「シェアリングエコノミー」……、最近経済の世界でよく聞く用語のひとつだ。
ひとことでいうと「共有経済」となるが、場所、モノ、乗り物、ひと、時間、お金など、いま自分が使っていないものを、インターネットのプラットフォームを介して、個人間で貸したり借りたり、あるいは売買・交換などを通してシェアしていく経済活動を指す。
例えば、民泊やカーシェアリング、そして大流行のメルカリなどもそう。今回はこの新たな“共有経済”の動きについてレポートしよう。
米国発、急成長を続けるビッグビジネス
「シェアリングエコノミー」というと、なにか新しいビジネスのようにも感じられるが、その原理をたどれば、昔から日本でも行われてきた伝統的な経済活動のひとつでもある。たとえば、家にお米が足りないとき、長屋の隣家からお米を借りる、その代わりに次の機会に醤油を貸してあげる。互いにあまっているものを貸し借りしあって生活を成り立たせる。これが「シェアリングエコノミー」の原理だ。
2008年、米国のairbnb(エアビーアンドビー)が、家庭の空き部屋を旅行者に提供する仲介、いわゆる「民泊」のウエブサイトを立ち上げたのがそのスタートといわれる。旅行者にとってはホテルなどより格安かつ気軽に泊まれるし、一方、無駄に空き屋や空き部屋を持っている人々にとってはちょっとしたお小遣い稼ぎになると一気にマーケットが広がり、その勢いは世界中におよんだ。
その合理的な発想は、やがて空き部屋にとどまらず、たとえば「休日にしか乗らない車を平日に人に貸す」、さらには「着なくなった洋服を安く譲る」、場合によっては、たとえば30分単位で買い物している間だけ子どものめんどうを見てあげるなどの方法で「時間をシェアする」といった具合に、幅広い分野での相互のやりとりが一気に急拡大している。融資者を募るクラウドファンディングも、お金をシェアする意味では、シェアリングエコノミーのひとつといえる。
こうした爆発的拡大の背景には、インターネットの普及やSNSの拡大が大きく影響している。サービスを提供したい人とサービスを受けたい人の情報交換が瞬時に行え、その間に立った業者は比較的安価な手数料だけで両者を結びつける。
こうしたプラットフォームを手がける企業は日ごとに増え続け、業績を伸ばしている。まだまだ新しい産業だけに、これから思いもよらないシェアリングサービスが生まれる可能性も秘めているといえるだろう。
シェアリングエコノミー、4つのバリエーション
下の図に示したように、今のシェアリングエコノミーには大きく分けて4つのバリエーションがある。
それぞれの代表的な事業について見てみよう。
① airbnb(エアビーアンドビー)── 空間×シェア
シェアリングビジネスの走りとなった事業で、今も代表的な存在。自宅の空いている部屋や別荘、または所有マンションの一室などを旅行者やビジネス出張者に提供。いわゆる「民泊」の名前で知られている。米国発だがネットを通して世界中に拡大し、日本への旅行者にも広がっている。提供側としては、ホテルなどと比べて割安であることをアピールする必要がある。東京の個室で約5000円から。
② mercari(メルカリ)── モノ×シェア
爆発的に広がっているフリーマーケットアプリ。洋服やインテリアをはじめ、日常生活におけるありとあらゆる不要品がアプリを通して出品されており、価格もゼロ〜数百万円までさまざま。簡単な登録さえ済ませば誰でも出品でき、また購入できる。オ―クションではないので、商品提供者が自由に価格を設定でき、販売が決まった時点でmercariに10%の手数料を支払うことになる。
③ CaFoRe(カフォレ)── 移動×シェア
たとえば都会に住むサラリーマンであれば、平日は電車通勤のため、マイカーに乗るのは週末だけという人も多い。平日、駐車場にずっと置いたままの車を人に貸すことによって稼働させれば、小遣い稼ぎになる。一方の借り手は、車を購入しなくて済む、維持費用が省ける、乗りたいときだけ乗れる……というメリットがある。そんな両者のマッチングをインターネットで結びつけたサービス。価格は平均すると1日約3000~1万円。
④ Coconala(ココナラ)── スキル×シェア
時間、知識、スキルなどを売り買いできるオンラインマーケット。時間が空いていたり、ひとよりもちょっと優れた技能を持っていると自負していれば、その能力を提供して売買する。たとえば、似顔絵やアイコンのイラスト作成から、美容やダイエットなどのノウハウ。料理、掃除、占い、翻訳、恋愛相談、世の中のさまざまなシーンで必要とされる知識やノウハウを相互に提供し合う。今、大きな広がりを見せるシェアリングエコノミーの代表的なアプリのひとつ。
シェアリングエコノミーのリスクと未来
シェアリングエコノミーは、もっともインターネットの恩恵を受けた事業のひとつだ。あまっている空間やモノや時間などがアプリによって一瞬のうちに情報交換され、それがお金になる。優れた新しい事業モデルといえよう。
ただ、問題点もある。
まったく知らない人同士がネット上で売買するため、さまざまな問題が生じているのも確かだ。たとえば「民泊」では、部屋を汚された……。備品が壊された……。また思ったより部屋が狭かった、汚れていた……など、相互に思い違いや不満が出てくることは容易に想像できる。フリマアプリも同様で、手元に届いた商品がネットの画像とは違っていた……、壊れていた……などさまざまだ。
こうしたトラブルを未然に防ぐために、2015年にシェアリングエコノミー協会が立ち上がって業界全体を俯瞰し、問題点の洗い出しに着手。また、2017年からは同協会による認証制度も発足。適切な事業を行っていることを認証して、一般ユーザーに安心して売買に参加してもらえるような体制を整えつつある。
今後も、シェアリングエコノミーが拡大・発達するのは確実だが、経産省の事業白書によれば、世界中で2013年に約150億ドルだった市場規模が、2025年には3350億ドルにまで成長する見込みだという。成長規模はおよそ22倍となる。今後、ますます期待が高まる事業領域といえよう。
※次回は、シェアリングエコノミーの覇者・mercari(メルカリ)の上場の情報について考えよう。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、この春退職。今後はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛ける予定。
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