トランプ政権:財政ではドル高政策必要


トランプ大統領の言動が市場を揺さぶっているようです。
インフラ投資を進めるとの公約が引き続きリスク志向の金融市場の環境を醸成しているようです。そしてエネルギー開発分野において、オバマ前政権の方針とは異なり、環境問題よりも雇用をと言うことで、金融市場が動いているようです。
トランプ大統領は先週、2つのパイプライン建設を再開するとの大統領令に署名しました。カナダのオイルサンド油田と米国とを結ぶキーストーンXL、米国内を南北に横切るダコタ・アクセスの二つのパイプラインの建設が再開となります。
パイプラインは米先住民族が居住する地域であり、環境が悪化するとの声を尊重したオバマ前政権は中止を決定しました。しかしそれが、2万人強の雇用を創出するとのことからトランプ大統領はゴーサインを示しました。
エレルギー分野は、共和党の地盤であるテキサスなどの白人中産階級を大いに満足させます。シェール・ガスオイルの開発にも拍車がかかりそうです。原油価格もWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)で50ドル台を維持しています。50~60ドルの価格が維持されると、シェール・ガスオイル産業は採算ラインに乗りそうです。今後全米でのシェール・ガスオイルの再開発に拍車がかかるのではと期待されます。

エネルギー開発の拍車、そしてインフラ投資期待と、トランプ大統領当選当初の公約が期待通り実行に移されるのではとの観測が強まっています。そのために、リスク志向の金融市場環境が続くことになっているのが現状ではないかと筆者は思います。
株価はニューヨークダウ平均で2万ドルを上回り、米10年債利回り2.50%近辺の利回りと、安全資産である米国債から、リスク資産である株式市場に資金移動する投資家の行動が起きているようです。米大統領は就任式後の3ヶ月はハネムーン期間として市場は好意的に動くというジンクスがあります。その意味では4月くらいまでは好意的に金融市場は動くのかもしれません。
しかし、トランプ大統領は、これまでの大統領とは異なり、公約を実行し、しかも米国第一主義の政策、保護主義的性格のある大統領令の発動、ポピュリズムの性格を帯びる大統領令の発動など、異例ずくめです。これまでの経験は当てはまらないのではとの危惧があります。この点、ここ数ヶ月は注意しないといけないようです。

ここで素朴な疑問が上ってきます。インフラ投資に今後10年間で10兆ドルを投下するとトランプ大統領は公約されています。しかしその財源をトランプ大統領は明確に説明しておられません。米国経済を好転することで企業からの税収を増やす。しかし連邦税などの大幅減税を公約されているから、大幅に歳入を増やすことについては期待薄です。そうなると、どうしても米国債発行でその財源を賄うことになります。
そこで米国財政赤字の推移を調べてみました。2009年には約1兆4000億ドルまでに財政赤字は膨らみました。そして現在は改善傾向にあります。直近では2016年財政赤字5,874億ドル(約67.5兆円)となっていて、これは2015年会計年度比34%増ですが、季節的要因なのかもしれません。そして対GDP比は3.2%となっています。
トランプ大統領は、大統領選挙期間中、医療保険の皆保険化(オバマケア)は財政赤字を増やす要因として廃止を主張されていました。現在はオバマケアの廃止の大統領令に署名してしまいましたから、その財源の心配はなくなりましたが、どのような代替案を打ち出されているのかとの不安感はあります。
しかしこの先、公共投資つまりインフラ投資10兆ドルを財源として捻出しないとなりません。そのためにどうしても、米国債を発行して財源を賄うことになります。2009年以来改善傾向にあった米財政赤字がトランプ政権では再び悪化傾向になるのではと思います。
米債発行、そして財政赤字と言う事実は、米国債利回り上昇へとつながります。そのため、米国に常に資金を呼び込む努力をしないといけなくなります。大きな米国債投資先である日本、中国などの投資家を満足される方向の政策が今後取られる可能性はあるのではと思います。現在トリプルAの格付けは問題ないとして、ドル高政策をとらないといけないということです。これは貿易政策と逆の方針となります。
貿易政策では、ドル安でないと米国製品の国際的競争力を維持できません。米国債発行への投資資金を呼び込むことと、貿易政策とはドルの見方が米国政府にとっては二律背反となってしまいます。
トランプ大統領は、ビジネスマン出身の大統領として、ドルの強弱関係について、米財政赤字と貿易政策を上手く使い分けられるのではないかと思います。その意味では、今日はドル安方針、明日はドル高方針と、明確にドルの方向性を使い分けられるのかもしれません。やはり金融市場の波乱要因が増幅されることになるのかもしれません。

益々不透明感が募るトランプ大統領の言動ですが、それに対応する能力を身に付けたいものです。ビジネスマンとしてトランプ大統領は成功体験、失敗体験を不動産業でされているようです。この経験から、トランプ政権は、良い方向の政策は継続し、良くない方向に向かうと思われた政策は突然変更をすることになるのかもしれません。そのヒントを注意深く監視する以外になさそうです。

こと財政赤字については、米議会予算局(CBO)は、2017年度財政赤字5,590億ドル(約64.3兆円)を予想しています。しかし、トランプ政権がインフラ投資での景気刺激策方針を表明していることから、この数字も疑わしいようです。
米議会は共和党が与党であり、政権運営は容易であるとトランプ大統領は踏んでいるでしょう。今後数年の推移で、米財政赤字が増える傾向に転ずると、やはり米国債の受け皿としてのドル高方針が打ち出されるのではと思います。
そのことは、ムニューチン財務長官の発言ともある意味一致しているのではないかと思います。米国債乱発の結果としての意図的なドル高が、そのうちに必要になる日が来ることを。
トランプ大統領には現在の貿易不均衡の状態を解消したいという考えと、貿易赤字解消のためにはドル安が必要であるとの考えが頭の中心にあるようです。そして財政赤字膨大のドル資金が必要になると、ドル高の考えが頭の中に過ることになります。

ドル投資では、米貿易収支改善のドル安政策と、米財政収支増大のためドル資金調達のドル高政策の両面を見分けことが必要になります。皆さんそのヒントをトランプ大統領の言動で読み取り、研究を怠らないようにしましょう。いずれにしろ、不確実性の時代が来るトランプ政権であることを自覚したいですね。

«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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