いまや、世の中のすべてはデジタルで動いているといっても過言ではない。
われわれの生活すべてがコンピュータに支配され、これからはさらに進化したAIが物事の中心になっていくのは間違いないところだ。
そんな中、各方面でアナログの魅力が再認識されているらしい。前回は白黒フィルムが復活したり、「チェキ」や「写ルンです」と言ったフィルムカメラに若者の興味が集まったりしているという話を紹介した。
それに続いて今回は、音楽やゲームの世界での“アナログ復活”について調べてみた。こちらも牽引者はやはり若者のようだが……。
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音質もジャケットも魅力的なアナログレコード
最近はCDショップに行っても閑散としていることが多い。渋谷センター街にあった大手CDショップ「HMV渋谷」が閉店したのはもう10年も前のこと。CD不況という言葉自体がもう死語なのかもしれない。若者と音楽は切っても切れない関係だろうが、いまどきの若者はすべてダウンロードによってファイル形式の音楽を購入し、CDを購入する人たちは中高年を中心とした少数派だ。
そんな音楽を取り巻く環境の中で、かつてのアナログレコードが人気上昇中だという。
日本レコード協会の調査によれば、オーディオレコード全体の生産数は、2009年には約2億1400万巻だったものが、2018年には約1億4000万巻にまで減少。
そのうちCDアルバムは2009年が約1億6500万巻、2018年が約8865万巻とほぼ半減しているのに対し、アナログディスクは2009年に約10万巻だったものが2018年は約1100万巻と、10倍以上の伸びを見せているのだ。この傾向は日本だけにとどまらず、アメリカにおいてもアナログディスクの売り上げは2016年から3年連続で2桁台の伸びを見せている。
新鮮な音源であるアナログレコード
アナログレコードの魅力はどんなところにあるのだろうか。
若い世代たちがまず惹かれるのは、CDのようなプラスチックのパッケージではなく、「ぬくもりのある紙のジャケット」だ。しかもサイズが大きく、部屋に飾るなど、コレクション的な要素もある。
もちろん音質もポイントだ。
ノイズがまったくないデジタル音源は確かにいい音だろう。しかし、CDは音源の情報を圧縮しているために深みが感じられない。これはアナログレコードと聞き比べればわかるが、デジタルはやはり“遊び”がなく、面白みに欠ける。アナログは針の“ブツブツ”といった一種のノイズも、また魅力のひとつになる。
デジタルに慣れきった若者たちにとって、それらは新鮮な音源となるのだろう。
もちろん、昔から聞き続けている中高年以上の世代にとっても、アナログは決してオワコンではない。いま復活してきている理由には、そんなことが見え隠れするのだ。
デジタルとの融合も進むアナログレコードプレーヤー
CDの登場によって一時はなくなりかけたアナログレコードプレーヤーも、いままた復活し、人気が上昇している。
SONYはもちろんのこと、ONKYO、DENON、AIWA、オーディオテクニカなど、かつてオーディオメーカーとして名を馳せたブランドから、軒並みアナログレコードプレーヤーがリリースされており、そのバラエティは逆に選びきれないほどだ。
近年のアナログレコードプレーヤーの特徴としては、USB端子がついているモデルなどが代表的だ。
USBケーブルによってアナログレコードプレーヤーとパソコンをつなぎ、アナログで拾い上げたレコードの音楽信号をデジタル化し、スマートフォンや音楽プレーヤーに取り込むことができる。
また、Bluetoothスピーカーに音楽を出力できるモデル、光デジタルケーブルなどでデジタルアンプに出力できるモデルなどもあり、ここではアナログとデジタルがうまく融合させて楽しめるように進化している。
シニア世代に根強い人気を誇るラジカセ
アナログレコードが復活ということになれば、それを録音するカセットテープの人気も高まるのは当然の流れだといえよう。
ラジカセは、シニアから根強い人気がある。それは操作のしやすさが大きな要因になっているという。例えば、「ガチャン」とボタンを押すはっきりした(アナログ的な)操作で、再生や停止ができる点もそのひとつ。
デジタルとは異なり、目で確認しながら早回しや巻き戻しかできる点も支持される理由だろう。さらに、カセットテープの音楽をデジタルで保存するために、SDカードやUSBメモリーが使えるタイプも登場していて、ここでもデジタルとアナログの融合は進んでいるのだ。
若い世代にとっても、カセットテープは新鮮に映っているようだ。「くるり」「ユニコーン」といった若者に人気アーティストが新曲をカセットテープでリリースするなど、ここ3年ぐらいはカセットも音源の新しいフォーマットのひとつとして復活している。
オーディオメーカーもこの動向に敏感に反応を示している。東芝エルイートレーディングは、1975〜90年に展開していた東芝のオーディオブランド「Aurex(オーレックス)」を2016年に復活させたが、CDラジカセを発売して月1500台という販売目標をクリア。他社でもアナログにこだわったCDラジカセなどが続々と登場し、かつてのオーディオマニアだったシニア層と、いま音楽に夢中の若者たちを中心に、話題を集めている。
スペースインベーダーが、ボードゲームに!?
アナログ復活が目立つのは、音楽の世界に限ったことではない。デジタルゲームの世界でもアナログ化が進行している。1978年に登場し、当時青春時代を過ごしていた人なら誰もがとりこになった「スペースインベーダー」(タイトー)が、ボードゲームとなって生まれ変わるというのだ。
50〜60代の方に説明は不要だが、1970〜80代の喫茶店は画像のようにテーブル中央に画面が備え付けられていて、大人が長時間夢中になって、画面上方から迫り来るインベーダーを交わしながら、ビーム砲でインベーダーを全滅させるゲームに興じていたものだ。これは若い世代のほとんどが知らないアナログな光景だが、独特のサウンドの中、今では信じられないほどのスローテンポだったシューティングゲームに、大枚をはたいた人も多いはずだ。
この「スペースインベーダー」は、喫茶店などで手が痛くなるほどボタンを押し続けたデジタルゲームの先駆けだが、ボードゲームは2〜4人のプレーヤーが242枚のカードを使って、武器を作るなどしてエイリアンを退治する頭脳派ゲーム。現在、クラウドファンディングで開発資金を集めており、2020年に発売予定だという。
そのほか、3年くらい前から、世界的にボードゲームの復活期となっている。
2019年5月末に、東京・台場で開催されたアナログゲームの祭典「ゲームマーケット」には、2日間で2万5000人が来場。場内では、初対面の人たちが顔を突き合わせて、新しいアナログゲームに興じていたという。
東京や大阪などでは、ボードゲームを楽しめるカフェも登場し、ファンは思い思いの楽しみ方をしている。また、個人で作ったゲームを開発する人も少なくない。ボードゲームの定番「人生ゲーム」よろしく、それぞれが自身の人生で得た特技や知識を生かし、面白いボードゲームを作っているのは興味深い。
デジタルでは味わうことのできない、手作り感覚にあふれた面白さを堪能できるだろう。
── デジタル全盛時代となって久しいが、今後はある世代にとっては懐かしく、またある世代にとっては新鮮な、人の温かさが感じられるアナログの進化に要注目だ。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車。
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