今年(2018年)8月、札幌市の講演会で「日本の携帯料金は高すぎる。4割程度下げる余地がある」と語った菅官房長官。
その様子はテレビのニュースなどでも報じられ、苦言を呈する異例の発言として話題となりました。
この菅氏のコメントと合わせて、総務省では8月末から携帯料金の引き下げに向けた検証を開始し、2019年末に最終答申をまとめると公表。一方で、巨額の設備投資を控えるNTTドコモ・KDDI〈au〉・ソフトバンクグループの大手3社は、大幅な値下げに慎重な姿勢を示しており、政府と各社の今後の動向に注目が集まっています。
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家計への負担がますます重くなる携帯電話の通信料
携帯電話の料金をめぐっては、2015年秋に安倍首相が「家計負担の軽減は大きな課題だ」と述べ、総務省に引き下げの検討を指示。これを受けて携帯大手3社は、端末代の値引きを制限して通信料金を安くするプランなどを導入しましたが、プランの適用にはデータ量・通話時間の制限や、オプションサービスのセット加入などの条件が付いており、利用者からは「使えない」という不満の声も。結局、値下げの実質的な効果はほとんど見られず、高い料金を支払わざるを得ないのが現状です。
とくにスマートフォンが普及した近年は、動画視聴やアプリなどで利用者が使うデータ量が増え、携帯料金の支出額は年々上昇しています。総務省の家計調査(2017年)によると、2人以上の世帯が支払う携帯電話の通信料は、年間12万2496円と2000年より10万円近く増加。スマートフォンが普及し始めた10年前と比較すると1.4倍に増え、家計の支出全体に占める割合も2.4%から3.6%へとアップしています(グラフ参照)。
菅氏の異例の発言に続いて、総務省も本格的に検証開始
高い通信料が家計を圧迫し続けている状況を受け、ふたたび口火を切ったのが菅官房長官です。先述したように、菅氏は2018年8月21日に行われた札幌市の講演会で、「携帯電話の料金があまりにも不透明で、他の国と比べると高すぎるのではないか。4割程度下げる余地がある」と言及。
さらに、携帯大手3社の営業利益が約9000億~1兆3000億円(2018年3月期)におよぶことを引き合いに出し、「大手3社の寡占状態にある携帯市場は、競争が働いていない」と痛烈に批判しました。
今回の菅氏の発言(側面支援?)に続いて、2日後の8月23日には総務省の諮問機関「情報通信審議会」の政策部会が、携帯市場の競争活性化を含めた電気通信事業の競争ルールについて包括的な検証を開始。携帯料金引き下げなどの課題を検証する会議を新設し、2019年6月に中間報告、2019年末に最終報告書を取りまとめるとしています。
日本の携帯料金は、やはり海外より高い?
では、菅氏が指摘するように、日本の携帯料金は海外より高い水準にあるのでしょうか。
総務省が2018年9月に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査(2017年度)」によると、調査対象となった世界6都市の中で、東京が最もスマートフォン通信料が高いという結果になっています(グラフ参照)。
同じく、世界6都市のスマートフォン通信料の推移を見ると、東京は2014年度の価格水準と比べて1割程度の値下がりにとどまる一方、ロンドン・パリ・デュッセルドルフの3都市は7割、ニューヨークは6割、ソウルは3割ほど下がっており、東京の値下がりの鈍さが浮き彫りとなっています(グラフ参照)。
総務省の今回の調査では、上記の一般的な利用ケース(シェア1位のMNO事業者のデータ容量・月5ギガバイト料金プラン)のほか、データ容量2ギガバイト・20ギガバイトプランでの比較や、データ容量を家族4人でシェアできるプランを想定した試算も行われていますが、いずれも東京の高値傾向に変わりはありませんでした。
ただし、サービス内容や品質、契約期間などの諸条件が各都市によって異なるため、価格だけを抽出したデータは一つの参考指標と捉える必要があるでしょう。日本のネットワーク品質が世界でもトップレベルにあることや、地震などの災害が多いという国情を考慮すると、また違った判断ができるかもしれません。
値下げに慎重な大手3社。業界からは懸念・反発の声も
今回の政府の値下げ要求に対して、携帯大手3社は「今後も料金やサービスの見直しを検討する(NTTドコモ)」、「今後もお客様のニーズに応えられるよう、サービスの向上に努める(KDDI〈au〉・ソフトバンクグループ)」とコメント。各社とも値下げに慎重な姿勢を示しつつ、今後の政府の出方に神経をとがらせています。
自社回線をもつ大手3社は、利益の中から毎年3000億~5000億円規模の設備投資をしており、今後は次世代通信規格・5Gの実用化に向けた巨額な整備費用も必要となります。こうした事情から、業界内では「全国の通信網を維持するコストを考えて議論してほしい」との要望や、「過度に各社の利益を圧迫すれば、5Gに向けた投資余力がなくなる恐れもある」と懸念する声も。事業者が決める料金に政府が干渉することについても、あちこちから反発の声が上がっているようです。
市場競争の活発化が値下げのカギに……?
これに対して総務省では、「値下げの強制はできないが、格安スマホ事業者との競争を活発化させることで、結果的に下がってくれれば」と指摘。2019年にIT大手の楽天が「第4の携帯会社」として市場参入し、競争が活発化することにも期待を寄せていますが、どこまで値下げにつながるのかは未知数といったところ。アベノミクスを推進する政権としては、携帯料金の値下げを打ち出すことで国民の支持を獲得しつつ、家計の固定支出を抑えて個人消費の押し上げにつなげたいとの思惑もあるようですが……。
当然ながら、自由・公正な市場競争によって決定する携帯電話の料金は、政治的な都合でコントロールすべきものではありませんし、それは政府も十分承知しているでしょう。料金がより安くなるに越したことはありませんが、経済市場の原則に従って政府と民間各社がバランスをとった着地点を探り、利用者(国民)が納得できるベストな形で還元してほしいものです。
※参考/総務省HP、日本経済新聞、朝日新聞
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。
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