ユーロ景況悪化・ECB金融緩和強化も逆風


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金融市場は米中の貿易摩擦が何ら改善方向に向かうことはなく、トランプ大統領は中国に対して第四弾の追加関税を課し、そして中国を為替操作国に認定しました。その結果、グローバルな経済、特にユーロ圏経済も経済、そして金融面で大きな影響を受けています。

3つの指標からみる景況感

まずは経済面を検証しましょう。経済状況を知る三つの指標、つまりGDP(国内総生産、ユーロ圏の場合は域内総生産)、失業率、インフレ率をまず見ましょう。
ユーロ圏第2四半期GDP速報値:0.2%前期比、前年比1.1%と、物足りない数字です。先進主要国の数字と比較すると、米国第2四半期:2.1%前期比年率、日本第2四半期:1.8%前期比年率と比べると見劣りする数字と言えます。
ユーロ圏6月失業率は7.5%となっています。米国7月3.7%、日本6月2.3%とこちらも見劣りします。最後にインフレ率ですが、ユーロ圏7月消費者物価指数速報値:1.1%前年比、コア0.9%と、ECB(欧州中央銀行)のインフレ目標の2%からは大きく乖離しています。
2月消費者物価指数1.5%前年比、コア1.0%前年比と比較しても、落ち着いた物価状態が続いていると言えます。経済が伸び悩み、失業率も高い、そして物価が全く上昇する気配さえないというのが実情です。

ドラギECB総裁が、前回定例理事会の記者会見の場で、特に製造業の景況感が悪いと言われていたことが筆者には気になりました。
そこで、ユーロ圏のPMI(Purchasing Managers Index 購買担当者へのヒアリング調査)を見ると、今年に入り、製造業のPMIが著しく悪化してきているのです。
下記のグラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、過去10年間のユーロ圏PMIと総合(紺)、製造業(薄青)そしてサービス部門(赤)を示しています。
これを見ると、薄青色の製造業の数字が今年に入り急速に悪化していて、直近7月の数字は46.5となっています。景気の分かれ目50を今年に入り割り込んでいます。
ユーロ圏主要国ドイツは特に製造業に強みがあるのですが、7月の数字は43.2とユーロ圏の数字よりも遥かに悪い数字となっています。サービス部門の数字は50を上回っており、こちらは堅調な地合いが続いています。
スペインなどは、観光業が経済をけん引する経済構造となっているのですが、フランスやイタリア等も、観光業を中心に製造業の落ち込みをカバーしているのではないかと筆者は想像します。
このように見ると、まだまだトンネルの出口が見えず、年初より、ユーロ圏経済の現状は深刻化しているではないかと想像します。

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ECBの金融緩和は効果を生むか

このようなジレンマを抱えるECBは、金融緩和姿勢を強めています。
7月下旬の定例理事会では、追加利下げや量的緩和政策の再開を検討していく方針を固めたようです。
前回定例理事会までは、2020年前半までは現状の政策金利を維持するとしていましたが、それを変更して、「現状か、それよりも低い水準にする。The Governing Council expects the key ECB interest rates to remain at their present or lower levels at least through the first half of 2020.」と明記しています。
つまり、金利について引き下げる場合もあるとして利下げを示唆しました。現状のECBの政策金利は、政策金利(Main refinancing operations)0.00%、預金金利-0.40%、貸出金利0.25%となっています。
民間金融機関がユーロ圏各中央銀行に余剰資金を預ける金利は、-0.40%とマイナス金利であり、懲罰的意味合いを持ちます。資金を預けるのではなく、積極的に民間企業に資金を貸し出してくださいと言っているかのマイナス金利です。
金融市場には、今回この預金金利のマイナス幅をより大きくするのではないかと言う観測があったのは事実です。しかし、ECBはそのような動きには出ず、9月12日の定例理事会で、主要政策金利自体をマイナス幅に動かすことも検討に入っているのではないかと思います。

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もう一つの柱である量的緩和政策については、3月の定例理事会で既に9月から、TLTRO-Ⅲ(貸出条件付き長期資金供給オペ)を開始するとしています。
2年物資金を主要政策金利水準で資金供給するとしていまが、それだけでは足りない景気状態と判断したECB幹部は、更に追加資金供給を考えているようであり、新たな資金購入の準備に入っているようです。
その意味では、次回9月定例理事会は注目です。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は膨大に膨れ上がってECBの資産の状況を示しています。
縦線の部分が現状です。これを見ると現在は約4兆7千億ユーロ(約554兆円)です。9月開始のTLTRO-Ⅲに加えて、更に資産購入を続けると、5兆ユーロ(約590兆円)にまで膨れ上がります。
この数字はFRBの約480兆円、日銀の約550兆円を上回っていますが、これほど資産購入して資金供給しても、ユーロ圏経済は一向に経済が好転へと向かわないのです。

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極右政党の台頭で金融政策の注目はECBに

主要経済国である独製造業が振るわないことは、対米での自動車輸出がトランプ大統領からの圧力で落ち込む傾向にあることも要因であると思います。
ドイツは現在メルケル首相自身が求心力を失い、新たな体制を模索している段階に来ている。そのために、明確に経済財政政策を打ち出せないジレンマに陥っています。
またイタリアでは、連立を構成している「同盟」と「5つ星運動」が政策で折り合うことがないとして、総選挙が行われるとの観測があります。
スペインもサンチェス暫定首相の状態であり、PSOE(社会労働党)とUnidas Podemos(ポデモス)が連立を組めない状況にありますので、再度秋に総選挙を行うという観測が出てきています。

総じて、ユーロ圏諸国では、極右政党が台頭してきており、自国中心的政党が支持される傾向があります。そのために、積極的に経済財政政策などでテコ入れが出来ない国々が多く、どうしても金融政策を司るECBの政策が目立ってしまいます。

グローバルな金利低下が、ユーロ圏でも支配しています。
下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)をご覧ください。ユーロ圏での指標債券独連邦債10年の利回りの推移を2014年から直近まで示しています。
現在は-0.516%とマイナス幅を広めている状況にあります。経済が弱いのと、債券市場の特色であるグローバルなリスク回避の動き(米中貿易摩擦が主要因と言えます。)を反映した債券買いの利回り低下の動きとなっています。
仏10年債:-0.27%、オランダ10年債:-0.44%とこれまでプラス圏であった両国もマイナス金利の債券市場、そしてスペイン10年債:0.26%、イタリア10年債:1.57%、そしてあのギリシャ10年債でさえ2.06%にまで利回り低下の動きとなっているのです。

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まとめ

投資としてユーロ圏金融商品を見ると、
①債券では低利回りで妙味なし。
②経済落ち込みが激しく、株式市場でのキャピタルゲインへの期待感も乏しい。
③ユーロ為替相場を見ると、対ドル、対円とものユーロ安相場が続いている
という状況です。ECBが追加利下げ、追加資産購入と金融緩和観測が強いことが理由です。
ユーロ圏金融商品に投資しても、本邦投資家が円に交換する為替レートで、債券金利償還、株式の円への転換でどうしても不利になってしまいます。
しばらくユーロ圏投資には慎重であるべきだと言えます。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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