筆者(以下私)は、本業のかたわら、たい焼き屋を経営しており、たこ焼き屋にも手を出したことがあります。
その私に周囲がよく言うのは、「粉もの商売は儲かるでしょう」という一言。
昔はそんな時代があったのかもしれませんが、今はそんなに簡単ではありません。
なかなかに辛い、粉もの屋商売の裏側をお見せします。
売価は変わっていない
たい焼きやたこ焼きは、昔から庶民の食べ物として親しまれてきました。
そのため、「だいたいこのぐらいの値段」という相場観が消費者側にある商品です。
みなさんの頭の中で許せる価格って、たい焼きで1匹150円ぐらいまで、たこ焼きでは8個で400円ぐらいまでではないでしょうか。
実はこの価格、約15年前の2000年からそんなに変わっていないのです。
たい焼きブームと時とともに、原料価格も高騰
たい焼き市場は、2004年当時78億円の市場でしたが、白いたい焼きも登場してブームが起きたことによって、2009年には388億円(いずれも富士経済調べ)と5倍に成長しました。
一方、時を同じくして、世界経済の混乱によって2007年から2009年にかけて小麦粉の売り渡し価格も1.5倍に高騰(農林水産省政府小麦売渡価格の推移)しています。
その後、急速にたい焼き屋は減少するのですが、ブームだから終焉は当たり前、ということに加えて、原料価格の高騰を販売価格に転嫁しきれなかった、という事情もあるのです。
大高騰! たこ焼きからタコが消える!?
業務用真ダコの価格は、ここ10数年ぐらいの間で2倍ぐらいに上がっています。
その原因は、アフリカ沖での乱獲。主に日本に輸出するタコを採りすぎたため、資源が枯渇しかかっているのです。
現在、業務用の冷凍真ダコは、1キログラム当たり1800円ぐらいします。
たこ焼き一個の大きさが6~7グラムですから、だいたい150個分ですね。
そうすると、1個当たり12円。8個入りだと、96円、400円で販売するとタコの原価だけで、ロスが1個もなかったとしても、実に25パーセント近くになってしまいます。
その他、小麦粉や天かす、ソース、等の費用や光熱費などの経費、人件費に家賃。大手チェーン店のように6個入りを500円以上で販売するか、タコを入れないたこ焼きを開発しない限り、採算が取りづらい商売になってきていることがおわかりいただけると思います。
あんこもタコも値段はピンからキリまで
“粉もの”と言うとお祭りの屋台を思い浮かべる方も多いと思います。その日限りで、どんどん移動していく屋台の場合は、量さえ多く見せれば、質は多少落としても何とかなります。質。そうです。あんこにもタコにもグレードがあります。
あんこの場合は、北海道十勝産の小豆を使用し砂糖を控えめにしたものが一番高価です。
逆に中国産で、水あめなどの混ぜ物を多くしたあんこの価格は、1番高価なものの2分の1以下です。
これを使用すれば、しっぽまであんこがたっぷり入っていても、原価は低く抑えることができます。
タコの場合は、中国産の岩ダコという種類が真ダコに比べればまだ安価ですが、資源の枯渇問題はここでも叫ばれており、あんこほどの差はないので、価格を上げるしかありません。屋台のたこ焼きが500円ぐらいするのはそんな事情があります。
一方で、店舗を構える場合は安いあんこを使うと、和菓子好きのお客様はすぐに見抜いてリピートしてくれません。タコを小さくすることもご法度です。
──どうでしょう。「粉もの屋は儲かる」という方程式が、今、成り立たなくなってきている、なかなかに辛い状況であること、おわかりいただけたでしょうか。
≪記事作成ライター:前田英彦≫
大手情報サービス企業に11年間在籍後、独立。数々の創業経営者との仕事に触発されて、企業の広報活動を支援する会社を設立、現在18期目を迎えている。「レジを打ったことのない人間に小売りの何がわかる!」と言われたことがきっかけで、なぜかたい焼き屋も展開中。好きなもの。ダルメシアン、テニス、ゆで卵。
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