毎日コツコツまじめに働いても、なかなか思い通りに昇給しないし、「働き方改革」は迷走の一途をたどっているうえ、年金もあてにならない。
さらに、いくばくかの預金を銀行にあずけていても意味がなく、流行りの仮想通貨もリスクが大きい。そして、台頭する新技術によってこれからはAIが私たちの仕事を奪っていく……。
見方によってはネガティブともとれる話題が多い中、将来に不安を感じている人は大勢いることだろう。かくいう私もその一人だが、怖がってばかりいてもお金(資産)が増えるわけではないし、老後の心配が払拭されるわけでもない。そこで今回は、統計データをもとにした金融資産についての数値を見てみよう。そこから将来に向けた、何らかの有効な対策が思い浮かぶかもしれない。
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3割の世帯が、実は金融資産を保有していない
図に表した金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成29/2017年)」の調査結果を見てみる。
まず、金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)では、次のことがわかる。
●全国で3割以上の世帯で金融資産を保有していない(n=3771)
●一方で、1000万円以上の金融資産を保有している人(世帯)も同じくらいの割合
●さらに、保有額が1000万円未満をまとめると、これもやはり3割程度
やや乱暴な言い方になるが、無回答をのぞけば「金融資産0円」「1000万円未満」「1000万円以上」のグループがそれぞれ3分の1ずつ、つまり「上」「中」「下」の3つのグループにきれいに分かれることがわかったことになる。
金融資産を保有する理由。トップは「老後の生活資金」
次に図(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」(平成29/2017年))を見てほしい。「金融資産を何のために保有しているのか?」という目的を見てみると、
●「老後の生活資金」59.9%
●「病気や不時の災害への備え」57.4%
いずれも6割近くの人(世帯)が、将来不安に対する保険として資産を保有していることがわかる。「とくに目的はないが金融資産を保有していれば安心」が20.5%を占めている点も、不安対策のひとつといえよう。
70歳以上の約4分の1が、3000万円以上の金融資産を保有
では、そうした対策は実際のところどれほど有効なのだろうか?
同じく金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」(平成29/2017年)の年代別の金融資産保有額を見ると、「500万円未満」の割合は60代まで段階を追って減少することがわかってきた。
●「3000万円以上」の40代の割合は5.2%
●「3000万円以上」の50代の割合は12.7%
●「3000万円以上」の60代の割合は22.3%
●さらに「3000万円以上」の70代以上の割合は26.2%
年代が上がるにつれて金融資産の保有額が順調に増えるのであれば、将来(老後)への不安はある程度は解消できることになる。しかし、3000万円ほどの資産を所有したとしても、それだけでは10年ももたないのが現実だ。
さらに今後、40代の人が50代になった時、自動的に金融資産保有額が増えるのか?と言えば、それはないと見てよいだろう。何しろ昇給は見込めず、資産運営もままならない時代だからだ。むしろ、いま60代、70代という先に生まれた世代が恵まれていた(当然、その分の努力もされていたことと思う)と考えたほうが、余計な期待を抱かないだけましかもしれない。
金融資産保有額は平均1000万円以上というものの……
最後に、金融資産保有額の平均と中央値を見ると、より厳しい現実が見えてくる。
金融資産保有額の平均を世帯主の年代別にまとめたものが、図(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」(平成29/2017年))だ。
全世代の平均は「1151万円」だが、平均は極端に大きな数字、または反対に極端に小さな数字によって大きく変化するため、中央値を見てみると「380万円」となっている。
年代別に見ても、いずれの年代も平均値は中央値の倍以上ある。おそらく中央値のほうが一般的世帯の金融資産保有額に近い値ではないだろうか。さらに、年代が上がるとともに金融資産保有額も上がる。中央値では30代と40代で約200万円だったものが、50代になると400万円に、60代と70代以上は600万円になる。
では600万円で、果たして将来への不安は解消できるだろうか?
当然ながら70代になってから収入が増えるとは考えにくい。それまでに一定以上の資産を有していない限り、悠々自適の老後というわけにはいかないだろう。さらには、現在の40代、50代が高齢者の仲間入りをする20〜30年後、果たして年金はどこまで頼りにできるのか……。その答えに対する“心もとなさ”は、日本人であれば誰もが共通する思いだろう。そうした現実を直視すれば、やはり将来に向けて「一定の収入が途切れない何か」、あるいは「資産が増え続ける(少なくとも目減りしない)、何らかの対策・施策」を考える必要があることは間違いない事実だろう。
≪記事作成ライター:林 明≫
翻訳通訳会社などでの勤務を経て、現在は専門誌の出版社で編集記者として取材、執筆に従事。海外留学時に、日々の暮らしの中で物価が急激に上昇していくのを目の当たりにし、「生活とお金」に興味を持つ。
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