欧州金融情勢に変化が


欧州、とりわけユーロ圏諸国の金融市場のテーマが変化してきているようです。
3月から5月にかけては、保護主義的主張をする極右勢力の台頭が、ユーロ圏政治の懸念材料でした。
それがオランダ、フランスでの極右勢力の敗北、そして本流のEU(欧州連合)は一つであると主張するマクロン仏大統領、メルケル独首相率いる勢力がその勢いを取り戻しつつあります。
そしてここに来て、テーマは金融政策に移り、ECB(欧州中央銀行)が金融調整に踏み切るかどうかが話題になってきました。

今年に入り、ECBはこれまでの量的緩和政策を調整するのではとの観測が強まっています。
ECBは現在月額600億ユーロ相当の資産購入を今年末まで続ける方針です。
資産購入の内容は、ユーロ圏各国国債、資産担保証券、カバードボンド(債権担保付社債)、社債などが含まれています。一番購入比率の高い資産は、国債とカバードボンドです。
下記のグラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)はECBのバランスシートの推移を示しています。資産の積み上がり具合を示しています。これを見ると、2014年末から上昇が始まったようです。
この時期は景気後退期にあり、そしてギリシャ、イタリア、そしてスペインで金融危機的事象が起きた時期でした。ECBは利下げに踏み切ると同時に、市場から資産を購入し、その対価の流動性つまりお金をばらまく、いわばヘリコプターマネーを市場に供給しました。
金利引き下げと量的緩和を同時に実施することで、これ以上金融危機を引き起こさない、そして企業などに低利で潤沢な資金を注入する体制の構築に励んだ格好です。
前回レポートでは米国FRB(米連邦準備理事会)の資産の保有のグラフを示しましたが、同様の形状のグラフになっております。現在4兆2460億ユーロにまで積み上がっています。
ユーロ圏の経済に回復が見られ、そしてインフレ率もECB目標の2.0%に近づく傾向が見られ始めました。そこで、ドラギECB総裁がこのバランスシートをどの様に減らしていくかに市場の注目が集まっています。
いわゆる量的緩和の縮小(テーパリング)です。今週はポルトガルでECBの経済フォーラムが開催され、その中で、ドラギ総裁が今後の方針を示しました。そして3つの重要項目を掲げて結論付けています。

  • 金融政策は機能していて、移行過程にある。全ての経済指標が強くユーロ圏の景気回復は広がっている。デフレ圧力がリフレに変わっている。(リフレーションとは、デフレから脱却し、インフレまで至っていない、デフレでもインフレでもない状態と定義づけられる。)
  • ECBのインフレ目標(2.0%)に戻ると我々は考えている。そして金融政策には持続性が必要である。
  • 我々は金融政策決定には慎重であるべきだ。経済が上向きつつある中、不確実性がまだ存在する中、景気刺激策が回復を伴うものとして確信が持てるように、政策パラメーターの調節は緩やかであるべきだ。

金融市場はこの言質に資産購入縮小開始は近いのではと反応してしまいました。

金融市場では9月か10月頃には、資産購入縮小を来年初めから開始する発表があるのでは?との観測が出ています。
来年年末までには資産購入縮小を完了するのではとの憶測も飛び出しているのですが、筆者は困難ではないかと思います。
現在4兆ユーロを上回るバランスシートですから、月額600億ユーロ購入しても、1年間で7,200億ユーロ。累計3兆ドルもままならないのではと思います。
上記グラフ(緑の矢印で方向性を加筆)を見ると、2兆~3兆ユーロ水準に軟着陸させるのではと推測します。
そしてもう一つの金融政策の要である政策金利については、その中心であるリファイナンス・オペレーション(fixed rate)を現在のゼロから引き上げてくることが予想されます。
政策金利の中の預金金利は現在-0.40%であり、こちらのレートも正常化に向けて引き上げられるのではと思います。FRB同様に正常化が命題となってくるのではと推測します。
ユーロ圏も最近の経済指標を見ると、ちょっと心もとない気がします。ユーロ圏5月消費者物価指数1.4%前年比と、上昇の勢いがなくなってきている。ユーロ圏第1四半期GDP(域内総生産)1.7%前年比も大きくは伸びていません。
このことを気にしてか、ドラギECB総裁は、最後の項目で、金融政策の決定には慎重であるべきだと強調しております。
不確実性なる要因がいつ何時出現してくるか不明であり、英国との関係では、Brexit交渉が今後本格化する中で、ユーロ圏側が全ての権益を押さえることができるとは限りません。どうしても負の要因が今後現れてくるのでしょう。

金利の動きを検証してみましょう。下記グラフ(出所:MoneyWatch社)はユーロ圏指標債券である独連邦債10年の利回り推移を過去3年間に渡って示しています。
上記ECBのバランスシートのグラフと比較してください。丁度2015年前半にかけて、利回りが急低下しているのと、量的緩和開始時期が一致していることが分かります。金融危機が差し迫ったものであることを実証しています。
その後利回りは若干上昇したものの、再度去年年央にはゼロ金利を示現しました。(日本国債10年がこの状態に現在位置します。)そして現在は0.43%まで回復してきています。
今後量的緩和の縮小観測が強まると、独連邦債も0.50%を上回り、1.00%方向に上昇することになると推測します。

しかしユーロ圏には、域内で景気がまちまち、各国でとるべき金融政策が違うという弱点を抱えています。ギリシャは財政危機、イタリアは民間金融機関の金融危機など、多用な問題を抱えていますので、まだまだ量的緩和による資金注入が必要に思われます。
しかしユーロ圏は各国中央銀行が機能していますが、それを統括するのが欧州中央銀行(ECB)です。これがドラギ総裁の「慎重であるべきだ。」という文言に象徴されています。
ドラギ総裁はいつ量的緩和縮小をするかについては、発言を控えています。今後ECB定例理事会後の記者会見でそのヒントを市場は読み取ることになります。リスク要因が出現しない限り、資産購入の縮小方向で行くのは間違いありません。

ユーロ金利上昇は、本質的にはユーロ圏の経済回復、そしてユーロ高とのシナリオが立てられます。資産購入縮小がいつ開始されるかにもよりますが、ユーロ圏の株式市場が活況になることが予想され、ユーロ投資が進むことが予想されます。皆さんのポートフォリオの一考にしましょう。

«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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