今月の当レポートは、リーマンショックから10年、その教訓、そしてドルの一人勝ちの中での米資産保有考察と、米金融市場中心の内容です。中央銀行であるFRB(米連邦準備理事会)が今週利上げに踏み切ったこともあり、今後の利上げの頻度、そして打ち止め感などについて考察します。
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FOMCの発表したFF金利
今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利(フェッド・ファンド・レート:FF金利)を0.25%引き上げ、誘導目標金利を2.00~2.25%としました。一般には上限金利の2.25%が指標として意識されます。
前々回当レポートでの掲載グラフを参考にしていただければと思います。2016年初めには0.25%であったFF金利が、今回2.25%となり、2年で2%の利上げ幅となったということになります。
筆者はこれまで2020年前後までは利上げセッションが続くと述べてきましたが、それがいつまで続くかというのが市場の関心事となっています。そのヒントは下記のグラフ(出所:FRBホームページ)にあります。
好景気の持続は2021年まで?
このグラフは、FOMCの出席メンバーによるFF金利の将来の予想分布図です。ドットチャートと言われています。これを見ると、年内はあと一回0.25%の利上げがあり、FF金利2.50%となる予想です。来年2019年には、中心部分が概ね3.25%にあり、0.25%の利上げが計3回、そして2020年には3.50%から3.75%の範囲に中心部が位置するので、0.25%の利上げが1回もしくは2回行われることが予想されます。
再来年にはFF金利3.50%の時代が来ることになります。これは先進国の中では突出していると言え、欧州中央銀行(ECB)はゼロ金利、イングランド銀行は0.75%、そして日本銀行はほとんどゼロ金利状態にあります。3つの中央銀行は共に積極的な利上げは当面ないように思います。
FRBが積極的な利上げセッションを継続しているのですが、いつ打ち止めになるかについては、このドットチャートを見ると2021年辺りからFF金利は下がり気味のように見えます。筆者は緑の線を引いてみました。長期的見通しは、概ね3%前後に軟着陸させる予想になっています。
FRBの希望的観測か
つまり、このドットチャートからは2021年には利上げセッションは打ち止めということを読み取れます。リーマンショック、あるいはブラックマンデーのような金融恐慌があることは想定外であるようですが、ミニリセッションとでもいう景況感の悪い時期も想定内のようです。
結論として、FRBは来年、再来年と利上げを続け、2021年に入ると、景気に自信が持てなくなり、インフレ率が目標の2%から大きく逸脱していなければ、場合によっては小幅利下げという選択肢も入っているのではと伺わせます。逆に言えば2021年時点の景気動向は、FRBメンバーもどのようになっているか予測不可能ではないかと推測します。
少なくとも、2021年、つまり3年後までは、少なくともリーマンショックのような大きな金融恐慌は起きてほしくないというのが本音の考えではないかと思います。
過去に出た予想から、先々を読んでみよう
それでは、2021年までの景気予想はどのようになっているのか、今回発表のFRBの経済データ予想を見てみましょう。下記のグラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)では、GDP(国内総生産)などの基礎的データの予想を2021年までと、長期の予想(FRBの希望とも言えますが)を示しています。
それぞれの年に今年6月予想と今回の9月予想の二つが併記されています。これが前回予想とどのように違っているかが、景気動向予想のヒントになります。
GDPでは今年、来年と予想以上に強い数字が記載されています。そして2020年以降は、2%そして2012年には1.8%予想とやや景気後退を予想しているようです。
失業率についてみると、2021年までは概ね3.5%前後を予想しています。長期予想が4.5%となっているところを読むと、現在は3.5%前後の失業率は本当に良い状態であると判断しており、この失業率が少なくとも3年間は続いてほしいというFRBの願望とも受け取れる数字と言えます。
その下のFRBが重視しているインフレ指標PCE(Personal Consumption Expenditure)を見ると、2021年まで概ね2.0%前後を予測しています。現在PCEはコアデフレータで2.0%であり、予想通りの展開になっています。この数字が大きく上振れしなければ、利上げセッションペースには変化がないと言えます。
逆に大きく上振れする事態となると、2021年以降もFRBとしては、インフレ退治としても利上げセッション継続を意識することになるのではと思います。その意味でも、皆さん毎月月末に発表されるPCEの数字には注目する必要があります。
リーマンショックの傷跡深く
最近注目されなくなった量的緩和終了というFRBの金融政策はどのようになっているのでしょうか。FRBの出口戦略自体にメディア報道の関心が薄れてきています。今回のFOMC声明文の後半の後付け資料にその記述があります。
それによると、9月時点で、財務省証券240億ドル、資産担保証券(Debt and agency mortgage-backed securities)160億ドルの合計400億ドルの再投資をしています。そして10月には財務省証券300億ドル、資産担保証券200億ドルの合計500億ドルの再投資を予定しています。
つまり、パウエルFRB議長率いるFRBメンバーは、景気が好調に推移しているものの、何か金融市場に不穏な動きがあることを警戒して、市場には依然として資金供給を怠らないようにしていることが伺えます。リーマンショックを引き起こした原因であるサブプライムローンのような不透明な証券が出回る警戒感は頭の片隅に置いているのではと推測します。
景気が過度に良くなる時代には、時としてこのような不透明な証券が出回ることが予想されます。最近では自動車ローンなどには注意したいところでしょう。リーマンショックの教訓を活かしている金融機関が多いのですが、時として暴走する傾向があります。
アメリカの動きに再度の注目
今後3年のスパンで米経済を見ると、どうしても米経済には弱点がないように見えてしまいます。しかし、経済は生き物であり、どこで失速してしまうか不安定です。
米ドル資産投資、つまり株、債券、不動産投資はキャピタルゲインとインカムゲインを享受できる状態にあるものの、不測の事態がいつ起こるとも限りません。その一つにトランプ大統領の保護主義的経済政策、つまりアメリカファーストが挙げられます。
世界を敵に回すことを厭わない貿易政策、とりわけ対中貿易摩擦には要注意です。それによっては、米GDPの下方修正、景気悪化の恐れもあります。そうなればFRBとしても利上げセッションのペースを抑えなければなりません。
米金融資産を保有していても、楽観的になることは必要ですが、頭の片隅には常に最悪の事態になったら、どのように保有資産を管理するか、ある程度の行動指針は持っておいた方が良いのではと筆者は考えます。
まとめ
一番に行動する投資家は、一番損失を軽微に抑えられます。世の中総楽観論が蔓延しているときにこそ、そのような不安を筆者は覚えます。筆者はそのような兆候が出始めたら、一番に当レポートで報告したいと思っており、日々アンテナを張っています。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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