日本で加速する「キャッシュレス社会」の光と影《Part.2》


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ここ数年、流通系や交通系の電子マネーが急速に普及したことで、現金を使わない「キャッシュレス化」が急速に進んだ日本。

さらに、去る10月15日、安倍首相が2019年10月から消費税を現行8%から10%に引き上げる方針を表明したことで、キャッシュレスに関する議論が一段とかまびすしいものになった。

前回の《いま日本で加速する「キャッシュレス社会」の光と影 Part.1》でも取り上げたように、国内のクレジットカード・電子マネーの決済率は年々上昇し、いまや日常の買い物や支払いは、ほとんどキャッシュレスで済む時代となった反面、国際的に見ると日本のキャッシュレス化は、大きく遅れているのが現状だ。
近年のインバウンド需要の増加、深刻な人手不足・人件費高騰などが続き、国や各業界もさらなるキャッシュレス決済の拡大に向けて動き始めているが、その種類の多さがキャッシュレス化の足かせになっているとの指摘もある。実は便利そうなキャッシュレス社会には意外な課題や懸念すべき点が隠れているようだ。

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諸外国に遠く及ばない日本のキャッシュレス決済率

まずは、海外主要国と日本のキャッシュレス決済の比率を見てみよう。
経済産業省のデータ(2016年・中国は2015年の参考値)によると、家計最終消費支出に占める各国のキャッシュレス決済比率は以下の通り(グラフ参照)。ここ数年でキャッシュレス化が進んだ日本だが、諸外国と比べるとまだまだ遅れていることがわかるだろう。

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日本のキャッシュレス化が他国より進まない理由としては、主に以下の点が考えられる。
《1》偽札の流通が少なく、現金の信頼性が圧倒的に高い。
《2》ATMや自動販売機・清算機が全国津々浦々にまで普及し、現金を手軽に入手・使用できるインフラ環境が整っている。
《3》窃盗・盗難などが少なく、現金を安心して所持できる治安が保たれている。
《4》クレジットカード・デビットカード・ICカード・お財布ケータイなど、キャッシュレス決済の方法や提供会社が乱立し、主要な決済サービスが生まれにくい。
《5》店舗側も多様な決済端末を設置するには費用がかさむうえ、クレジットカード会社やサービス事業者に支払う手数料も高い(4~8%)ため、中小規模の店舗で導入しにくい。

日本の社会経済に多大なデメリットをもたらす現金決済

以上のような背景から、いまだ現金志向が根強い日本。上記の《1》~《3》はわが国の誇るべき点ではあるが、そこに莫大な社会的コストが発生しているのを意識している人は少ないだろう。経済産業省が2017年に発表した「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」の資料を見ると、現金決済インフラの維持に年間1兆5000億円近くかかっていることがわかる(図表参照)。これは、日本第6位の人口を抱える千葉県の年間財政規模に匹敵する額だ。

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とくに、少子化・人口減や人手不足などの諸問題に直面する日本では、現金決済によって生じる社会的・経済的な損失は大きい。たとえば……

●現金決済は人手や手間がかかる
⇒ 人手不足が解消しない。従業員の数や労働時間が増えて人件費がかさむ。
⇒ 無人コンビニや無人車両サービスなど、新たなイノベーションが生まれにくい。
●現金決済は消費者とつながりにくい
⇒ 消費者のビッグデータが活用できず、市場のニーズや需要に対応しにくくなる。
⇒ 消費者がポイント還元などのメリットを享受できない。
●現金決済は商機を逃す
⇒ 近年増えている訪日外国人の決済に対応できず、インバウンド収入のチャンスを逃す。
⇒ 現金払いの手間やレジ待ちの時間を嫌って来店客が減る。
●現金決済には莫大なコストがかかる
⇒ 現金決済の維持や業務にかかるコストが、社会経済の成長や企業経営を圧迫する。
⇒ そのコストが商品やサービスに転嫁され、最終的に消費者が負担することになる。

……など、事業者や消費者にとっても、社会経済全体から見ても、多大なデメリットが現に生じつつある。言い換えれば、これからの日本は「現金決済からの脱却」こそが、社会問題の解決や経済低迷から脱出するための重要な切り札となるのだ。

政府もキャッシュレス推進に向けて本格始動

こうした状況に策を講じるべく、国も動き始めている。
経済産業省では今年(2018年)4月、国内のキャッシュレス推進を支援する「キャッシュレスビジョン」を策定し、将来的にキャッシュレス決済比率80%を目指す「支払い方改革宣言」を発表。まずは、2020年までに主要商業施設や観光スポットなどにおける「クレジットカード・電子マネー決済対応化100%」の目標を掲げ、インバウンド増加が見込まれる東京五輪までの普及に弾みをつける狙いだ。

また、政府は2019年10月からの消費税率の引き上げに合わせ、景気対策として店舗などでキャッシュレス決済をした消費者に対して、増税分の2%程度をポイント還元する施策も検討しているという。これについては、
「高齢者の多い地方の小売店で少額購入した際、カード払いは現実的か……?」
「ITリテラシーの問題やセキュリティへの不安は払拭できるのか……?」
「現金商売の小売店に負荷をかけることにならないか……?」
「あまたある電子マネー、クレジットカードがキャッシュレス化の足かせになっている今、全国共通、誰もが使いやすい決済方法を国主導で実現しえないものか……?」
といった様々な議論が噴出している。

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政府や各業界が普及に期待を寄せる「QRコード決済」

政府や各業界が今後の普及に期待を寄せているのが、スマートフォンで読み取るQRコードを使った決済サービスだ。その最大のメリットは、店舗側のコスト負担の少なさにある。QRコード決済は、画面上または印刷した二次元QRコードがあれば、ほとんどの機種のスマートフォンで決済できるので、クレジットカードや他の電子マネー決済のように専用の読み取り機を設置する必要がない。サービス事業者に支払う手数料も低く抑えられており(無料~3%程度)、個人経営の飲食店や小売店などでも気軽に導入できる。

そうしたメリットを踏まえ、政府はQRコードの決済基盤を提供する事業者へ補助金を供与し、中小の小売店には決済額に応じて時限的な税制優遇の適用を検討。これを受けて、すでに楽天やNTTドコモ、LINE、Amazonなどの事業者がQRコード決済サービスを開始しており、ソフトバンク・Yahooの合弁会社やKDDIも2018年度内の参入を予定しているという。

社会的格差の拡大や若年層の金銭感覚醸成が課題に

国が税金を投じて積極的に推進し、社会的にも大きな期待が寄せられているキャッシュレス化だが、じつは喜ばしいことばかりではないようだ。世の中でメリットばかりが強調される一方で、その合理性に隠れた課題点や過度な拡大を懸念する声もある。

とくに懸念されているのが、社会的格差の拡大である。実際にキャッシュレスが浸透している諸外国では、クレジットカードを所有できない貧困層や、デジタルデバイスに不慣れな高齢者がキャッシュレスに対応できず、消費社会の中で置き去りにされてしまう問題が浮上している。さらに、キャッシュレス決済の利用者をめぐっても、各事業者が個人の信用情報データを活用して、支払い能力の高い人に向けたプレミアムサービス(ホテル予約時の違約金不要、金融商品の金利優遇など)を始めており、サービスを受けられる富裕層と受けられない一般層との格差が広がりつつあるという。

大人の社会だけでなく、若年世代への影響も不安視されている。ここ近年、中国やデンマークなどでは子どもの小遣いやお年玉も電子マネー化し、日常生活の中で現金をほとんど目にしない世代が登場。現金の扱いや価値がわからない子どもも増えていることから、健全な金銭感覚の醸成が課題となっている。

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たしかに、私たちの社会生活や経済活動において、キャッシュレス化がもたらすメリットは非常に大きい。しかし、現金が不要とされる世の中が、万人にとって本当に理想的な社会なのか?……と考えると、決して「イエス」とばかりは言えないだろう。筆者自身、買い物に現金をほとんど使わないクレジットカード派だが、現金という唯一無二の価値やリアルな存在感は、決して忘れ去られてはいけないと思っている。
金融イノベーションという一大潮流に乗って、ますます加速していくキャッシュレス社会の光と影── 賛否両論ある中で、皆さんはどう考えるだろうか。

※参考/経済産業省HP、朝日新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。


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