未来に向けた投資? 10月9日池上線一日無料乗車デーの狙いとは?


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五反田・蒲田間を結ぶ東急池上線で、2017年10月9日にフリー乗車イベントが開催


 
2017年10月9日、東京・品川区の「五反田」から大田区の「蒲田」を結ぶ、東急池上線が「無料で乗り放題」になります。

この乗り放題は「開通90周年記念イベント 10月9日池上線フリー乗車デー」のイベントによるものですが、電車を一日無料で利用できるのは首都圏の鉄道会社では初の取り組み。こうしたことから、大きな注目を集めていることをご存じでしょうか?
でも、あえて「一日無料」にすることには、一体どんな狙いがあるのでしょう……。実は「地域活性」のひと言には集約しきれない、未来に向けた投資といった側面もあるようなのです。

 

池上線って、そもそもどんな路線?

 

池上線は五反田駅から蒲田駅まで、10.9キロメートルの区間を30分ほどで結んでいます。駅数は全部で15駅。ほかの鉄道と乗り入れがあるわけでもなく、都内を走る電車にしては路線も短く、どちらかといえばマイナーな路線として知られています。
2016年の一日平均輸送人員は、23万7680人。乗降人員はいずれも前年と比べて増加しており、最も多い五反田駅で11万1176人(表参照/東急電鉄HP「2016年度乗降人員」より一部抜粋)です。

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五反田駅にみる、池上線の悲運?

 

池上線の歴史を振り返ってみましょう。
蒲田から池上まで日蓮宗の大本山・池上本門寺への参拝客を運ぶ電車として1922年に開通した池上線は、
6年後の1928年に五反田駅までの現区間が全通します。
ご存じの方も多いと思いますが、池上線の五反田駅は地上4階とずいぶん高いところにあります。下から仰ぎ見ると商業施設「レミイ五反田」に突き刺さるような光景にも見えますが、こうした外観になった背景には、競争に負け続けた池上線の歴史があります。

もともと池上線は、蒲田から目黒までの路線をめざしていましたが、当時の目黒蒲田電鉄に先に開業(現在の東急目黒線と多摩川線)され、路線を五反田に変更。さらに、五反田から先の品川方面にまで線路を延伸する予定に基づき、山手線を越える高い位置に線路を敷いていましたが、今度は京浜電気鉄道(京浜急行電鉄)との競争に敗れて計画変更を余儀なくされ、現在のようなかたちになりました。今ではその珍しい風景は地元の人たちだけでなく、書籍やネットなどでも話題になり、池上線の魅力のひとつにもなっています。

 

2990万円分の電車賃をおごっちゃう太っ腹企画

 

さて、今回の一日無料なる企画は、9月6日からスタートした「『生活名所』プロジェクト」の一環として実施されます。乗車の際、改札エリアで「東急池上線1日フリー乗車券」が配布され、その乗車券を持っていれば池上線全線で自由に乗り降りができます。
もちろん、平日、休日で利用者数も利用区間も異なるでしょうし、定期券を持っている人もいるのですが、ざっくりと「一日平均利用者23万人」×「初乗り130円」で計算すると、約2990万円分の電車賃を“おごってあげる!”という、実に太っ腹な企画なのです。

 

乗り放題企画の狙いは、どこにある?

 

池上線の路線には路線名の由来となった池上本門寺や、都内でも有数な長さを誇る戸越銀座商店街のほか、数々の自然や歴史、名所史跡などが点在する独特の魅力を擁していますが、この企画には多くの人にこうした池上線沿線の魅力を伝えることで、地域の活性化につなげたいという狙いがあるといわれています。ではなぜ、乗車運賃を無料にしてまで、PRしようとしているのでしょうか?

 

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池上線の輸送人員の推移をみてみると、2005年からほぼ毎年上昇し続けており、利用者数は上昇トレンドにありながらもマイナー感を否めない点が、まず今回のPRの要素の一つとなっているようです(グラフ「東急池上線 一日平均輸送人員の推移」参照/東急電鉄HP「乗降人員」より一部抜粋、グラフは筆者による)。

 
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東急電鉄などの路線の駅と比較すると、池上線の中で最も利用者数が多い五反田駅でさえ16位と、トップ10にも入らないことが明らかになっています(全102駅、世田谷線を除く/表参照、「東急電鉄HP「乗降人員」より一部抜粋、グラフは筆者。路線色の色は各線のイメージカラー」)。

 

高齢化を受け入れながら、若返りを図る?

 

また、下町情緒あふれる一方で沿線の高齢化も問題となっています。
池上線が走る東京・品川区を例にとると、人口は1997年以降増加傾向にあり、2017年1月1日には38万2761人ですが、65歳以上の人口も増加していて2000年には16.9%だったものが、2017年は21.1%と増加(グラフ参照。「品川区「世帯と人口‐例月表【男女別、年齢別】」より作成」。

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日本全体の人口が減少傾向にあり、超高齢社会に突入したいま、人口が減少トレンドに移行していることは間違いありませんし、65歳人口の割合も今後も増加することでしょう。
そうした中、首都圏を走る私鉄各社の動きをみると、沿線住民の高齢化にしたがって以前から鉄道会社では葬祭事業を立ち上げ、葬儀での収入を得ようという動きがみられます。しかし、東急電鉄ではグループ会社の中に、高齢者向けのサービスを行う企業はありますが、葬儀専門企業はなさそうです(グループ会社出身者が代表を務める葬儀社はあるようですが、関連性はわかりません。池上線沿線に限っていえば、沿線の寺院などで提携をしているようです)。

 

マイナーである“現状”を逆手にとった逆転攻勢?

 

都心にありながら昭和の街並み情緒が色濃く残っているエリアである、ということは、言葉を換えれば開発から取り残されてきたエリアでもある、と言えます。

一見マイナスともとれる“現状”を資産ととらえて、一気に逆転攻勢をかける……。

現在の池上線にはそんな意気込みすら感じますし、今回のイベントには単なる開通90周年イベントにとどまらない気迫さえ感じます。いずれの沿線でも高齢化は同様の問題であるのでしょうが、池上線が実施する今回の乗り放題のイベントには、
●余力ある間に、池上線の認知度を向上させる
●同時に、地域の魅力を広く伝えることで沿線に新しい住民を呼び込む
●そこから一気に、沿線の人口増加と若返りを図る
といった狙いが込められている……ととらえることもできるでしょう。

──不動産の資産価値の流動性や将来性についてさまざまな憶測が流れ、国民全体に将来への不安が蔓延している昨今、「希望」と名のついた新党が立ち上がるなどの新たな動きもありますが、将来(老後)に向けて自分のお金を守り、殖やす……そんな必要性への意識が高まりつつあることは確かでしょう。
そうした意味においては、「マイナー」ともいわれていた鉄道会社が「損して得とれ!」ともとれる逆転攻勢をかけ、今後いかに成長していくのか……。その動向にぜひ注目していきたいものです。

≪記事作成ライター:林 明≫
翻訳通訳会社などでの勤務を経て、現在は専門誌の出版社で編集記者として取材、執筆に従事。海外留学時に、日々の暮らしの中で物価が急激に上昇していくのを目の当たりにし、「生活とお金」に興味を持つ。


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