筆者は10月初旬から2週間ほど、米国に滞在しました。
今回はそのときに実際に感じた物価やインフレ率、生活状況について具体的に触れながら、現在の米国の景況感を考察していきます。
飲食関係の物価
米国の物価は、物によって大きく異なるのではないでしょうか。
まず、水の値段を見てみましょう。
小さなペットボトルに入った水は、日本では概ね120円くらいです。一方の米国では、スーパー、コンビニで同様のものを購入すると1.50ドルになります。
これはもちろん為替レートによっての変動があり、現在の為替レートで1ドル114円とすると日本円では171円ほどになります。仮にレートが1ドル100円程度だとしても、150円です。これはやや高いかなとの印象です。
それでは、コーヒーの値段はどうでしょう。
滞在中よく飲みましたが、概ね3ドル前後の値段と記憶には残っています。1ドル114円の為替レートで日本円に換算すると、約340円程度です。
これは日本よりも安いのではと感じました。
飲み物以外の飲食物では、昼食によく食べていた七面鳥のサンドイッチの価格が9ドル前後でした。こちらは1ドル114円換算で約1000円、これはやや高い印象です。
その他にも、滞在中にはスーパーなどで野菜、肉、各種加工食品、菓子などの値段をチェックしてみました。それによると、全体的な物価としては日本と変わらない値段であることが分かりました。
それでは、同じ飲食分野でもレストランでの食事代はどうなのでしょう。
ある時、友人夫妻と3人で当地では評判のイタリア料理店でディナーを取りました。その時は簡単なフルコースで、一本45ドルほどのワインを頼みました。
これで165ドル(チップ込み)、日本円で約18,800円でした。一人当たりにすると、約6,300円です。
こちらも日本と同程度の値段ではないのでしょうか。
ここまでの結論として、米国では生活必需品である飲食分野のものは安い値段に抑えられているのではないかと感じました。
今後もこの分野の品々は物価を大きく上昇させることはないのではと思います。
交通関係の物価
次に、鉄道の運賃を見てみましょう。
今回の滞在では、ワシントン、ニューヨーク、そしてボストンでそれぞれ街中を移動するのに鉄道を利用しました。
日本と同様に、事前にカードを購入し、そして残高が少なくなると10ドル、20ドルなど任意で追加して使用します。ボストンでは「チャーリー・カード」というユニークな名前となっています。
各地で利用する際、運賃表で最低運賃を見てみると、概ね2.00~2.50ドルでした。1ドル114円で換算すると、約230~290円となります。
下記写真はボストンの地下鉄です。古い歴史を感じさせます。
また、ニューヨークからボストンへの移動には長距離列車「アムトラック」を利用しました。
これは1時間に1本走る特急で、日本の新幹線と比べるとスピードは劣りますが、はるかにゆったりとした快適なスペースがあり、外の風景を十分満喫することが出来ます。約4時間の距離ですが、ゆったりとした旅を楽しむにはこの方が良いと感じました。
このときにかかった運賃は73.80ドル、1ドル114円換算で約8,400円です。距離的に同じである東京と名古屋間の新幹線の運賃は、10,360円です。日本のほうが多少割高に見えますが、ゆっくりと走っているだけ運賃が安いのかもしれません。
ここまでを通して、米国の鉄道運賃は、日本と大して変わらないのではとの印象を筆者は持ちました。
一方で、「グレイハウンド」という全米ネットの長距離バスでは、ワシントンDCからニューヨークの距離で24ドル、1ドル114円換算では約2,700円でした。
こちらは日本と比べて、非常に割安に感じられました。
不動産関係の物価
不動産価格は、前回のレポートの通り、米国住宅の質も大きく違うために、明確には判断できません。しかしやはり、米国の方が遥かに高い価格で推移しているのではないかと思います。
バージニア州アレキサンドリアと都会のニューヨークとを比較すると、ニューヨークの方が遥かに高い住宅価格であると言えます。日本で言えば、東京の住宅価格が高く、地方では安いという住宅価格の現状と似ていますね。
ニューヨークのマンハッタンでは依然として建設ブームのようです。こちらも東京の実情と似通っています。
都市集中の現実は日米ともに変わらない問題のようです。
マンハッタンでは、マンションに居を構える住民がほとんどです。
トランプ大統領をはじめとした大富豪が住む街、そして世界中からビジネスマン、観光客が集まる街ということもあり、ホテル、マンションは不足気味なのが現状です。
このような状況から見ても、東京同様、マンハッタンの不動産価格は上昇気味という印象があります。
実際に、マンハッタンのハドソン川沿いの空き地では建築ブームが沸き上がっておりました。写真は新観光名所High Lane(昔列車が走っていた線路を遊歩道として整備し、ニューヨークの新観光名所となっている)から、現在建築中のマンション、オフィスを撮ったものです。
米国の物価全体を通して
物価全体を見た上での結論としては、生活必需品や生活に密着した交通手段は、総じて安定した価格で推移しているようです。
反対に、ぜいたく品や不動産は高値で推移しており、更に上昇する余地を残しているのではとの印象が残りました。
これはFRB(米連邦準備制度理事会)が言うところの、「インフレ目標2%」の範囲内で推移していると言えるのではないでしょうか。
不動産の過熱感、その他商品の上昇を防ぐ意味で、FRBは今後も金利引き上げでインフレ上昇を防ぐ処方箋を施していくと推察されます。
経済的観点からの考察
最後に、今回の滞在を通して、筆者が経済について感じたことをお話ししましょう。
アレキサンドリアやワシントンDCのようなのんびりとした土地柄では、経済が大きく変動しているとは感じませんでした。少なくとも、現地の人々が生活にひっ迫しているという印象は全く感じません。
確かに格差社会であることを感じる場面もありました。
ワシントンのユニオン駅内には、アフリカ系のホームレスを見かけましたし、駅やバスターミナルで働いているような単純労働の人たちは、そのほとんどがアフリカ系の人たちです。
その一方で、白人の中間層とその上のクラスの社会基盤はしっかりとしており、権益も確保されています。日々の生活を脅かせるほどの物価高、そして経済の変動の悪影響を感じることはほとんどありません。
実際に筆者の滞在先の家族にも、将来への不安を感ずることはほぼありませんでした。
彼らにとっては、少なくとも現時点で、大きく生活の質を落とす必要性は少ないと言えるでしょう。
オバマ政権時に決定した国民皆保険制度即ち「オバマケア」をトランプ政権は廃止しました。
しかし、それは社会の弱者に対するものであり、ほとんどの米国民にとっては影響を与えていないように思います。
格差社会の中では、弱者階層に属してしまうと抜け出すことが困難になってしまう傾向があります。
その救済のための「オバマケア」、というように捉えられてしまっていることが、そもそもの問題と言えるでしょう。
まとめ
今回の米国の旅では、米国経済の奥深さ、住宅をはじめとしたインフラがしっかりした社会、そして揺るがない米国民の生活習慣をリアルに感じました。大きくは落ち込むことがない経済基盤があるおかげで、政治および経済のリスクが高まったとしても、少なくとも日本ほど大きくは落ち込まないのではないかと思います。
やはり世界は米国中心で動いていくことになると確信した次第です。米国に投資しても、大きくはアセットを落とすことはないと実感できた滞在となりました。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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