地方自治体への寄付金制度として2008年に導入され、いまや全国で300万人以上が利用する「ふるさと納税」。その2018年度実績が総務省から発表され、自治体間の格差問題があらためて浮き彫りとなった。
まず、ふるさと納税の全国の受け入れ額は、総額約5127億円(前年度比約1.4倍)で、受け入れ件数は2322万件(同比約1.34倍)と急伸。しかし、受け入れた寄付額から、返礼品にかかった費用と翌年度の住民税控除額を差し引いて収支を計算すると、全体の34%にあたる604団体(45都道府県・559市区町村)が実質赤字であることが判明。
地方交付税の交付団体であれば、控除額の75%が補てんされるが、その分を加味しても全体の21%にあたる373団体(42都道府県・331市区町村)が赤字となった。
一方で、受け入れ額が全国1位となった大阪府泉佐野市は、1自治体だけで全国の約1割を占める約498億円を集め、危機的だった財政状況が大幅に改善。予想を超える巨額の寄付を使いきれず、貯金にあたる基金を作って積み立てているという。
ただ、同市は過度な返礼品を理由に、今年(2019年)6月から導入された「指定制度※」の対象から除外されており、ふるさと納税自体のあり方や制度の“ゆがみ”を問う声も広がっている。
※指定制度……「返礼品の返礼割合を30%以下とすること」「返礼品を地場産品とすること」などの条件を満たした自治体を、ふるさと納税の対象として指定する制度。これらの条件から大きく逸脱したとして、大阪府泉佐野市、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町の4市町は、指定制度の対象から除外された。
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富裕層の多い都市部で懸念されていた赤字問題
ふるさと納税によって自治体に生じる赤字は、制度がスタートした当初から、とくに富裕層の多い都市部で懸念されていた問題だ。
ご承知の通り、ふるさと納税は納税者が居住地以外の自治体に寄付すると、寄付額から2000円を引いた金額が、居住地の住民税や所得税から減額される。つまり、寄付者は2000円(所得税・住民税の控除額の上限まで)を自己負担すれば、返礼品の分だけ丸々得することになる。
しかも、控除(=節税)できる上限額は、年収に応じて累進的に上がっていく。たとえば、年収500万円の上限は6万1000円だが、1500万円になると38万9000円、5000万円なら208万円と、年収3倍で控除額は6倍、年収10倍で控除額は34倍に跳ね上がる。
このように、ふるさと納税は高所得者ほど節税メリットが大きくなるため、富裕層が多い(かつ魅力的な地産品が少ない)都市部の自治体ほど、居住地以外に寄付したい住民が多くなり、本来納められるはずだった税金が減ってしまうのだ。
地方交付税の交付団体であるか否かで明暗が分かれる
今回発表された総務省の2018年度実績調査によると、都道府県で赤字額(控除額)が最大となったのは東京都(347億円)で、2位が大阪府(21億円)、3位が神奈川県(20億円)。
市区町村では横浜市が136億円で最も多く、2位以下は名古屋市、大阪市、川崎市、世田谷区など、高所得者が多い都市部ほど赤字額がふくらんでいる(図表参照/2018年度ふるさと納税 市町村民税控除額ランキング)。
ただし、トップ3の横浜市・名古屋市・大阪市や、6位以下の神戸市・さいたま市・福岡市・京都市は、地方交付税によって控除額の75%が補てんされるため、実際の赤字額はこの4分の1に減少。それを差し引くと、ランキングは不交付団体の川崎市が1位、世田谷区が2位、港区が3位となり、地方交付税の交付団体であるか否かで大きく明暗が分かれた。
不交付団体の川崎市・東京都23区で財政難が深刻化
この地方交付税とは、地方法人税の全額と国税の一定割合を国が地方に再配分するもので、地方公共団体間の財源の不均衡を調整することを目的としている。したがって、財政が比較的安定していると見なされる自治体は不交付団体となり、国からの再配分を受けることはできない。
しかし、地方交付税の算定に用いられる「基準財政需要額」と「基準財政収入額」は、全国の自治体の収入支出を統一的に測定するための数値にすぎず、多様な施策を展開する各自治体のリアルな財政状況を反映していないとする意見も多い。
事実、不交付団体の川崎市や東京23区では、ふるさと納税の税収減による財政難が深刻化しており、このままでは行政運営や行政サービス、地域インフラの整備などに支障が出かねないと危機感を募らせている。
こうした状況を受け、川崎市の福田紀彦市長は「行政サービスへの影響が深刻なため、不交付団体にも財政措置を講ずること」「高所得者ほど節税効果が生じるので、特例控除額に定額の上限を設けること」などを総務省に要請。世田谷区や杉並区も2017年から、区民に向けたパンフレットなどで「ふるさと納税で区の住民税が流失している」と訴えているが、依然として状況は変わっておらず、国も要請に応じる姿勢を見せていない。
返礼品の調達費や経費が受け入れ額を上まわるケースも
ふるさと納税によって赤字が生じる要因は他にもある。返礼品の調達費や送料・PRなどの経費が、受け入れ額を上まわるケースだ。
総務省の同調査では、返礼品の調達費が受け入れ額に占める割合は35.4%で、前年度(2017年度)から3.1ポイント改善。ただ、今年6月から始まった指定制度で総務省が要請する「30%以下」は上まわったままだ。さらに、送付費やサイト利用料などの経費率を含めた合計では55.0%となり、前年度(55.5%)とほとんど変わっていない(図表参照/2018年度ふるさと納税 諸業務にかかった費用・割合)。
具体的に見ると、返礼品の調達費比率が30%以上だったのは、全体の25%に当たる454団体。経費率も含めると、全体の35%に当たる620団体が50%を超えていた。このうち、調達費・経費とも比率がオーバーしているのは329団体、いずれか一方がオーバーしているのは398団体で、合計すると全体の40%近い727団体が指定制度の条件を満たしていなかったことになる。
指定制度については「条件の根拠があいまい」「実情にそぐわない」など、各自治体から反発の声が上がっているが、寄付額ばかりを目標にして、肝心の手取り(企業でいえば利益)を考えていない自治体経営の甘さも露呈したようだ。
指定制度から除外された4市町が受け入れ額の1~4位に
一方、ふるさと納税の受け入れ額ランキングを見ると、大阪府泉佐野市、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町が1~4位にランクインし、合計額は4市町だけで1112億円と全国の2割強を占めた(図表参照/2018年度ふるさと納税 受け入れ額ランキング)。
先述したように、トップ4を占める各市町は、過度な返礼品で2018年度に多額の寄付を集めたとして、今年6月から始まった指定制度から除外されており、なんともワケあり(?)な結果となった。
とはいえ、4市町とも寄付の増加によって財政状況が1年間で急回復し、貯金にあたる基金も大幅に増加。各市町の2018年度末の基金残高は、大阪府泉佐野市が287億円(前年比2.7倍)、小山町が106億円(同比4.4倍)、高野町は85億円(同比4.6倍)、みやき町は139億円(同比30%増)と急増している。
とくに、過去の公共事業による債務が大きかった泉佐野市は、2012年度まで地方財政健全化法で「破綻懸念」の自治体に分類されていたが、2018年度のふるさと納税の収入により、平均的な市町村と同程度まで財政指標が改善したという。
過度な返礼品で多額の寄付を集めることには賛否両論あるものの、指定制度から除外された泉佐野市は総務省を相手取って大阪高裁に提訴すると表明。東京都の小池百合子知事も、見せしめ的に4市町を除外した総務省の姿勢を批判している。
制度の仕組み自体にメスを入れる必要がある
こうして、ふるさと納税をめぐる状況や数字を見てくると、あちこちに“ゆがみ”が生じていることがわかるだろう。高所得者ほどインセンティブが働く仕組み、地方交付税の交付・不交付で生じる自治体間の格差、指定制度の線引きのあいまいさ……。ふるさと納税という名のもと、寄付集めばかりが先行して、採算や使い道が二の次になっている「お役所的な風潮」も考えものだろう。
国としては指定制度を設けることで、返礼品競争に歯止めをかけようとしているが、4市町のような団体を除外するかどうかにかかわらず、自治体格差や税収を奪い合う構図は変わっていない。財政が厳しい中、地方交付税で明暗が分かれる自治体もあれば、使い切れないほどの寄付金を集める自治体もある。
そもそも、ふるさと納税の趣旨とは「納税者が税の使われ方に意識的になること」「納税者が応援したい自治体を選択できること」「自治体が取り組みを全国に発信できること」に加え、それが「見返りのない寄付」によって行われることである。今後、ふるさと納税が本来の趣旨に沿って健全に成長していくためには、返礼品の撤廃や税額控除の大幅な引き下げなど、制度の仕組み自体に大きくメスを入れる必要があるだろう。
いずれにせよ、軌道から外れたふるさと納税の抜本的な改革は、将来的に避けて通れない重要課題であることは間違いない。そして、私たち納税者も税の本質という視点から、ふるさと納税のあり方について再考する時期にきているのではないだろうか。
まずは、自分の住んでいる自治体がどのような状況にあるのか、この機会に調べてみるのもいいかもしれない。
※図表・データ出典、参考/総務省「平成30年度ふるさと納税に関する現況調査」、日本経済新聞
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。
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