グローバル経済を占う中国リスク


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波乱のスタートとなった新春の金融市場。
その中心になっているのは、米中の通商問題での対立、覇権争い、そしてその余波を受けている米IT企業の雄・アップルの業績下方予想です。
それに加えて、トランプ大統領の議会との対立で、予算案が承認できない状態になっています。まさにリスク満載の2019年と言えるでしょう。
そこで今回は、1つのリスクの根源・中国に焦点を当てて、検証してみたいと思います。

中国経済の現状

はじめに、中国景気の現状はどうでしょうか?

中国は、経済成長率(GDP)で6.5%前後の成長を続けています。
10年ほど前の9~10%近辺の高度成長期は既に期待できず、現状では6%半ばの安定期に入っているとみることもできます。
中国は外向きには「一帯一路」の政策で、欧州との流通設備(インフラ)を整えて経済成長を図る動きをしています。

一方で、内向きには「中国製造2025」を標語に、次世代情報技術(5G)を中心にハイテク、電気自動車など製造業の高度化を目指しています。
その結果として、2025年には世界の製造強国の仲間入りを目指す政策を打ち出しているのです。
中国は民間企業を含めてその方針を粛々と進めています。それに対して、かんしゃくを起こしたのが、トランプ米大統領と言えます。

米中は現在、双方の追加関税を課す方針で通商交渉をしています。直近では、昨年12月初旬に90日間追加関税を猶予するとしています。
3月までに合意できないと、米国は2千億ドル相当の中国からの輸入品に25%の追加関税が課されることとなります。
これには中国IT企業の雄・ファーウェイを巡る問題、アップルの業績下方予想など、すべて関連してきていると言えます。

PMI数値から見る景気悪化

現状の中国景気の悪さは、はっきりとした数値にも現れています。
下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)をご覧ください。
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昨年に限ると、年初の51.5を付けて以来右肩下がりのチャートになっています。
2018年12月の財新製造業PMIは49.7と、2017年6月以来、景気の分かれ目である50を下回りました。

PMIとは、Purchasing Manager Indexと言い、企業の購買担当者の今後の景況感の見方をインデックスにしたものです。
今回は製造業に限った購買担当者の景況感であり、市場は中国の景況感の指標であると注目していました。
その数字が予想(50.2)よりも悪かったことをうけ、金融市場は中国景気後退を意識することになりました。

その他の数字では、昨年11月の小売売上高が前年比8.1%増となっており、これは15年ぶりの低水準であるようです。
具体的には、自動車売り上げが5ヶ月連続のマイナス、携帯電話売り上げでも6四半期連続の販売台数減少となっています。
このことは消費が落ち込む気配を示していると同時に、都市部のマンション価格上昇のバブル状態にも影響を及ぼしているようです。
マンション価格が下落し始めており、かつて投資目的で購入した投資家も売るに売れない状態と言えるのです。

株式市場と中国人民銀行の動き

株式市場においても、中国の代表的株式指標である上海総合指数が最近は2,500前後に低迷していて、3,000方向に戻る動きは示していません。
中国の投資家の想いを象徴していると言えます。

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このような景気悪化の兆しが散見される状態で、中国人民銀行が年初に動きました。
市中銀行から強制的に預かるお金の比率を示す「預金準備率」を、1ポイント引き下げると発表したのです。
引き下げは昨年10月以来3か月ぶり、大手銀行の標準的な準備率は13.5%となります。

この結果、1兆5千億元(約24兆円)の資金が民間銀行で自由となり、資金繰りに困っている民間企業への手助けとなります。
米中貿易摩擦の結果、景気後退局面を迎えているのではという人民銀行幹部の危機感が、このような預金準備率引き下げを決断に導いたのではと推測されます。
また昨年10月にも引き下げたということは、景気後退局面が継続していることを示しているのかも知れません。

ここから推察すると、次の一手は、政策金利の引き下げではないかと言えます。
中国の政策金利は、銀行の貸し出しと預金の目安となる「基準金利」です。
2015年に貸し出し1年で4.35%、預金は1.5%に据え置いていますが、この基準金利をいつ引き下げるかが次の焦点となります。

金利から見る中国経済

次に金融市場の金利の動きを見ましょう。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、金融市場の2年物のスワップ金利の過去2年間の動きを示しています。
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これを見ると、昨年1月4.8%近辺で天井を付け、その後は大きく利回り下落の動きをしています。現在は3.2%以下の水準となっています。
このことから、市場関係者は既に昨年を通して景気が後退局面にあり、利回り低下の動きをなることを察していたのではないかと思います。
これに極めて似た動きになっているのが、株式市場の指標である上海総合指数です。
これらのことからは、中国人民銀行は米中貿易摩擦の結果、景気後退が鮮明になる前に、政策金利の引き下げという手を打ってくるのではと推測できます。

最後に、人民元相場の動きにも注目してみます。
現在、米国政府は、中国当局が人民元を為替操作しているのではないかと常に疑念を抱いています。

下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、昨年1年間の人民元の対ドル相場の推移を示したチャートです。
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縦軸の目盛が、下に行けば行くほど、人民元安となります。
人民元安になると、一般的には輸出額が輸入額を上回れば、人民元安の恩恵を大きく享受できることになります。

昨年を通して、中国人民銀行は、大きく人民元安トレンドを形成するように操作しているかの印象を植え付けています。
米国がもつ、為替操作しているのではとの疑念はこのチャートで正当化されるのです。背に腹は代えられないという中国当局のなりふり構わずの姿勢が表れているようです。

このことも米中通商交渉の議題で取り上げられているのではないか、と筆者は推測します。
中国側で対米での大幅な輸出超の状態が継続していることから、必然的にドルを貯め込む結果となっています。
その結果、米国での米債直接投資は別にしても、ドルを人民元に転換する必要があるのです。こうなると、その先は人民元高となるのが自然の流れです。
しかし、現実的には人民元安の結果となっている、米国が一言いいたい理由がここにあります。

まとめ

共産党政権である中国政府は、実際の経済指標を発表しておらず、全てを管理下に置いているのではないかとの疑問はあります。
しかし、財新製造業PMIなど民間調査会社の景況感の数字、市場金利、株式市場の指数、そして為替レートからは、実際の生きた数字が飛び込んできます。これらは操作不可能と言えるでしょう。
客観的な数字から、本当の中国の経済状態を探り、それが世界経済に与える影響の土台を推測することは必要であると思います。
世界経済に与える中国の影響力は今後益々強まるのではと推測します。
中国に直接投資している、していないに関わらず、トランプリスク同様に、今年も中国経済動向から目を離さないようにしましょう。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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