給が上昇するのが定期昇給。わが国においては多くの会社で年功序列制度を採用しているため、勤続年数が上がるごとに基本給が上昇する賃金カーブが描かれます。定期昇給率が2%とすると、20万円の基本給だった新入社員は2年目で20万4000円に。勤務評価によって個人差があるとはいえ、年齢による賃金カーブが描かれます。このカーブに沿って毎年定期的に賃金が上がるのが定期昇給です。

これに対して、ベースアップは年齢に関係なく基本給がアップすることを指します。賃金交渉のなかで「ベースアップ=1%」で労使間の合意がまとまったとします。20歳の新入社員の基本給が20万円とした場合、翌年入社した1年後輩の基本給は同じ20歳でも20万2000円(1%アップ)の基本給がもらえる、という仕組みです。賃金テーブルの書き換えによる全員の賃金水準の底上げを意味します。

同一人で比較すると、定期昇給2%で4000円、さらにそこからベースアップ1%で2040円、合わせて3%となり6040円の賃上げ、ということになります。

 
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企業側から見たベースアップ

 

ベースアップは基本給の底上げとなることから、労働者としてはできるだけUPしてほしいところですが、雇う側から見れば、人件費の固定部分が増えることになり、将来におけるリスクを抱えることになります。春闘において労使で丁々発止のやり取りが繰り広げられるのも当然と言えましょう。

ベースアップの機能は二つあります。一つは労働生産性が向上することによって企業収益が増加したことに対する評価機能です。生産性が上がれば上がるほど、賃金を厚く底上げすることに名分がつきます。逆に労働生産性がまったく向上していない場合には、ベースアップをゼロとすることにも正当性が認められるでしょう。
例えば、10人で作業していた作業工程を生産性の向上により9人でできるようになったとします。人件費は1割削減されますので、そこから得られる収益の増加分から一部を賃上げにまわすことにより、労使双方win-winの形となります。

次に、インフレ局面における物価上昇率に対応する形で名目賃金を調整する働きがあります。インフレによる賃金の目減りを調整する役割ですが、21世紀に入って次第にデフレ傾向となったことから多くの企業でベースアップが見送られてきました。
一度上げた賃金は業績悪化時でも下げることが困難であるため、企業側はベースアップの実施には慎重にならざるを得ない、という側面があるわけです。

 

定期昇給はわが国固有の賃上げ制度

 

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欧米においては成果主義の考え方から職能給が浸透しているため、そもそも年齢や在籍年数が増えるだけで賃金が上がる、という定期昇給の概念がありません。仕事における能力を査定して、そこから賃金を決定する職能給が個人別賃金制度の基本となります。Aさんは▲▲の仕事ができるから○○円が適切だが、Bさんはまだ■■を任せられないから○○円、という考え方です。
 
わが国においては、在籍年数が増えることによって習熟度が増し、能力も向上して生産性に寄与できる、と考えられてきました。ここから勤続年数に応じて賃金を上げる定期昇給という概念が生まれ、わが国固有の賃上げ制度として多くの企業で行われてきたのです。欧米の考え方を取り入れた職能給の考え方も、高度経済成長期から安定成長期へ移行する際、それまでの集団主義的な労働関係の見直し策として人事考課制度を通して賃金制度の中で試行されてきました。しかし、これはあくまでも年功序列・終身雇用というわが国の雇用慣行を前提とした定期昇給制度が基本となっています。
 

 

終身雇用・年功序列の崩壊

 

近年ソニーと日立に続いてパナソニックまでが年功序列の考え方を廃止。仕事や役割を重視する賃金体系の導入に踏み切ったことで、わが国固有の賃上げ制度は大きな転換点を迎えています。そもそも年功序列は、経済成長が永遠に続き、若年労働者が増え、企業は成長し続ける、という前提で成り立っていました。定期昇給制度のもとでは中高年層に能力とは関係なく高い賃金が支払われます。これを支えるのは、毎年大量に採用される若年労働力です。ところが、バブルがはじけて以降、経済成長が止まり、少子高齢化によって若年労働者が足りなくなることで、この前提が崩れてしまったのです。

経済成長が見込まれない今のわが国においては、企業の拡大・成長も予測ができず、若年労働者に将来の希望を持たせ、愛社精神をはぐくむ終身雇用・年功序列という従来の雇用慣行を維持することが難しくなってきました。大手企業でさえ賃金体系の変更を余儀なくされるのは、このような背景によります。

さらにデフレがこの傾向に拍車をかけています。戦後から続いたインフレ経済の中、物価の上昇に合わせたベースアップもデフレの局面では意味合いが薄れてきました。インフレ経済における名目上の利益の増大という原資がない中、経営側からはベースアップなど到底無理であり「ない袖は振れない」ということになります。
終身雇用・年功序列の崩壊ととともに、定期昇給・ベースアップという春闘での争点も、曲がり角にきていると言ってよいでしょう。

── 2020年の東京オリンピックを前にわが国の経済は久しぶりに勢いを取り戻しています。こうした背景から安倍首相が3%の賃上げを要請。しかし、オリンピック後を見すえれば長期的な経済成長やデフレからの脱却は期待できず、少子高齢化も止まりません。春闘で争点となっている定期昇給とベースアップもここ数年の命運かもしれず、近い将来「昔は春闘というのがあって、毎年賃金が何%も上がったんだって……」と言われる日がくるかもしれません。

≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、介護福祉士の資格を取得。現在は社会福祉法人にて障がい者支援の仕事に携わる。28年に及ぶクラシック音楽の評論活動に加え、近年は社会問題に関する執筆も行う。


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