「台風発電」で、日本のエネルギーミックスは劇的に変化するか


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2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震は、震源とされる胆振地方中東部を中心に大きな被害をもたらした。また、北海道電力管内のほぼ全域で電力が止まる「ブラックアウト」が発生し、あらためて電力政策の見直しが国民の一大関心事となった。
そんな中、次世代の風力発電に取り組むベンチャーが注目を集めている。それは、単に風車を利用した発電ということではなく、これまで風車をも破壊してしまうほどの暴風雨をもたらす台風を利用した「台風発電」だという。
いったいどのような発電方法で、それは日本のエネルギー政策にどのような影響を与えるだろうか。

ヨーロッパ諸国に大きく後れをとる日本の風力発電

海岸近くの高台に大きな風車がまわっている光景を、多くの人が見たことがあるだろう。日本国内でも、風力発電は珍しくない施設となりつつある。日本での風力発電は2000年以降から導入件数が増え続け、2016年度末には2203基、累積設備容量は335.7万kWまで増加している。

しかし、これでも日本の風力発電は、欧米諸国に比べるとまだまだ導入例が少ないのが現状だ。ヨーロッパ諸国では、発電電力量のうちの30~40%を再生可能エネルギーが占める国も珍しくなくなっており、その主力が風力発電なのだ。

資源エネルギー庁が、2030年のエネルギー供給の未来像を示した「エネルギーミックス」では、全体の「電源構成」(発電する方法の組み合わせ)の1.7%程度を風力発電とすることをめざしている。
しかし2017年3月時点で、太陽光発電は2030年見通しに対して約61%の導入が進んでいるのに対して、風力発電は約34%しか導入が進んでいないのだ。

日本での普及率はごくわずか。それはなぜか?

世界では再生可能エネルギーの主流は風力なのに、四方を海で囲まれている日本での普及率はごくわずか。それはなぜなのだろうか。

実は、島国・日本ほど風力発電が普及しやすいと考えがちだが、日本の国土は起伏に富んだ地形が多く、そのために風向きや強さが一定ではないため乱流になりやすいことが普及の足かせになっている。また、台風や暴風雨が多い過酷な自然環境こそが、風力発電の普及を妨げる一因ともされているのだ。

風力発電は、風が強ければ強いほど発電量は増える。とすれば、風力発電装置に台風の強風が吹きつければ、より多くの発電が可能になるはずだ。しかし実際には、秒速25mを超える強風下では、暴走や破損の危険性があるため風力発電装置が停止する仕様になっている。つまり、莫大なエネルギーが“そこ”にあるのに、“それ”を使えないというジレンマがあることになる。

日本における風力発電のメリットと課題とは?

ここで、日本での風力発電のメリットと課題を見てみよう。

《風力発電のメリット》
・陸上と洋上で発電が可能
周囲を海で囲まれる日本だからこそ、陸上に加えて洋上での発電も検討・計画されている
・経済性を確保できる可能性がある
風力発電を使用して大規模発電が可能になれば発電コストは火力発電並みになる
・変換効率がよい
風力エネルギーは、高い効率で電気エネルギーに変換できる
・夜間も稼働可能
太陽光発電と異なり、風さえ吹けば夜間でも発電できる

《風力発電の課題》
・国内では発電コストが高止まり
世界では、風力発電の発電コストは低下している。しかし、日本では世界平均の約1.6倍となっている
・風車を設置するための調整が大変
環境アセスメントに通常3〜4年の時間がかかる。また、地元の調整などに時間や経費がかかる

こうした点から、風力発電は島国・日本にふさわしい発電方法で、十分な経済性が期待できるものの、現状としては導入に時間がかかったり、発電コストが高止まりしていたりすることが積極導入への足かせとなっているのだ。

台風のパワーで発電できる「プロペラのない風力発電」

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なかなか進まない国内の風力発電に、文字通り“新風”を吹き込んでいるのが、ベンチャー企業の株式会社チャレナジー(本社・東京)だ。同社では、風力どころか時に大きな自然災害を引き起こす台風のパワーをエネルギー源とし、そこから電力を生み出そうという「台風発電」プロジェクトを進めている。

日本は、毎年いくつもの台風が接近、あるいは上陸する“台風大国”だ。そうした自然環境下にある日本は、風力発電大国になれるポテンシャルがあると評価される一方で、風の強さや向きが変わりやすく、これまでのプロペラ式風車には厳しい環境と言わざるを得なかった。台風のたびに風車が倒壊するなどの事故もたびたび起こっているのが現実だ。

そこでチャレナジーは、台風でも安全に発電できる「プロペラのない風力発電」の実用化を目指しているのだ。

われわれが海岸などでよく見かける風車は、一般的に普及している「水平軸プロペラ式」の風力発電機。この水平軸プロペラ式だと一方向からの風でまわるだけなので、効率よく安定した発電ができない。また、風があまりに強烈だった場合、暴走や倒壊などの危険性もある。
これに対して同社が開発をめざす「プロペラのない風力発電」は、前者とは全く機構が異なる「垂直軸型マグナス式風力発電機」だ。これは、円筒を気流の中で回転させた時に発生する「マグナス力」を利用し、風車を回転させる仕組み。

マグナス力とは、空気の流れ(風)の中に回転する円筒や球を置くと、流れの方向に対して垂直方向の力(揚力)が発生する現象のこと。野球や卓球などの球技で、球を放つときに回転を加えると、球が曲がったり、あるいは浮き上がったりする。このような変化球は、マグナス効果によって生まれるものなのだが、古くは飛行機を飛ばす揚力を得るために、このマグナス力の研究が進められたという。

垂直軸型マグナス風力発電機は、風が吹く中、モーターで円筒を駆動させてマグナス力を発生させる。台風のような強風下でも、円筒の回転数を調整すれば風車は暴走することがない。しかも垂直軸を採用したことで、強風にも耐えられる強度を確保でき、また、どの方向から吹いてくる風でも発電することを可能となる。これにより、風速・風向が頻繁に変わる日本のような自然環境下でも安定して発電ができ、しかも静音だという。

台風銀座である日本に、アジア諸国が注目

同社は2016年から、1kW試験機を沖縄県南城市に設置し、発電量の変化や耐久性をテストしている。さらに2018年8月からは10kW試験機の実証実験もスタート。2020年以降に量産販売をスタートさせたい、としている。

この垂直軸型マグナス風力発電機は、計算上、秒速70mまで耐えることができるとされ、日本をはじめ台風やハリケーンが多く発生するアジア地域などが主なターゲットだ。すでに30を超える国や地域からの問い合わせがあり、2017年10月にはフィリピン国家電力公社と同国での共同実証に合意している。

同社は2018年に10機程度、2019年に40~50機程度、そして量産が始まる2020年には100機クラスの受注を見込んでいる。これは日本とフィリピンの市場情勢から見込まれている数字だが、世界的に風力発電市場はまだまだ伸び代を持っている。実績が上がれば、この数字もさらに上積みされていくかもしれない。

前述したように、周囲を海に囲まれた日本は風力発電に適した環境にある。
刻々と変化する風向きや風力を柔軟にとらえてエネルギーに変換できる風力発電機が開発され、しかも量産によって設置コストが下がれば、一気に導入に拍車がかかる可能性がある。
いまだ各地の原発再稼働に積極的な意見も多い中、この新しい風力発電が日本のエネルギー政策に大きな影響を与えることになるかもしれない。

≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、エンタメなど、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車などなど。新潟県長岡市在住。


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