ヤフー(株)は、約4800万人におよぶYahoo! JAPAN IDの登録者データをもとに、ユーザーを格付けしてランクや内容に応じた情報を企業に提供したり、ユーザーに特典を与えたりするサービスを開始した。
受益者にとっては有用な情報の提供といえるが、個人情報の扱いなどに関して不安と批判の声が上がっており、今後の成り行きが注目される。
900点満点!サイト利用者の信用を点数化
Yahoo!が目指しているのは、蓄積したデータを運用してビジネスに展開する「データエコノミー型企業」だ。インターネット上では誰もが使っているYahoo!。前述のように日本人の約4割にもあたるIDが登録され、毎日毎秒、すさまじい数のアクセスが続いているサイトだ。
当然のことながら、ここには天文学的ともいえる数のビッグデータが蓄積されている。当事者としては、このデータをビジネスに生かしたいと考えるのは当然だ。
6月にYahoo!が発表した「Yahoo!スコア」は、サイト利用者のネット上での行動をもとに信用度を点数化して格付けしようというもの。
具体的には、ヤフーショッピングやヤフーオークションでの支払い状況、飲食店の予約頻度やキャンセル状況、ヤフーでのクレジットカードの利用金額、そのほか、氏名や住所などの基本データをもとに、「本人確認」「信用行動」「消費行動」「Yahoo! JAPANサービス利用」の4分野について、総合スコア900点満点で採点する。
スコアの上位者は、Yahoo! JAPANをはじめ、提携するパートナー企業からさまざまなサービスや特典などの恩恵が受けられるという。
★カテゴリー分けと利用データ内容
1/本人確認
Yahoo! JAPAN IDにひもづく住所・氏名・電話番号・メールアドレスなどの情報の登録率、登録された電話番号およびメールアドレスの有効性、Yahoo! JAPANが提供するサービスにおける住所確認や本人確認の有無等
2/信用行動
ヤフオクにおける取引実績や評価。ショッピングでのレビュー回数。知恵袋での活躍度。Yahoo! JAPANへの支払い滞納の有無および回数、利用規約・ガイドライン違反の有無および回数、宿泊・飲食店等の予約キャンセル率、キャンセル連絡有無などの行動実績等
3/消費行動
Yahoo! JAPANが提供するEコマースサービス、Yahoo!ウォレット、Yahoo! JAPANカードなどの利用金額等
4/Yahoo! JAPANサービス利用
Yahoo! JAPANが提供するサービスの利用頻度などの実績等
以上の4分野を点数化して評価。
Yahoo! JAPANによれば「スコアに応じてお得で便利な体験をサービスします。具体的には、たとえばレストランやコンサートで先行予約ができたり、並ばずに入場できます。また、お買い物でさまざまな特典がもらえるなどが含まれます。さらに、これらの体験はYahoo! JAPANだけでなく、お客様がスコア提供に同意したパートナー企業からも提供されます」という。
一方で、ショッピングでの具体的な購入品目については評価の対象にしないほか、ヤフーの検索履歴やニュースの閲覧履歴などもスコアには反映されないという。
また、このスコアを利用者の同意なく他者に提供することはなく、たとえばパートナー企業である自転車シェアやレストラン予約など、それぞれが手がける個別のサービスに関してスコア提供の同意を求めるという。
スコアの提供に、プライバシーへの懸念広がる
Yahoo!が鳴り物入りで発表した格付けシステム「Yahoo!スコア」。
企業にも個人にもメリットが多く、恩恵を受けそうな人がたくさん出てくる気配だが、逆に発表直後から、メディアやSNS上では不安と批判の声が一斉に上がっている。なかには「個人の基本情報がヤフーによって勝手に外部に提供される」という誤った情報までネットで拡散され、Yahoo! JAPANは対応に追われた。
同社が示したリリースには、同意なしで他の企業にスコアが提供されることはない、とくどいほど書いてあるのだが、一方でいくつか説明の不備と、不安を募らせるような内容が含まれていたのも事実だ。
たとえば、次のような問題点が指摘された。
1/スコアは勝手に作成され、利用される?
いうまでもなくこの信用スコアはYahoo! JAPANが独自に作るもので、IDを持っているユーザーが何らかの意見をもって関与できるわけではない。しかもYahoo!スコアの作成画面をみると「デフォルトでオン」になっており、スコアの利用や提供に同意する人はそのまま何もしなくてよく、提供を拒否する人だけがわざわざログインして「オフ」の手続きをしなければならない。いわゆる「オプトアウト」方式だ。ほおっておくと同意とみなされる。
2/自分のスコアを確認するには手続きがめんどう
情報提供に同意するならば、自分のスコアが何点なのか、とても興味のあるところだ。ところがこのYahoo!スコアを発表した当初、Yahoo! JAPANは、たとえ本人であってもスコアの数値を開示する予定はないというスタンスをとっていた。その後、メディアやネットでの批判が沸騰したことを受け、確認したい人には郵送で受けつけることにした。このあたりも後手にまわっている。
3/スコアの決め方と活用場面が示されていない
情報提供に同意はしたものの、それをYahoo! JAPANやパートナー企業がどんな場面で、どう活用するのか、今のところこちらにはわからない。また、スコアの点数付けにかんしても、例えばヤフオクで高額商品の売買を行うと手数は上がるのだろうか。あるいは知恵袋でいい質問や答えをのせるとスコアがあがるのだろうか。そういったところが不透明なままだ。
以上のような不安や批判が、多数寄せられている。
ヤフー(株)の川辺社長は、「すべてはヤフーの説明がヘタ過ぎることに問題があり、ソーシャル上で誤解を生じさせてしまって本当に申しわけない」とツイッター上で6月中旬に謝罪した。
せっかくのYahoo!スコアに批判が殺到し、プライバシーに詳しい識者からも疑問の声が上がったことで、社長自らが火消しに動いた格好だ。
あまり世間では知られていないが、金融機関をはじめ大手の企業では、すでに“信用スコア”的なランク付けは秘かに行われている。ただ日本では、監視社会に慣れた中国などと違って、IT(情報技術)企業にスコアをつけられることへの抵抗感や拒否感はまだ根強い。
まして格付けしたスコアを事業化して商売につなげようという発想は始まったばかり。Yahoo! JAPANの試みは大変面白いが、さまざまな問題点を浮き彫りにしたのも事実。今後の展開が大いに興味深いところだ。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。
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