2019年「軽減税率」導入へ。今後の影響は? イギリスで起きた“ポテチ裁判”とは?


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今年6月、消費税10%への引き上げが2年半後の2019(平成31)年10月に行う考えであることが発表され、あわせて軽減税率制度の導入も発表されています。
増税とセットで語られる軽減税率ですが、一体、軽減税率とは何なのか。メリットとデメリットは──。軽減税率のキホンをご紹介します。

さらに、軽減税率は、日々買い物をする消費者に直接関係する税率ですが、販売する側の小売業事業者にとっては、経理システムの変更を迫られる時間もコストもかかる重要な出来事。そうした軽減税率をめぐる、海外で起きた“ポテチ裁判”もあわせてご紹介します。
 

軽減税率を、なぜ導入する?

 
消費税とは、日本で買い物をするすべての人に一律でかかる税です。
この消費税が、現在の8%から10%に引き上げられると、家計の中で生活費──とくに食費に占める割合が高くなり、所得の低い人ほど生活が苦しくなってしまいます。
このため軽減税率を導入し、特定品目は税率8%に据え置きにすることで、家計負担を軽減していこう、というのがこの制度の趣旨になります。
 

軽減税率の対象品目は?

 
2016年7月現在、発表されている軽減税率の対象品目は以下のとおり。
① 酒類と外食を除く「飲食料品」
② 定期購読契約に基づく週2回以上発行される「新聞」

①については後に詳述しますが、飲食料品は分かるにしても、なぜ新聞が対象項目に?と思われるかもしれません。
すでに軽減税率を導入しているヨーロッパを見ると、イギリス、ベルギー、デンマーク、ノルウェーの4カ国は、ゼロ税率。ほかのEU各国でも、新聞の税率は標準税率(日本の消費税)の半分以下。新聞は「思索のための食料」という考え方により税率が低いのです。
 

「外食」と「テイクアウト」の線引きは?

 
では、酒類と外食を除く「飲食料品」とは、どこまでを指すのでしょう。外食の定義は、
① イスやテーブルなど飲食の設備がある場所でのサービスの提供がある場合
② 客が指定した場所での飲食サービスの提供

ピザの宅配や出前を注文した場合は軽減税率8%、ケータリングは外食扱いで消費税10%になります。ただし、有料老人ホームでの飲食料品の提供や学校給食は、ケータリングの例外扱いとなり軽減税率が適用(高校や大学の学食は外食扱いです)。
また、大型商業施設などに設置されたフードコートで食べたいものを注文し、食事をした場合はどうなるのでしょう。これももちろん外食とみなされ消費税10%になります。

では、次の場合はどのようになるのでしょう。

【ケース1】 ハンバーガーや牛丼などを店内で食べず、テイクアウトした。
◎ 8%の軽減税率が適用されます。店内で食べたら消費税10%です。

【ケース2】ハンバーガーなどを、最初はテイクアウトするつもりで購入、買ったら気が変わって店内で食べた。
◎ 軽減税率が適用されます。「外食」かどうかの判断は、「販売の時点で決まる」と現在のところはしています。

【ケース3】カラオケボックスやホテルのルームサービスで飲食を注文した。
◎ 外食と見なされ、消費税10%になります。

【ケース4】お祭りの屋台で焼きそばを買った。
◎ 屋台に、テーブルやイスがなければ外食と見なされず、軽減税率となります。

このように、軽減税率は線引きが難しいところが多く、今後、さまざまな問題点が顕在化する可能性があり、導入までにさらなる審議が必要とされています。
 

導入して困ることは何?

 
軽減税率は、消費税のような単一税率ではないため、事務処理が煩雑になることから、売り上げ・仕入れ商品ごとに異なる税率や税額を記載する請求書「インボイス」を2021(平成33)年度から導入するとしています(税制改正関連法)。
これによって、複数税率であっても正確な税額を徴収でき、事業者の納税額を正確に把握することが可能とされていますが、スーパー等の小売り、卸売業、レストランなど、商品レジや管理システムの変更等、その対応に追われることは必至です。

経理システムの変更による事務コストの上昇は確実であり、日本商工会議所などはこの制度に反対していることから、こうした中小企業に配慮して「インボイス」の義務づけを2023(平成35)年10月まで引き延ばす措置も講じられています(2016年7月現在)。
 

軽減税率導入で消費税アップの目的は果たせる?

 
消費税10%に引き上げられた場合、その増収分は社会保障(年金・医療・子育て・介護など)の財源に充てるとしていました。しかし、軽減税率を導入すると、予定増収分から約1兆円分が不足することになります。では、この1兆円分の財源はどこから持ってくるのか……。

これについては、低所得者の軽減負担対策を見送ることで4000億円は確保したものの、残る6000億円については未定のまま。
先送りされた不足財源の捻出先は2016年度中に決めるとしていますが、またまた徴収しやすいタバコ、アルコールなどが財源候補として浮上するのでしょうか?
 

「プリングルス」はビスケット類か、ポテトチップスか

 
軽減税率は、ヨーロッパをはじめさまざまな国で採用されていますが、その特性ゆえ問題点も多く指摘されています。有名なケースでは、プロクター・アンド・ギャンブル社(以下、P&G)の商品で、日本でも購入できる「プリングルス」にまつわる凡例があります。

そもそもイギリスでは、ジャガイモを原材料とした「ポテトチップス」は軽減税率対象外となり標準税率20%。ケーキ、ビスケット類は軽減税率対象でゼロ税率。

そして、プリングルス……。
皆さんは、プリングルスを「ポテトチップス」として買っていますか?
それとも、プリングルスは「ビスケット」でしょうか?
実は、原材料であるジャガイモの使用率は42%で、小麦粉などを混ぜてポテトチップスのように形成しているため、P&G社はプリングルスを「ビスケット類」としてゼロ税率で販売していたのです。
しかし、イギリス税関庁はこの主張を認めず、「プリングルスはポテトチップスか否か」を争う裁判に発展。一審はP&G社が勝訴したものの、最高裁では敗訴、最終的にプリングルスは「ポテトチップス」と認定されたのです。

今後、これと似たケースが日本でも起きることは容易に予測され、軽減税率の線引きの難しさや、租税回避する商品が出てきてもおかしくないと指摘されています。
軽減税率とは、生活必需品にかけられる税率。
なにをもって生活必需品とするのか、難しい面もあります。さらには、財源問題も含めてどのように推移していくのか、社会保障のあり方と税のあり方は今後の日本を左右する問題であり、しっかりと見きわめていきたいものです。

※ 記事内容は2016年7月時点でのものです
 
 

≪記事作成ライター:ナカムラミユキ≫
千葉出身。金沢在住。広告制作会社にて、新聞広告を手がける。映画、舞台からメーカー、金融まで幅広い記事広告を担当。著名人インタビューや住宅関連、街歩きコラム、生活情報まで興味の赴くまま執筆しています。


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