AI(人工知能)を活用した「ダイナミックプライシング」ってなんだ?


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2018年のプロ野球日本シリーズは、パリーグ2位から勝ち上がった福岡ソフトバンクホークスが、セリーグ優勝の広島東洋カープを破り日本一を決めた。

昨今、プロ野球人気が沸騰しており、また両チームともに西日本きっての人気球団。シリーズ観戦チケットはプラチナチケットとして、入手困難を極めた。

そのホークスの本拠地球場である福岡ヤフオク!ドームをはじめ、プロ野球数球団がユニークなチケット販売の方法を導入し、注目を集めている。
その名も「ダイナミックプライシング」。いったいどのような手法なのか、さっそく見てみよう。

古くから存在するダイナミックプライシングとは?

大型連休や年末年始、お盆などの時期は繁忙期とされ、鉄道運賃や航空料金、宿泊費などが高額になる。海外へのパック旅行代金も、出発日によって大きく変動することは当たり前だ。需要と供給のバランスによって価格が変動することは、誰もが理解するところだろう。

飛行機や宿泊施設は、供給できる量(席数や部屋数)が常に一定だ。繁忙期だからといって、供給量を簡単に増やすことができない。繁忙期には不足しがちな供給量も閑散期には余るわけだ。これはそのまま在庫量が増えることにつながり、売り上げ損失になる。

そこで、閑散期には運賃を安くして一席(部屋)でも多く売りたい……となるし、反対に繁忙期には価格を上げて、閑散期の損失分をカバーしたい……となるわけだ。

実は、これが「ダイナミックプライシング」(プライシング/pricing=製品やサービスの価格(取引値段)を設定)だ。
つまり、「ダイナミックプライシング」とは、需要と供給のパランスによって、商品やサービスの価格を変動させることを指す。カタカナにすると耳慣れない言葉に聞こえるが、その概念は古くから存在していた。
しかし、近年注目されているダイナミックプライシングは、AI(人工知能)を用いて需給状況を瞬時に分析し、より細かく、複雑に価格を変動できるようになっている。その変化といまをこの記事では取り上げてみたい。

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AI(人工知能)を活用した、ダイナミックプライシング

最近は、AIを用いたダイナミックプライシングが導入され始めている。
これまで、多くの複雑な条件が原因となって需要が変化する商品・サービスでは、刻一刻と変化する情報を素早く分析し、それに見合った適切な価格を瞬時に決定することはなかなか難しかった。そのため最終的には、人間の経験や勘に頼って価格を決めていたのが現実となる。

それが一転、AIを活用することにより、過去の販売実績や在庫状況などの自社の情報、イベントやサービスの内容、その日の天候、競合他社の状況、SNSでの話題状況など、多くのデータを瞬時に分析し、リアルタイムで適正価格に反映・算出できるようになってきているのだ。これが、最先端のダイナミックプライシングを可能としている大きな理由となる。

2018年6月。三井物産はYahoo!などと共同で、AIを活用したダイナミックプライシングのサービス事業の新会社「ダイナミックプラス株式会社」を設立した。同社の取り組みに端を発し、今後はスポーツやコンサートなどの興行はもちろんこと、より広いジャンルでダイナミックプライシングにより価格設定が広まるのではないかと考えられている。

そこで早速、近年、実際に行われているダイナミックプライシングの事例を見ていこう。

●事例/福岡ソフトバンクホークス(プロ野球)

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プロ球界で、いち早くダイナミックプライシングを導入したのがホークス。三井物産と連携し、本拠地ヤフオク!ドームでのチケット販売に、2016年から試験的に開始した。

2016年シーズンは、観客席の列ごとに、
(1)過去にその席がヤフオクドームの、5万2000席の中で何番目に買われたか
(2)現在の対象チケットの売れ行き
(3)天候やホークスの順位、相手チーム、開始時刻や曜日
上記のような項目のビッグデータを活用し、それぞれの観客席に異なる価格を設定した。

価格は100円単位で上下させ、現在は選手の2000安打達成や先発ピッチャーなど、さらに多くのデータによっても価格を変えられる。通路側の席よりも中央寄りの席のほうが人気薄のため、そうした条件によっても価格を変動させることができ、同じ席種でもより細かい価格変動が可能になっている。

同様のダイナミックプライシングは、楽天と連携した東北楽天ゴールデンイーグルス、ぴあと連携した東京ヤクルトスワローズなどでも導入されている。

●事例/横浜F・マリノス(サッカーJ1)
横浜F・マリノスは2018年6月から、AIを使ったダイナミックプライシングを導入している。
J1チームで同制度を本格採用するのは初めてのことで、対戦相手、前売り券の販売状況、天候などのデータをもとに、一日ごとにチケット価格を変動させることが実現している。

価格は、通路で区切られたブロック(200席前後)単位で変動。当日券価格も変動させる。当初は日産スタジアムの約2000席で価格を変動させ、来シーズン以降には対象となる席種や席数を拡大する方針という。変動の幅は最大500円程度。

●事例/アメリカでは……
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海の向こうアメリカでは、さらに変動価格が進化しており、2013年には米アマゾン・ドット・コムが、1日に平均250万回以上も商品の価格を変動させていた、とされている。

また、カリフォルニア州サンディエゴのパブでは、ビールやウイスキーなどの価格が、客の需要によってリアルタイムに変動するシステムを採用したというニュースもあった。

加えて、自宅や所有物件を旅行者に貸し出す民泊の現場にも、AIが学習して作り上げたアルゴリズム(データ処理の方法)によって、宿泊料金を1日単位で決めるサービスも登場している。

AI型ダイナミックプライシングのメリットと問題点

AIに基づくダイナミックプライシングを活用すれば、膨大なデータを瞬時に分析し、適切な販売価格をリアルタイムで設定することができる。そして、それを繰り返していくことにより、AIが学習体験を積み重ね、より精度の高い価格設定ができるようになる。

適正な販売価格は、在庫減少に役立ち、商品やサービスを提供する側にとっての損失軽減につながる。さらに、企業側にとって利益の最大化が、ダイナミックプライシングの最大のメリットといえるだろう。

その一方で注意しなくてはいけないのは、「不公正な取引方法」につながりかねない危険性もはらんでいることだ。

他社が同様のサービスを提供しているような場合、そのサービスと重複する部分だけ格安にし、他の部分で値段を釣り上げて収益を上げることもできることになるからだ。
あるいは逆に、他社との競争をやめて他社と同じような価格に揃えることで、カルテルに問われかねない事態も発生するかもしれない。これらはAIに行わせるアルゴリズムによって、変わってくる。

AI頼みではなく、利用者が納得する価格設定が大切

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いずれにせよAIによるダイナミックプライシングは、今後さまざまな分野に、ますます広がっていくと思われる。そこで重要なのは、利用者の利益も十二分に考えたうえで行い、利用者が納得できる価格を設定することだ。

例えば、コンサートやスポーツ等の興行で、当日や前日に売れ残っていたチケットを格安で販売したら、正価で購入した人から不満の声が出るだろう。それでは利用者が納得できるサービスにはならない。

データに頼ったAI頼みの分析で生じる齟齬や、ユーザ側の不満……。これらをなくすには、どのようなデータを活用し、AIに分析・反映させるか、あるいは、利用者の価値観をうまく取り入れ、より多くの人が納得できる価格設定が必要になってくる。
そこにはやはり、人間の感覚、判断が求められるのかもしれない。

≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車など。


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