世界的な金利低下の動き


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今週に入り世界的に主要国の金利低下の動きが激しくなりました。各国中央銀行当局者が揃って景気後退のリスクがあるとの文言を頻繁に使うように思います。

一般的には、金利低下は安全志向のリスク回避の動きとして債券市場・金利市場に資金が流れ込むと解釈されます。今回のレポートでは、日米欧、そしてオセアニア諸国の債券、金利の動きを検証してみたいと思います。

日本:イールドカーブが継続

3月15日開催の日銀金融政策決定会合で、何らかの金融緩和政策を発表するのではと、金融市場は色めき立ちました。日本は今年10月の消費税引き上げを控え、政府は景気後退の局面は避けたいところです。
金融政策を司る日銀としても、金利を低位で安定させ、流動性供給を強める方向で行くのではと思われました。米中貿易摩擦懸念、欧州ではBrexitがどのような方向に向かうのか不透明な状況が続きます。

結果として金融政策に変更はなく、これまで通りイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を中心政策において、
①短期金利は、日銀当座預金のうち政策金利残高に-0.1%とマイナス金利を適用する。
②長期金利については、10年物国債金利がゼロ金利程度で推移するように国債を買い入れる。買い入れ額は年額約80兆円をめどに、弾力的に買い入れる。

としています。市場では、政策金利をいじらないものの、10年債利回りの下限のマイナス幅を広くする、または買い入れ額の増額を決定する、またETF(上場投資ファンド)の買い支えを強力にするといった策に出るのではないかと思惑が飛び交いました。

市場の動きとして日本国債10年の動きを見ましょう。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は過去1年間の利回りの推移を示しています。
直近では-0.09%近辺に位置します。昨年10月頃は日銀が引き締めに動くのではとの観測がでて、利回り上昇の動きがありました。
それ以降、特に今年に入り、外部要因からの景気減速感が強く、それと共に、株式の低迷、そしてリスク資産の債券への滞留を引き起こしていると言えます。
政府としても秋の消費税引き上げ時期までに、是非とも景気を回復させ、消費税引き上げの土台作りをしたいところです。日銀としても協力を惜しまないのではと考えます。

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米国:量的緩和策が継続の見通し

3月20日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、経済活動は昨年第4四半期の堅調なペースから減速したと声明文で表現されていました。
政策金利(FF金利2.25%~2.50%)の調整には慎重姿勢を維持し、利上げには忍耐強く(patient)するとしています。記者会見の場で、パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、patientの意味を問われ、利上げの判断を急がないという意味であると明言されました。
また量的緩和策を終了する方向に向かっていたのですが、その方針を戻すとしています。バランスシートの縮小は5月からペースを縮小して、9月に終了するとしています。現在最大300億ドル購入を150億ドルと半減すしてしまいます。
やはり現在の景気減速感を払しょくするには、量的緩和を復活するのが得策なのではとの判断が働いていると思います。このため、ドル長短金利が急速に低下してきています。

長期金利10年米国債利回りは直近2.40%近辺まで利回り低下の動きになってきています。市場では3ヵ月短期国債Treasury Bill(直近2.45%)とは逆イールドカーブ(inverted yield curve)になっていると目されています。
投資家のリスク回避思考が強く、資金が急速に長期債券市場に流入しているため、長期債の方が急速に利回りを下げている結果起きている現象なのでしょう。そして短期金利がその動きについて行けない状態にあります。

筆者はドル短期金利先物(3ヵ月物)の動きで、FRBの金融政策の判断材料にしています。下記グラフ(出所:シカゴ先物取引所)は来年3月限の昨年12月からの価格の推移を示しています。金利先物では価格の上昇は利回りの低下を意味しています。
現在97.795ですが、利回りベースでは2.205%(100-97.795)となります。短期金利ディーラーは最もFRB金利動向に敏感になっています。ディーラーの思惑がこのチャートに表れていると言えるでしょう。
この水準は、来年3月頃の3ヵ月ドル金利は2.205%であることを意味します。現在の政策FF金利の上限金利は2.50%です。
筆者はこれまで来年は利下げもあるのではと当レポートで述べてきました。この水準から判断すると来年3月頃にはFRBは0.25%の利下げに踏み切っていると判断できます。
今年12月限2.345%です。この水準では、利下げが行われる可能性も考えられます。市場では次第に年内から来年にかけては、利上げではなく、利下げが実施されるのではと考えていると言えます。合わせて、米国でも金利低下が著しい状況があります。

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欧州:Brexitの行方は不透明

ECB(欧州中央銀行)については今月初めのレポートで最新の金融政策については詳しく説明していますから、この場では省きます。
ユーロ圏経済指標は、相次いで悪い数字が出ています。特にユーロ圏、そして主要国であるドイツの景況感の悪化が目立っています。
そして物価上昇率も予想より悪い数字が最近出てきている。ECBの利上げは来年以降に持ち越されるか、或いは現状の量的緩和政策の継続を強いられそうに思います。
また、Brexit(英国のEUからの離脱)問題が依然として明確ではありません。3月29日は本来の離脱日でしたので、この要因も債券市場に資金が向かうことになります。

下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)はドイツ連邦債10年の過去1年の利回りの推移を現しています。ご覧の通り綺麗な右肩下がりの利回り低下を示しています。現在は-0.10%とマイナス圏に沈む動きになっています。
同じユーロ圏では、財政不安のあるイタリア債10年2.50%、ギリシャ債10年3.80%、格上げが発表されたポルトガル債10年1.25%、そして経済が主要ユーロ圏で一番のスペイン債10年1.10%で、共に利回り低下の動きとなっています。
歴史的に逃避資金の受け皿とされてきたスイス連邦債10年は-0.40%まで低下してきていますし、ドーバー海峡を挟んだ英国ギルト債10年も1.00%とこちらも低下の動きを強めています。

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オセアニア諸国:世界的な景気後退に同調

昨年まで先進国では唯一高金利利回りを示していたオセアニア諸国でも、豪連邦債10年1.75%、そして前回紹介したニュージーランド国債10年1.80%をこちらも利回り低下の動きを示しています。
RBNZ(ニュージーランド準備銀行)は、今週の金融政策委員会での声明文で、世界的な景気後退局面を懸念して、次の金利動向は引き下げの可能性が高いと述べ、市場にショックを与えました。

まとめ

今年は年初から米中貿易摩擦懸念とBrexit問題がテーマであると、投資家の脳裏には焼き付いてしまっているようです。
そして先進各国中央銀行が揃って景気の後退を懸念し、利上げというこれまでの考えを一旦懐にしまい、現状の量的緩和政策の継続、そして利下げというカードを次の一手として考える状況に変化してきています。
上記懸念材料が解決方向に向かい、そして不透明な霧が晴れることを期待したいところです。懸念材料が市場にある限り、金利低下は続き、投資家はディフェンシブな投資姿勢を続けることになります。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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