ここ近年、飲食・サービス業界を中心に深刻化している人手不足問題。
とくに、危機的な人手不足に直面するコンビニ業界では、一部の店舗で深夜の営業を取りやめるなど、24時間の営業体制を見直す動きも広がっている。そうした事態を受け、経済産業省はコンビニ各社の本部に対して、人手不足対策の早急な検討を要請。すでにファミリーマート・セブンイレブン・ローソンの3社では、顔認証システムを活用した実験店やセルフレジの導入を進めるなど、少人数で運営できる店舗づくりに向けて動き始めている。
果たして近い将来、街のコンビニはどのような姿に変わっていくのだろうか……。店舗運営の省力化・省人化を急ぐ、大手コンビニ3社の取り組みにフォーカスする。
ページ内目次
パナソニックとコラボしたファミリーマートの実験店
ファミリーマートとパナソニックは今年(2019年)4月2日、顔認証システムなどを使って手ぶらで買い物できる実験店「ファミリーマート 佐江戸店」を横浜市都筑区にオープンさせた。
同店では顔認証決済をはじめ、業務アシストシステム、電子棚札、モバイルオーダー、店内状況を数値化するデータ収集など、パナソニックが開発した最新技術を多数導入。店舗のすぐ隣にはパナソニックの事業場があり、同社がフランチャイジーとなって店舗運営にも加わることで、次世代型コンビニの実現に向けた実践的なアプローチを探る狙いだ。
顔認証の実験はパナソニックの社員のみが対象で、システムに登録された顔をカメラが認証すると店の専用ゲートが開閉。顔認証技術と画像処理による商品読み込みを活用し、レジ台に置いた商品の代金が、あらかじめ登録した本人のクレジットカードから引き落とされる仕組みだ。
また、売場に設置した20台のカメラと50台の赤外線センサーが、客の動きや店内状況、棚の商品数などを感知し、得られた情報をスタッフのウェアラブル端末に送信。欠品した商品の補充、混雑時のレジの応援、シフトに基づいた清掃業務の指示などが端末画面に表示され、点検業務の負担軽減とともに、欠品によって販売の機会を逃すことも防ぐ。さらに、店内ポップをデジタル化する電子棚札、4か国語に対応する対面翻訳機、セルフレジなどの省力機器を導入するほか、パナソニック社員を対象に、専用アプリで弁当類が注文できるモバイルオーダーの実験も行う。
ファミリーマートでは、実験店で運営業務がどこまで効率化できるかを検証し、将来は他店舖にもシステムを広げていく考えだ。同社の沢田貴司社長は「省力化・省人化は待ったなし。実験で得られたデータもとに、実用化できるものは早期に導入したい」と話す。
NECのオフィス内にあるセブンイレブンの実験店
セブンイレブンも昨年12月から、顔認証システムを活用した小型店の実験をNECと進めている。店舗は都内のNECのオフィス内にあり、事前に登録したNEC社員の顔を入口のカメラが認証すると、自動ドアが開いて入店できる。会計は来店者自身が商品のバーコードをセルフレジで読み取り、顔認証システムか社員証で決済。後日、利用した額が給与天引きで一括清算される。実験に参加するNECでは、オフィス内に気軽に使えるコンビニを設けることで、社員の利便性を高めるとともに、個々の働き方や社内環境の改善にもつなげる狙いだ。
実験店では店舗スタッフの負担を軽減するシステムも導入している。常駐スタッフは1人のみで、基本的にはスタッフがいなくても買い物が可能だ。店内の様子はカメラで遠隔から確認でき、発注業務にはAI(人工知能)を活用。販売実績や季節・天候などのデータをもとに、AIが各商品の発注数を提案することで、発注業務の所要時間を約4割削減できたという。
今後セブンイレブンでは、実験店の運営を通して導入企業の社員が快適に利用できるサービスを検証し、他のオフィスや病院、工場など、利用者が限られる場所への出店も検討していく考えだ。ただ、同社では「省人化店舗はあくまで顧客との接点を増やすためのもの」と位置付けており、現時点では完全無人化店舗を展開する予定はないという。同社の古屋一樹社長も「機械でできることはデジタル化を進め、スタッフには接客に注力してもらう」と、人的サービスのさらなる充実に意気込みを示す。
消費税増税前にセルフレジを全店に導入するローソン
次世代型店舗の実験を進めるファミリーマート・セブンイレブンに対して、ローソンは今年10月までに、国内の全店舗(約1万4000店)にセルフレジを導入する。客自身が商品のバーコードを専用レジにかざすだけで決済でき、1日の店舗業務の3割にあたる5時間分のレジ作業を削減する狙いだ。支払方法はクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス限定で、10月からの消費税増税でキャッシュレス決済のポイント還元が始まることも意識している。
また、ローソンではセルフレジに先がけて「ローソンスマホペイ」という独自のアプリを展開。客が自分のスマートフォンで商品のバーコードを読み取り、店内のどこでも決済できるので、弁当やパン、飲み物やスナック菓子などのチョイ買いに便利だ。こちらも導入店舗が増えており、アプリの登録や利用手順がやや面倒という声もあるが、レジ待ちのストレスから解放されるのは大きなメリットといえるだろう。
ただし、セルフレジもスマホレジも現金払いはできず、1回あたりの決済金額は1万円が上限。年齢確認が必要な酒類・タバコや、切手、はがき、医薬品、一部フード類なども購入できない。
大手各社に広まる24時間営業の見直し
ここ最近、コンビニをめぐっては24時間営業の是非を問う議論も広まっている。今年2月には大阪府東大阪市のセブンイレブンFC店のオーナーが、人手不足による負担が限界に達したとして深夜の営業を停止。これを受けてセブンイレブン本部は、時短営業の実験を3月から全国の直営10店舗店で開始し、ファミリーマート・ローソンも24時間営業の見直しを表明するなど、人手不足の影響は各社に波紋を広げている。
こうした中、世耕弘成経済産業相は今年4月にコンビニ各社の幹部と会談し、人手不足や省力化対策の実施に向けた行動計画の策定を要請。その後の記者会見で「国民全体にとってコンビニは、なくてはならないインフラ」と指摘し、コンビニの持続に必要な解決策を盛り込んだ行動計画づくりの必要性を訴えた。
たしかに、街のコンビニはいまや日常生活に欠かせない重要なインフラのひとつであり、災害時や防犯の拠点としての役割も担っている。ただ、365日・24時間営業が当たり前、いつでも店員がいて現金が使える……そんなコンビニのあり方は、今後、少しずつ変わっていくだろう。そして、便利さに慣れきってしまった私たち消費者も、その裏には多大な労力や犠牲があることを忘れてはいけない。
コンビニを頻繁に利用する筆者自身、深夜閉店のコンビニや無人コンビニ、正月休業のコンビニ、キャッシュレスオンリーのコンビニもあっていいと思うが、さて皆さんはどう考えるだろうか。
※参考/セブンイレブン・ファミリーマート・ローソンHP、朝日新聞、日本経済新聞
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。
Follow Us