米国不動産投資考察の第二弾レポートです。前回は海外の不動産投資で注意すべき要点を解説しました。
①ドル金利、②為替レート、③米国全体の不動産価格傾向、でした。今回は、米国の地域性について考察します。
アメリカにおける各地域の特色
広大な国土の米国では、不動産の地域性には大きな格差があると言われます。経済の中心地ニューヨーク、政治の中心地ワシントン、最近ではIT産業の発展が目覚ましいサンフランシスコ周辺地域、リゾートの中心地フロリダ、ハワイ、そしてエンターテインメントの中心地ラスベガスなど大きな特色があります。
そして地域の特性を維持するためには不動産のストック(不動産供給量)が必要。下記のグラフ(出所:住友不動産資料)はそのストックを都市別に並べたものです。
このグラフを見ると、圧倒的にニューヨークとワシントンが上位に来ています。それだけ、経済と政治の依存度が高いと言えます。そのストックの中身は、オフィスと商業施設そして住宅です。
第3位以下には、シカゴ、ロスアンゼルス、ボストンとランクされており、サンフランシスコは16位と意外に低い位置にいます。筆者は上記都市のうちの、シカゴ、ボストン以外は滞在した経験を有し、その感想も述べましょう。
ニューヨークという街
ニューヨークは、マンハッタンという小島に経済そして娯楽の中心地が凝縮された地域です。
東京には東に丸の内、大手町、そして西に新宿、渋谷、池袋が位置し、マンハッタンよりも大きな地域を形成しています。少々観光的見地からの考察となってしまいますが、マンハッタンという狭い地域で、ビジネスが集約、しかも娯楽施設が集まり、セントラルパークという癒しの公園があります。
そして多くの人々はマンハッタン以外の地域に住むことになります。マンハッタン島の地下には地下鉄路線が複雑に敷設されており、移動には非常に便利性があり、そしてコンパクトにできている都市です。
反対に、東京は山手線の各駅周辺にビジネス拠点が散在しており、ある意味不便であると感じます。ニューヨークはコンパクトにビジネス、娯楽の拠点が集約されており、ビジネス客、そして観光客にとっては便利性が高く、不動産も高付加価値と言えます。それは後述する不動産価格にも表れています。
政治機構の中枢ワシントン
ワシントンは政治の中心地です。政治機能の議事堂、ホワイトハウス、各省庁、博物館が広大な土地に散りばめられています。こちらも地下鉄が充実しており、移動には便利、そしてニューヨークよりは、自動車での移動は容易だと筆者は感じました。
政治の中心地ということで、不動産のストックは旺盛であり、全米での第2位を誇っています。
シカゴとロスアンゼルスは広大な都市面積を有し、ストックの上位に連ねています。意外にもサンフランシスコは、16位と低い位置にいますが、筆者の最も好きな都市のひとつです。
のんびりとした土地柄でしたが、1990年代からのIT全盛時代に、サンフランシスコとその周辺地域ではアップル、グーグル、フェイスブックなどの企業が進出し、その業界の発展とともに、本社機能が拡大しています。
郊外のサンノゼも急速に発展を遂げており、不動産ストックも充実、そしてその結果の不動産価格上昇が近年著しいようです。
各地域の不動産価格
不動産価格の地域性を見ましょう。下記のグラフ(出所:住友不動産資料)は、米国の各地域の不動産価格の推移を示していて、1980年を100を基準とした価格を示しています。
前段で説明しましたが、ニューヨークは不動産のストックが充実し、マンハッタンに経済と娯楽の機能が凝縮されています。そして国連本部がありますので、政治的にも重要な位置づけであるため、不動産価格は全米一です。
オフィスビル需要、そしてホテル需要、海外ビジネスマン向けのマンション需要は特に旺盛で、不動産価格上昇期待から、必然的に海外投資家の投資マネーが流れ込んで来ます。ワシントンの不動産価格も、ニューヨークには及ばないものの、かなり高い水準であるのではと推測します。
それに次ぐのが、カリフォルニアとハワイの不動産価格であるとグラフは示しています。カリフォルニアはサンフランシスコとその近郊のIT産業の拠点需要が不動産価格を押し上げているのではと推測します。そして娯楽産業の都市ロサンゼルスを抱えています。
そして驚くのはハワイの不動産価格の高さです。米国の標準価格を大きく上回り、カリフォルニアの不動産価格とほぼ同水準と言えます。常夏の楽園というイメージが米国人のみならず日本などアジアからの観光客を集めていて、不動産価格が上昇しているようです。
著者評
その他地域の筆者の印象を述べます。シアトルを中心としたワシントン州は近年米国の有力な企業が本社を設ける傾向が見られます。ボーイング、アマゾン、マイクロソフト、スターバックコーヒーなど皆さんが知っている企業です。
気候が温暖で、自然豊かな土地柄で、有名企業が進出する結果となっているようです。森と湖が近郊に多く配し、住宅環境が非常に良く、オフィス、住宅の価格は上昇傾向にあるようです。
またリゾート系の都市、地域にも注目です。エンターテインメントの中心地ラスベガス、年金受給者など高齢者の受け入れ先であるリゾート地のフロリダ、アリゾナは今後も不動産の需要が高いように思います。
このグラフでは、米国の不動産価格が2000年以降大きく上昇カーブを描いていることも特徴的です。2007~2008年に起きたサブプライムローンの破綻をきっかけとしたリーマンショックまでは、不動産に投資すれば儲かるという神話が生きていたのでしょう。
2000年から2006年にかけてのニューヨークの価格は実に2倍(300から600に上昇)の動きになっています。そしてリーマンショック後の落ち込みで、カリフォルニアの落ち込みが最も急であったと分かります。
しかしニューヨークの価格は、実需面が旺盛であり、それほど落ち込むことはなかったのではと考えられます。現在は2010年以降の米経済の回復が、FRB(米連邦準備理事会)による低金利政策と大規模資金供給策によって支えられ、急速に不動産価格回復への道を辿っています。
まとめ
今回のレポートをまとめると、米国の不動産には地域により相当に大きな格差と特徴があると言えます。今回は取り上げませんでしたが、米国中西部、南部テキサスといった地域には宇宙産業、そしてシェールオイル・ガスの生産地域を配しており、その多様性はとても大きいです。その特色を十分理解して、投資判断をすべきであると思います。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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