11月11日──。「1」が4つ並ぶこの日、1は「シングル」を表すことから、中国では「独身(者)の日」とされ、独身者同士が集まってパーティを開いたり、結婚相手を探したりと、さまざまな独身者イベントが開催される日となっている。
近年は、「独身者が一人の寂しさを買い物で紛らわす日」として、中国最大のショッピングサイト「アリババ」が大規模なショッピングイベント(バーゲン)を開催することでも知られている。このショッピングイベントは年々規模を拡大し、2018年11月11日はわずか1日で過去最高の3.5兆円を売り上げたというニュースも話題になった。今回は、「記念日マーケティング」について調べてみた。
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江崎グリコが設けた販促記念日「ポッキー&プリッツの日」
中国最大のショッピングサイト「アリババ」が大規模なショッピングイベント(バーゲン)を開催した11月11日だが、一方の日本では、11月11日は「ポッキー&プリッツの日」として認知度が高まっている。こちらは「1」を、棒状のポッキーやプリッツに見立てている。製造元である江崎グリコが設けた、販促のための記念日だ。
このような事例にならって、商品やサービスを周知させ、宣伝効果を上げるため、記念日を設ける企業や業界団体が増えている。その日に合わせて販促キャンペーンなどを開催し、売り上げ増につなげようというのだ。
今回はこの「記念日マーケティング」に注目し、記念日を設けた販促効果の可能性に迫ってみよう。
1件10万円でできる記念日登録
日本には「成人の日(1月第2月曜日)」や「こどもの日(5月5日)」など、いわゆる国民の祝日に加え、「時の記念日(6月10日)」や「防災の日(9月1日)」など、政府や省庁が定めた記念日が全部で63件ある。これだけでも、6日に1日の割合で何らかの記念日にあたるわけだ。
もちろん、企業などが独自に定める記念日はこれとは別。
企業などが記念日を設けるためには、一般社団法人「日本記念日協会」に申請するのが一般的だ。
協会で、記念日の名称・日付・由来・目的・活動内容・今後の予定などを審査し、合格すれば認定登録される。登録料は1件10万円だから、これで商品やサービスの認知度が高まれば、企業にとっては安価なプロモーション作戦と言えるだろう。
日本記念日協会が認定登録している記念日の数は1600件を超え、なお増加中。協会に未登録の記念日や伝統的に使われてきた記念日なども含めると、日本には全部で約2800件もの記念日があるという。
ちなみに、日本記念日協会に認定登録されている記念日が多い日ベスト5(2018年11月11日現在)は、
1位 10月10日/50件
2位 11月11日/46件
3位 8月8日/44件
4位 8月10日と10月1日/31件(同数)
ゾロ目の日は覚えやすく、人気があるようだ。
記念日マーケティングの実例
先にも述べた11月11日は「ポッキー&プリッツの日」。今では、企業独自の記念日としては抜群の知名度を誇るが、そのスタートは1999年11月11日からと、比較的新しい。
ポッキー自体は1966年、プリッツは1963年に誕生したお菓子なので、売り上げに大きな変動のない定番化したお菓子だといえる。
定番にもかかわらず、記念日を盛んにPRし、それが定着した現在、10月と11月の2カ月で1年の売り上げのほぼ4分の1にあたる5000万箱が売れるというから、記念日効果は非常に大きいといえる。記念日マーケティングの最大のヒット事例といって過言ではない。
他にどのような記念日があり、どのようなプロモーションをしているのか、具体的に見てみよう。
●3月8日 ザンパの日(比嘉酒造)
泡盛の「残波」を製造する沖縄の比嘉酒造が、ブランディング事業の一環として2018年に制定。3と8の語呂合わせで。3月8日は「サバの日」でもあることから、サバを食べながら残波を楽しむようなイベントを、ホテルやレストランなどとコラボして企画したいと意気込む。
●7月11日 セブン-イレブンの日(セブン・イレブン・ジャパン)
ネーミングのまま語呂合わせした記念日。毎年の記念日には、「ポテトチップス わさび7倍わさビーフ」「7倍でっかいキャラメルコーン」「ぷっちょ ミラクル7」など、この日セブン-イレブンでしか手に入らない限定商品が登場し、ネット上を賑わす。
●8月4日 ビヤホールの日 (サッポロライオン)
日本麦酒醸造株式会社(現在のサッポロビール)が、1899年(明治32年)8月4日に『恵比寿ビヤホール』をオープンしたことから、この日をビヤホールの日と制定。サッポロライオンの全店で、ビール全品が半額となるサービスが行われる。
●8月10日 焼き鳥の日(鮒忠)
「焼き鳥の父」と呼ばれる根本忠雄氏が創業した、浅草の老舗・鮒忠が制定した記念日。日付は8と10で「焼き鳥」と読ませる語呂合わせ。真夏のビールの季節でもあり、記念日はネットやSNSを通じて徐々に浸透。記念日は通常より3割売り上げが伸びるとか。
●10月1日 まずい棒の日(銚子電気鉄道)
赤字続きの銚子電鉄が、今年制定した記念日。今年は資金繰りが「まずい」状態になり、8月に赤字補填のためにスナック菓子の「まずい棒」を発売。銚子電鉄「救済」の意味を込めて9月31日(架空の日)を設定。それが10月1日というわけ。記念電車を運行したり、SNSを活用したりして話題になり、まずい棒は発売初日に1万5000本を完売。
他に「映画サービスデー」(毎月1日)や「肉の日」(毎月29日)など、すっかり定着しているものもある。
記念日マーケティングのメリットは?
企業や業界団体が独自の記念日を定め、それを販促に使う手法は、近年一つのブームとなっているようだ。実際、2017年、日本記念日協会に新たに登録された記念日は263件で、これは前年より2割も増えている。2010年ごろから申請数が急増しているのだという。
なぜ増加しているのか、記念日マーケティングのメリットについて考えてみよう。
【メリット1】商品や会社の知名度をアップできる
「ポッキー&プリッツの日」の成功例を見るまでもなく、商品と記念日がしっかりリンクすれば、それだけで知名度を大きくアップさせることができ、ブランド化できる。
【メリット2】消費者の購買意欲を喚起する
商品やサービスを購入しようとするとき、消費者はそこに何らかの理由を求めるもの。「今日は○○の記念日だからこれを買おう」と、購買意欲を喚起しやすくなる。
【メリット3】周期ごとに売り上げが見込める
一度記念日を決めてしまえば、1年に1回(あるいは毎週1回など)必ずその日はやってくる。定着すれば、継続的な売り上げが期待できるようになる。
【メリット4】あまり経費がかからない
日本記念協会に登録するのは10万円と書いたが、未登録でも記念日を決めることはできる。独自に決めるだけなら経費はかからない。しかし、その記念日を定着させるためのプロモーションには一定程度の経費は必要だ。
【メリット5】社内をまとめられる
記念日を制定するために社内に制定委員会を立ち上げたり、決めた後も全社一丸となって記念日定着のためのキャンペーンをしたりと、記念日をきっかけに全社で盛り上がる活動につながる。
記念日マーケティングにもアイデアが必要
独自に記念日を制定するのはいたって簡単だ。だからこそ、多くの企業や業界団体が競うように記念日を制定しているのだ。
しかし、記念日を決めたからといって、それだけで売り上げが伸び、知名度が上がるものではない。先に述べたように、現代は“毎日が記念日”の状態なのだから、新しい記念日が増えてもまったく目立たない。
記念日マーケティングに求められるのは、記念日を制定することではなく、記念日を使ってどのように販促をするかがポイントだ。そのためにはSNSをうまく活用したり、面白いストーリーを作り上げたり、あるいはまた他の商品とコラボレーションをしたりと、これまでにない斬新なプロモーション戦略が必要となってくる。記念日を決めるより、こちらのアイデアのほうがずっと重要だ。
記念日マーケティングは、すでに新しいステップに入っているのだ。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車など。
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