欧州の政治混乱がECBに及ぼす影響はあるのか?


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欧州の政治情勢が落ち着きつつあるようです。ドイツでは連立政権ができるのかに関心が集まっていました。そしてイタリアでは総選挙と。そんな中、ユーロ圏の中央銀行ECB(欧州中央銀行)はどのような対応をするのか注目が集まっていました。

Ⅰ:ドイツ政治模様:
去年9月ドイツの総選挙が行われました。その結果、メルケル首相率いる与党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は過半数を取れない結果となりました。与党だけでは単独政権を維持が出来ない結果、政権運営に不安が出ていました。
現状では、独連邦議会の総議席数709席に対してCDU・CSU:246議席、社会民主党(SPD):153議席で、主義主張が異なる二つの政党が連立することで、連立政権が可能です。その他政党には、他の欧州諸国同様にポピュリズム政党が台頭してきて、移民排斥などを争点にして議席を伸ばしている状況です。
3月4日にSPDはCDU・CSUとの連立政権することに合意するかどうかの党員投票をした結果、賛成66%、反対34%で辛うじて連立することに決定しました。連立政権誕生となり、ほっとしているメルケル首相ではないかと思います。
しかし、その代償は大きく、何かというと連立政権を組む結果として、重要ポストの財務相をSPDに譲るというものです。これまではショイブレ財務相が、財政規律の重視し、国内外で無難な政策運営をしていました。ショイブレ財務相は、メルケル首相の懐刀的役割を果たしていましたが、SPDの党首代行を務めるショルツ氏が財務相に就くことなりになりました。
ギリシャ、イタリア、ポルトガル等南欧諸国に債務危機問題が持ち上がった際には、自国での財政再建を強く求める政策を主張していたようであり、容易に財政豊かなドイツが支援には回らない姿勢のようです。これまでの協調路線とは異なるようであり、注意が必要ではと思います。また外相にもSPDの閣僚が就くようであり、未知数と言えます。
従って、これまでのような良識あるユーロ圏の盟主であるドイツの主張が続くのか疑問符が付くと言えます。メルケル政権が続くのですが、多少の不安が付き纏う船出になるのではと思います。政治的不安定性が如実に表れる独連邦債の動きには大きな変化はないようです。指標である10年債の利回りは0.60~0.70%の間で推移していますので、現状ではドイツ政治情勢の不安定性には気にしていない金融市場ではないかと思います。

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Ⅱ:イタリア政治模様:
3月5日の総選挙の結果、下院では同盟、フォルツァ・イタリア等で構成する中道右派連合約37%、ポピュリズム政党「5つ星運動」約32%、そしてレンツィ首相率いる民主党を中心とした中道左派連合約23%となりました。レンツィ首相は辞任を表明しました。単独政党ごとの議席を見ると5つ星運動が首位であり、ディ・マリオ党首が政権作りを主導すべきであると主張しています。
現状では中道右派連合の影の実力者ベルルスコーニ元首相が、同盟のサルビーニ党首を推す動きがあるようです。同盟では移民排斥を主張していて、5つ星運動との主義主張とも似ていますため、この先の連立政権の動きが不透明であると言えます。筆者は今後、ややポピュリズムの性格を帯びた政権運営をすることになるのではと懸念しています。
ユーロ圏の盟主を自認していたメルケル独政権の変化、そしてポピュリズム政党とは一線を画すマクロン仏政権とは性格を異にするようです。ユーロ圏主要3国それぞれ独自の政策運営をしそうです。このことを投資家はどのように評価しているのかをイタリア債の利回りの動きで検証しましょう。下記はイタリア10年債過去6ヶ月の動きを示しています。(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
これを見ると、政治の好転を期待して、昨年総選挙に踏み切ると宣言したレンツィ前政権を評価し、伊債券買いの動きとなり、利回り低下が著しいようです。(多分に世界的な債券買いの動きも影響したようです。)その後年初からは2%前後で推移し、そして3月5日の総選挙。連立政権に不透明感が広がり、一時2.10%まで債券が売られ、利回り上昇となりました。しかし、大きな政治的要因にはならないと市場は解釈したようであり、現在は2.00%前後の動きになっているため、ひとまず大きな混乱は引き起こさないと言えます。

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Ⅲ:ECBの金融政策運営:
選挙の結果、どっしりとした政権がぐらつく独政権、ややポピュリズム色が想起される伊政権、そして中立の仏政権と三国それぞれの特色が見られます。逆に極端には一方向には向かわないユーロ圏諸国であり、その意味では安定するユーロ圏政治模様と言えそうです。ECBは金融政策が政治には左右されない好条件になるのではと思います。特に南欧諸国の財政規律問題では、今後も良識があるのではと期待される独、そして仏政権であると言えます。筆者はやはりフランスがポピュリズム政党躍進にならなかったことが大きいのではないかと思います。欧州の良識が働いたと評価します。

3月8日のECB定例理事会では、政策金利:0.00%としました。そして声明文の中で、これまで記述されていた「量的緩和政策の規模などを拡大する。」という文言が削除され、「必要ならインフレ目標と一致したインフレの道筋において持続的な調整を行う。」に変更しました。インフレが上昇することを想定した金融政策を続けるとフォワードガイダンスの変更と言えます。量的緩和については現在月額300億ユーロの資産購入を9月末まで続けるとしていますが、これからは次の3つのシナリオが考えられます。

①9月末で打ち切る。②段階的に減額し年内で終了する。③当面継続する。

直近のユーロ圏2月消費者物価指数は1.2%前年比です。ECBのインフレ目標は2.0%とは大きなかい離があり、インフレ圧力は現在高まっていないと言えます。潜在的なインフレ圧力をECB首脳陣は認識しているのではと思います。その意味では②(段階的に減額し年内で終了する。)のシナリオが現在では一番有力ではないかと思います。そして来年はインフレ圧力が上昇するとの条件の下、来年中頃までには利上げを実施することになるのではと筆者は予想します。ECBは慎重に6月開催の定例理事会で、9月以降の量的緩和の是非について判断することになります。今後のユーロ為替動向にも大きく関わりますから、引き続き注意して見守りたいところでしょう。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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