FRB(米連邦準備理事会)は、米景気後退リスクの上昇とインフレ目標達成が遅くなりそうだとして、利上げについて今年は年内1回の実施、そして注目の資産購入の縮小は予定通りのシナリオを描いているようです。
気になっていたのが米自動車販売件数の現状です。今月上旬発表の2017年上半期の新車販売件数845万台は前年同期を2.1%下回っています。米二大自動車メーカー、そしてトヨタ等日系自動車メーカーの苦戦を強いられている現状です。背景には自動車購入資金向けの融資を膨らませてきた金融機関が審査を厳格化していることが要因です。
そして金利がじわりと上昇しており、このことも影響しているようです。裾野の広い自動車産業の停滞は、米経済成長の活力を削ぎそうです。但し、もう一つの景気を牽引する不動産業界では、6月住宅着工件数121.5万件、そして中古住宅の販売が主流の6月中古住宅販売件数552万件と振いません。但し7月消費者信頼感121.1とこちらは非常に良い数字と言えます。景気にまだら模様が目立ち始めた米経済の現状ではないかと思います。
FRBインフレ目標2%の早期の達成が心もとないものとなっているようです。インフレ指標を見ると、6月消費者物価指数1.6%前年比、コアで見ると1.7%前年比と、市場予想より悪い数字となっています。そしてFRBが重視するPCEコアデフレーターの数字は5月1.4%前年比と2.0%の目標にはまだまだ距離がありそうです。FOMC(米連邦公開市場委員会)声明文では、直近では2%のインフレ目標を下回った動きとしています。しかし中期的には2%の目標値で安定するとしています。達成には楽観的なようです。従って市場は依然として年内1回0.25%の政策金利(FF Rate)の利上げは実施されると読んでいるようです。
筆者は短期金利先物の動きを参考にしてFRBの利上げ観の構築をしています。下記(出所:CME)はユーロドル(3ヶ月物)のチャートです。金利先物では価格上昇が金利低下、価格下落が金利上昇となります。現在98.545と利回りベースで1.455%です。これはFRBが年内FF Rateを年内1回の0.25%引き上げる水準1.50%には0.045%足りません。この程度の不足分は12月までに十分織り込むことが予想されます。従って筆者は年内1回の利上げが実施されると読みます。
チャートでは、緑のトレンドラインを示し、5月3日FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ据え置き以来、こう着感が強まっていることを示しています。米景気が停滞していることを気にしているようです。三角持合いのチャートとなっています。そして右下への方向線は筆者の予想を示しています。
1.50%から1.60%方向つまり価格的には98.50から98.40方向に向かうことが、経済指標の良い数字が出てくるという前提の下では予想されます。このような動きもイエレンFRB議長以下メンバーの多数が予想しています。年内1回の利上げ、そして来年以降は複数回の利上げのシナリオは継続すると。最終的には、2019年には3%近辺のFF Rateの正常化水準を見越しているのではと思います。
次に資産購入の縮小計画について言及しましょう。イエレンFRB議長は様々な機会を利用して資産購入の縮小の必要性を訴えています。直近では7月中旬の議会証言の場で、バランスシートの縮小は年内の比較的早い時期に開始すると語りました。そして今週のFOMC声明文でも、前回の声明文で年内(this year)としていた保有資産の縮小を始める時期を比較的早期(relatively soon)に修正したことに市場は注目しました。慣例として修正文言に変更した次のFOMCで実行に移されると言われています。その意味では9月20日のFOMCで資産縮小が開始されることが発表されます。それではどの程度縮小されるかが問題となります。
現在の資産規模はリーマンショック後から量的緩和を続けてきたことから、4兆5千億ドル規模に膨れ上がっています。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は2005年からこれまでの資産拡大の数字と今後2025年までの資産縮小予想を示しています。2008年のリーマンショック後の約9千億ドル規模から急速に資産が膨れ上がっており、2014年以降は約4兆ドル超で横ばいになっています。
現在は縮小を開始する時期に来ていると言えます。保有米国債の内、約4千億ドルが2018年に満期を迎えますが、縮小初年度の規模は最大1800億ドルに抑える計画をFRBは発表しています。急速に減らすのではなく、あくまでも金利を急速に上昇させないとの気配りがFRBにはあるようです。
その意味では、今年度からの数年間は、グラフの通り緩やかな下方曲線になると予想されます。2019年まではどの予想も概ね3兆5千億ドル程度まで資産縮小すると見ています。そしてその後の経済見通しの下、大きく縮小する場合と、そんなに縮小はしない場合と見方が分かれているようです。メディアの中心は2025年には3兆2千億ドルになると予想しています。長期金利(10年債金利)に与える影響は、年内0.2%、18年は0.15%と小幅にとどまる予想です。筆者はこの数字は意外と少ないのではと思います。その意味で、過大に資産縮小を金利上昇と見てはいけないと思います。
利上げスピードのスローダウンと、資産購入縮小の規模が予想以上に少ないことから、筆者は長短金利の上昇は思った以上に緩やかになるのではと思い始めました。今年前半に思い描いていた金利観からはかなり変更しています。このことは為替への影響は、ドル/円に関しては、思ったほど日米金利差が急速に拡大しないことから、円安のスピードはそれ程速いものとはならないと思います。
日銀がイールド・カーブ・コントロールという10年債をゼロ金利近辺に強力に固定させる金融政策を続ける限り、円金利が上昇することはない。従って、予想外の出来事がない限り極端な円高に振れることは想定できません。為替は緩やかな円安方向に向かうと見るのが素直な考え方です。一方米国株式市場については、金利の上昇が緩やかになることで、企業は急いで設備投資、運転資金などの資金調達を急ぐ必要はありません。従って健全な株式市場つまり、緩やかな株価上昇が長く続くことが予想されます。その意味では米国投資は着実にキャピタルゲインを狙える市場と言えます。そしてインカムゲインも日本の金利よりも高い点からは魅力的であると言えます。
ある程度のリスク資産つまり株式ポートフォリオを持つことは今後も有効であると思います。そして市場には常に予想外の事象が起こることがあります。その意味でも、ミドルリスク、ミドルリターンの金融商品を一定程度、常に自身のポートフォリオに組み込むことも忘れないようにしたいですね。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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