先週日曜日にフランス大統領選挙第二回投票が行われ、中道派のマクロン候補が大差で極右政党党首ルペン候補を下し、フランス大統領に当選しました。得票率を見ると、マクロン氏66%、ルペン氏34%となりました。しかし白紙・無効票が約11%と両候補にNOを突き付けた国民が多かったという事実も認識しないといけないようですが、それはフランスの内政問題。国際的には、欧州の政治情勢が落ち着き、旧来の保守的政治に回帰する雰囲気にあるようです。
昨年の米大統領選挙でトランプ政権が誕生し、自国ファーストの政権が誕生しましたが、フランス大統領線はその流れを断ち切ったのではとの観測が強いようです。自国ファーストの政権ではいろいろと歪が出てきており、国際協調、そして自国の利益について、欧州の国民の理解が深まったと好意的に理解したいところです。
3月のオランダ総選挙、今回のフランス大統領選挙で、一定の審判を受け、国際金融市場では、不安感がかなり軽減されてきたのではと思います。これを如実に物語る指標が“VIX指数”なのですが、現在9.77と20年ぶりの低水準になっています。リスク回避志向から急速にリスク志向に戻る動きにあるようです。
リスク志向に戻る過程では、まだ朝鮮半島情勢を注視しないとなりません。こちらは米国の圧力から中国が北朝鮮に対して、核ミサイルの開発を止めるように説得しているようです。そしてここに来て、米国と北朝鮮が第三国で直接交渉するのではとの情報もあり、北朝鮮と米国の緊張状態に雪どけムードが醸成されつつあるようです。このまま平和的に緊張感が解消する方向に行けばと希望します。いつ何時事態が反転するかわかりませんが、リスク志向に向かいつつある要因として意識したいところです。
金融市場はリスク志向になりつつある中、次のテーマを模索することになります。それはやはりFRB(米連邦準備理事会)が6月14日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、利上げが行われるかどうかという一点に集中していくのではと思います。今月5日発表の米雇用統計では、概ね良い数字が発表されました。4月失業率4.4%と引き続き良い数字となっています。4月非農業部門雇用者数21.1万人増と、3月の10万人を下回る雇用者数を打ち消しました。
もう一つの重要な指標、つまりインフレ率については、引き続きFRBのインフレ目標2.0%に近づいています。3月の消費者物価指数は2.4%前年比、生鮮食料品を除いたコア部分が2.0%になっていることに注目です。
また、原油価格がサウジアラビアが減産計画を延長する姿勢を強めており、下落している様子です。好景気維持の米国経済、夏休みの旅行シーズンと石油需要が高まることも予想され、電気自動車の普及もまだまだ先のことのように思います。そしてFRBが重視するPCEコアデフレーターは3月1.6%(前年比)とこちらは2.0%までには届いていないものの、景気上昇と共に、着実に上昇する動きにあるようです。
政治を見ると、トランプ政権は、法人税を大幅に引き下げる方針を明確にしています。具体的には、
・連邦法人税を現在の35%から15%に引き下げ
・個人の最高税率を39.6%から35%に引き下げ
という政策を打ち出しており、米企業、個人にとっては歓迎すべき政策と言え、ウォール街寄りの共和党政権ではと思います。そして10年間に1兆ドルのインフラ投資を打ち上げたトランプ政権は、公約事案を実行に移すことになります。このような政策は確実に米景気を押し上げることになるでしょう。こうした政策を実行するには、金融政策としては低金利政策が望ましく、トランプ政権とイエレン議長率いるFRBとは金融政策について対立することになります。
利上げをしたいFRBに対して、トランプ政権は景気上昇のためには低金利政策を継続するように主張する。春先の状況から改善しているようではあり、イエレン議長をホワイトハウスに招いて、両者の溝を埋める努力をしているようです。
緩やかな金利上昇は、景気好転には必然的な産物、そして必要対処療法であるとトランプ政権が理解すれば、利上げセッションと言う金融政策は受け入れられるのではと思います。中立金利がどのような水準であるか、そして中立金利が上昇するかどうか、イエレン議長は、上述の雇用情勢、インフレ統計と共に、利上げの再利上げを判断する材料にすることになります。
来月のFOMCまで、おおよそ1ヶ月の時期になってきました。筆者はドル短期金利先物(3ヶ月物)をそのヒントにしています。下記グラフはおなじみの12月限のチャートです。大きな流れを緑の線で示しました。
昨年12月と今年3月の利上げ時の反応が明確に次回利上げ時期観測のサインになるのではと思います。12月と3月の利上げ時には1ヶ月ほど前から利上げに向って価格下落(先物では価格下落は利回り上昇を意味します。)の動きを強め、そして利上げが発表されると価格上昇の動きになりました。今回もこの動がメインシナリオとなります。
そして98.50(利回り1.50%)の水準と、過去2回の利上げ観測が最大に盛り上がった水準、即ち98.35(利回り1.65%)に平行線を引きました。横軸が時間の経過を示しています。現在の水準は1.50%を若干超えており、FRBが今後年内2回の利上げを織り込む水準です。この水準をオーバーシュートし、過去2回の最大オーバーシュート地点の98.35水準を目指す動きになるかが注目のポイントです。
長期金利では、10年米国債2.50%方向が見通せます。多少の波はあるものの、大きな政治イベント、景気の大幅後退、その他リスク要因が見当たらない状況が続けば、このメインシナリオ方向で、金融市場を見渡せるでしょう。つまり、ドル高、そしてリスク志向が続くのではとのシナリオです。
米国株式市場の指標であるダウジョーンズ指数は21,000ドルを上回ってきており、そしてわが国では日経平均が20,000円をトライする状況にあります。リスク資産の割合を増やす素地が次第に出来上がりつつある5月の金融市場ではないかと思います。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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