毎月のローン返済やクレジットカードの支払いを、ほとんどの人は銀行引き落としにしているはず。しかし、銀行口座の残金が足りなくて、引き落としされなかった経験を持つ人も多いだろう。「後日、請求ハガキがきた時にでも、コンビニで支払えばいいや……」などと甘くとらえていると、将来、痛い目にあうかもしれない。
中国などではすでにかなり普及しているといわれている「信用スコア」は、こうした支払い能力などを数値化して個人の評価とし、それをさまざまな社会的手続きに活用しようというもの。それはまさに、大人のための「通知表」といえるもので、この信用スコアは中国のみならず日本でも導入が進んでいるという。
信用スコアとは一体どんなものなのか、問題点はないのか、そして日本でも今後普及していくのかなどについて調べてみた。
ページ内目次
“個人の信用力”を、数値で可視化する “信用スコア”
近年、急速に普及が進む「信用スコア」とは、年齢や勤続年数などの個人のプロフィールに加え、支払い能力、ネットでの購買履歴、さらには道徳性や社会性、嗜好など、その人に紐づくさまざまなデータをもとにし、その人がどれだけ信用に値する人なのかを数値化する仕組みのことを指す。
個人が持つ「信用力」は、「その人が契約を確実に履行する人なのかどうか」「債務をきちんと返済する人なのかどうか」、さらに、こうした点に加えて「社会的・道徳的に正しい行為ができる人なのかどうか」という点なども問われる。この“個人の信用力”を、数値で可視化することが“信用スコア”というわけだ。
これまでも、ローン返済などが遅れると「信用情報にキズがつく」などとよくいわれたものだが、それに加えて、その人の道徳性や嗜好なども加味される点が“信用スコア”の大きな特長とされ、これは多くの人がネットショッピングなどを活用する現代だからこそ取り出せるデータといえるだろう。
また、情報会社が多くの人のデータを保有し、それをAIで分析できることから、容易に数値化できるようになった点も大きな特長とされている。
現代社会は、何をするにもネット越しのつき合いが増えており、取引相手などの顔が見えにくくなっている。実際、ネット上では詐欺などの犯罪が溢れているわけで、信用スコアの普及はネット社会の進行と大きな関連のあるシステムといえる。
信用スコアが、婚活や就活にも利用される中国
中国では、すでに信用スコアが非常に一般的になりつつあり、その仕組みが広く理解されている現状にある。もっとも普及しているサービスは「芝麻信用(Zhima Credit・ゴマ信用)」で、これはIT大手のアリババ(阿里巴巴集団)が2015年に始めたもの。都市部でキャッシュレス化が進む中国では、スマホ決済の最大手の「アリペイ」(アリババ・グループのQR・バーコード決済サービス)と連携している。
この「芝麻信用(Zhima Credit・ゴマ信用)」では、
●「身分特質」 → 学歴や収入などの個人の属性
●「履約能力」 → 契約などの履行実績
●「行為偏好」 → 消費の特徴
●「人脈関係」 → 交友関係
●「信用歴史」 → クレジットの履歴
画像で示した一例のように上記5分野のレーダーチャートが提示され、自分がどの分野において、どれくらい評価されているかが、わかるようになっている。さらにそのうえで、その人の信用スコアが350〜950点の範囲で数値が提示される。このスコアが600点以上あれば「よい」、700点以上なら「非常によい」と評価されることになる。
信用スコアが高ければ、個人向けの融資を低金利で受けられるのはもちろん、ホテルの宿泊、自転車のレンタル、医療機関の受診、図書館での本のレンタルなどでもデポジットが免除されたりする。加えて、このスコアが婚活の条件になったり、履歴書に記入を求められたりもするようになってきているという。
つまりは、信用スコアが高い人=社会的信用も高い、と評価されるようになっているわけだ。
信用スコアの最大の問題点とは
信用スコアの数値次第によって、「信用スコアが高い人=社会的信用も高い」といった具合に人生が左右されるようなことになっていることが理解できるが、果たしてこの信用スコアは、それほど信頼が置けるものなのだろうか。
実際に、中国の芝麻信用の最大の問題点と指摘されている点は、不明な算出方法にあるようだ。
先述した通り、「芝麻信用」はアリババが行っているサービスであるため、ネットショッピングで返品したり、支払いが遅れたりするなどのトラブルがあると、その行動がすぐさまマイナス評価につながる……、あるいは、アリババ以外のネット通販会社を利用するとその行動がマイナス評価になる……といった具合に、算出方法についてさまざまな噂が飛び交っているようなのだ。
その算出方法が公表されていないゆえ、これらの噂が事実なのか、あくまで噂なのは、想像の域を出ることがない。
また、業者が収集した個人情報がどのように管理・利用されているかについても、大きな懸念材料となっている。政府によって、多くの個人情報が管理されている中国の現状を考えれば、この信用スコアを政府が活用していることは容易に想像がつくだろう。
情報大手を皮切りに、日本でも始まっている信用スコア
この信用スコアは、日本でも徐々に普及が始まっている。
みずほ銀行とソフトバンクが設立した「J.Score(ジェイスコア)」は、日本で初めて人工知能によるスコアリング審査(AIスコア・レンディング)を導入したもの。申し込みをした人のデータをもとに、その人の信用力など、AIを活用してスコア化する。このAIスコア・レンディングは、これまでの信用調査で重視された年収や勤続年数、雇用形態などの情報に加え、申込者の思考や行動パターンなども加味されるところが、これまでの信用調査と一線を画している点になる。
また、NTTドコモは「ドコモスコアリング」をスタート。これは、同社の電話回線契約者の情報を活用した信用スコアを、金融機関向けに提供するというもの。このドコモスコアリングのスコアランクを決める基本データは、ドコモの回線契約者の契約内容、利用時間、携帯電話料金の支払い履歴などとされている。
日本における信用スコアは、現在のところまだ顧客サービスの一環といった使い方のようだが、今後も情報大手企業が続々と参入していく可能性を秘めていることは確かだろう。
日本にも信用スコアは普及していくのだろうか?
キャッシュレス化が進んでいる現状を考えれば、日本でも信用スコアの普及は進むと考えられる。
もちろん、すぐに中国のように、信用スコアのランクによってさまざまな社会的な恩恵にあずかる……、他者の異なるサービスが受けられる……、あるいは、就職や結婚に影響をおよぼすようになる……というわけではないだろう。
なんといっても、いまは個人情報の管理が特に厳しく指摘されている時代だ。すなわち、企業側も自らが所有している個人データをスコア化するといった方法は、そう容易にできないはずだ。こうした点からも、個人情報管理の厳格化と、スコア決定過程の透明性が担保されない限り、信用スコアとして活用することは難しいと考えられている現状にある。
とはいいつつも、いわゆる「ブラックリスト」といった信用情報はこれまで確かに存在していたわけだし、それに個人の嗜好や道徳観などを加味したデータが活用されていくことは、それほど遠い未来のことではないような気もする。
──ある意味、近い将来、AIに人生を左右される時代がやってくるのかもしれない……。そう考えたときに空恐ろしさを感じるのは、果たして筆者だけだろうか。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車
Follow Us