五反田が様変わり? 「五反田バレー」にITベンチャーが集結するわけとは?


日が暮れると、中小の雑居ビルが立ち並ぶ大通りから狭い裏路地にいたるまで、居酒屋をはしごする千鳥足の人であふれるネオンまたたく大人の街・五反田……。そんなイメージが強かった東京の南に位置する五反田が、最近様変わりしているようだ。

実は、いまや日本の経済をけん引しようとしている有名ITベンチャー企業が、続々とこの街に進出しているというのだ。目黒川沿いを“渓谷”と見立て、シリコンバレーならぬ「五反田バレー」として、最近にわかに注目を集めている。でもなぜ、いま五反田なのだろうか。その様変わりの実態を調べてみた。

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「ポスト渋谷」と目され、本社機能が続々五反田に移転

ITベンチャー企業がどっと集まってきたここ数年の五反田・大崎の街並みや闊歩するサラリーマンの姿の変化がすさまじい。とはいえ、この街に若い新興企業が集まってくるのは、川の流れが上流から下流へと行きつくように、実は自然なことだった。

近隣の山手線周辺益を見渡すと、渋谷、恵比寿、そして品川と、どこも巨大再開発プロジェクトが進んでおり、小規模なオフィス用ビルが不足し始めている。そのため家賃は年を追うごとに高騰。お隣の目黒は高いステイタスを持った高級住宅地として定着しており、こちらも小規模オフィスビルは供給できない。

かつて、渋谷が「ビットバレー」として注目されたが、新しいベンチャー企業がスタートアップの地として居を構えるには敷居が高すぎる事態となっている。そこで照準が定まったのが五反田だ。

五反田の地形をご存じの方なら理解しやすいだろうが、渋谷と品川にはさまれた位置にある五反田は、文字通り“渓谷”ともいうべき“穴場”のようなポジション。家賃は小規模オフィス用の雑居ビルで坪単価が1万5000円~2万円。渋谷や原宿の3万円~3万5000円に比べると格段に安い。

五反田バレー マップ

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【五反田バレーマップのダウンロード(PDF)】→https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000031052.html

5~6年ほど前から、ポツポツとITベンチャー企業が五反田に移転し始めたが、3年前に「ココナラ」「トレタ」「freee(フリー)」といった名うての急成長企業が、相次いでこの地に拠点を移したことによってがぜん注目を集め、ITベンチャー企業が「われもわれも」……と五反田に進出を果たしている。

最近五反田の様子は、まさに「群雄割拠」の表現がふさわしいといえるもの。プレスリリース・ニュースリリース配信サービスを手がける「PR TIMES」のサイトでは、誰でもダウンロードできる企業の集積状況をまとめた「五反バレーマップ」を公表している。マネセツ本サイトの画像では文字が識別しづらいかもしれないので、気になる人はダウンロードしてみると企業名などがよくわかるはずだ。

結果、いまでは400社以上のIT企業が集まり、夜の居酒屋ではどのテーブルでも、過去にはあまり姿を見かけなかった「IT系の人々」が酒を飲み交わしている状態だという。
          

「社団法人 五反田バレー」を中核として活性化

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五反田がITベンチャー企業の拠点となった理由は家賃が安いからだけではない。他にもいくつか好条件がそろっていた。

たとえばオフィスの入居条件。渋谷や品川のビルでは、入居の審査で三期分の決算が求められ、赤字だと入居は難しくなる。しかしスタートアップ企業では立ち上げから黒字というところはほとんどなく、最初は投資しながら踏ん張っている企業も多い。

五反田はそういう若い企業にやさしい。中小ビルのオーナーの中には個人経営も多いため、企業の理念や経営状態を正しく説明すれば、そのあたりは融通が利くケースが多いという。

また、五反田周辺はまだ比較的安価な居住マンションも豊富。そこには若い従業員でも住むことが可能なため、会社としては職住接近の利便性も手に入れることができる。ITベンチャー企業では優秀な人材の確保が必須なため、住まいと職場が近いことは会社の魅力のひとつとしてアピール材料にもなる。

加えて、交通の利便性も大きな魅力のひとつだ。JR五反田の2つ先は品川。品川駅はいまや東京駅をしのぐほどのターミナルステーションで、都内はもとより新幹線が停車することで、全国どこに出向くにも便利。さらに羽田にも近く、成田へのアクセスもとてもいい。商談、打ち合わせに日帰り出張することも十分可能な機能を備えているといっていい。

こうして五反田に新興IT企業が集結したことで、最初はバラバラだった企業同士が、お互いに情報交換したり、協力し合おうという動きがでてきた。いってみればこれは「町内会」だ。

2018年7月、この地に拠点を構える6社(freee、ココナラ、セーフィー、マリツカ、トレタ、よりそう)が発起人となって「社団法人 五反田バレー」を設立。すでに40社以上が加盟しており、エンジニア同士の懇親会や互いの企業を紹介するイベントなどを定期的に開いている。

これから日本経済をけん引していこうという自負はあるものの、ひとつひとつの企業はまだまだ小さく、例えば大手銀行と資金調達で渡り合うにも、五反田企業群の一員といううしろ楯は、心強い力になるはず。また、これから五反田に進出したい企業のためにも、相談窓口としての機能も果たしていける。

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「五反田バレー」を、品川区が積極的にあと押し

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こうした「五反田バレー」の動きに対して、行政側の期待も大きい。画像は、品川区のHP上にて2019年6月に更新された「品川区の説明会に集う、五反田IT企業の人たち」の模様だ。イベントには、五反田で起業する企業関係者など約60人が参加し、熱心に話を聞く人々の写真が多数掲載されている。

■五反田バレー「五反田計画」がスタート リリースイベント開催/
https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/shinagawaphotonews/shinagawaphotonews-2019/20190606152712.html

品川区は、これまでも独自にIT企業の誘致に力を入れてきていたが、「社団法人 五反田バレー」ができたことで、区の方針の伝達や企業群側の要望とのすり合わせがスムーズに実施できると期待しており、2019年の予算で7600万円を計上。ベンチャー企業への支援活動を実施している品川区は、慢性的に不足するエンジニアを確保するため、1人あたり最大50万円の助成金を交付するとしている。

また、区内でのものづくり産業の向上や商店街の活性化、防災などをテーマに設定して、ITベンチャー企業に向けに人工知能やIoT(モノとモノとをつなぐインターネット)を駆使した新規事業のアイデアを募集し始めた。採用された事業には、2年間で2000万円の開発助成金を支給する。大学の教授や専門家のアドバイスも提供するほか、実証実験がしやすいように区役所以外の行政機関、団体とも調整する。
企業の規模が小さくて単体での応募が難しい場合、大企業と組んで応募することも可能だという。

品川は、もともと終戦直後からソニーが本社を構えていた製造業の街。この地から新しい時代にふさわしいイノベーションが誕生することを願っての積極活動ということだ。

最近五反田を訪れた人なら気づいているだろうが、ここ5~6年の五反田駅周辺の変貌は確かにすさまじい。少し前まで路地を歩けば、地味なネクタイを締めた“会社勤め”ばかりだったが、最近はTシャツなどラフなスタイルながらも、明らかに有職者であることが分かる“イケてる若者”を街のあちこちで見かけるようになった。

その影響か、以前の五反田とは切っても切り離せなかった「いかがわしい風俗店」などは、どんどん影が薄くなっている。

そんな五反田を歩いていると、なんだか明るくて、エネルギーに満ちた街に生まれ変わる予感がして、とても頼もしい気持ちになってくる。目黒と品川に挟まれ、ネオン街の色合いが濃く、肩身が狭かった五反田。その五反田が大きく変貌する日がやってくるのが、とても楽しみだ。

≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロデュースを手掛けている。


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