世界の雄・トヨタと、軽自動車の覇者・スズキのポテンシャル


クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

中国経済の不透明感、ローン金利につながる北米市場の利上げ、さらに円高に振れている為替。
そして国内でも、議論かまびすしい2017年春の消費増税をにらみ、新車の駆け込み需要はさほど期待できないという見方が大方を占めるなか、16年に入って大きく潮目が変わったといわれる自動車市場。
16年1月に各紙1面を飾った「トヨタ・スズキ提携検討」の報。そのポテンシャルとは?
 

インド市況で4割のシェアを誇るスズキ

 
15年9月中間決算で、ともに過去最高益を更新したスズキ(株)とトヨタ自動車(株)。
トヨタの連結売上高は27.2兆円(15年3月期)にのぼり、この数字はもちろん国内首位。
ところが、15年まで4年連続でグループの世界販売台数首位を走ってきたトヨタの弱点は、ズバリ「新興国」。

その一例として顕著なのが、インドで圧倒的シェアを誇る日本車はトヨタではなく、実は廉価&小型車を手がけるスズキである点。しかもスズキ車は、インドで約5割(47.2%/2015年)もの圧倒的シェアを誇る人気メーカーなのです。

遡ること33年前の1983年。未開の地インドにどこよりも早く進出し、四輪車生産を開始。日本車普及に尽力したのが、かの鈴木修氏です。
数々の経営哲学ともいえる名言・語録を残し、現在もスズキの会長兼CEOを務める鈴木氏(1930年生まれ)は、インド進出についてこんな言葉を残しています。
〈── スズキはもともと小さな会社ですから、巨大なライバルと対等に戦えるわけはありませんが、これだけは絶対よそに負けない、特長のある会社にしたいと私は常々思っていました。のちにリスク承知でインド市場に飛び込んでいったのも、他の大手が手を伸ばさないインドなら、一番が取れるだろうと考えたからです ── 鈴木修〉

あくまで「一番」にこだわるスズキは、他のメーカーが参入していないインド市場に分け入り、今日、2台に1台の圧倒的シェアを獲得。
※ 進出年/1983年スズキ、94年GM、95年ホンダ、96年現代、97年トヨタ
しかし、この「一番」を世界の競合が手放しで放置しているはずもありませんし、インド市場における商用車、高級車をのぞいたスズキの販売台数・約273万台は、2450万台の中国市場、1740万台の米国市場には遠くおよばない数字。「現在の地位に安穏としていられない」といったスズキの本音も透けて見えます。
 

トヨタの課題は、新興国戦略

 
今後、中国を抜いて人口が17億人まで膨らむ「爆発力」を秘め、経済発展と相まって自動車市場が拡大することは自明の理とされる巨大マーケット・インド。
一部には、10年以内には日本国内の500万台をゆうに超える、660万台超の販売台数に達する、との予測もあります。

そうしたなか、今年1月に下記の見出しが紙面を飾りました。
●トヨタ・スズキ提携交渉 インド市場を共同開拓
(16.1.27 日本経済新聞 電子版)
● トヨタ、苦手分野の解消へ一手 スズキとの提携検討
(同1.28 朝日新聞デジタル)
● スズキ提携交渉、ダイハツ完全子会社化で見えたトヨタの世界戦略
(同1.30 週刊ダイヤモンド)

「爆発的な人口増」は、翻れば環境に則した自動車づくりが喫緊と課題ともなります。
── 競争が激化するなか、次世代環境技術や自動運転技術を活用したいスズキ。
── スズキと組むことで、課題である「新興市場戦略」を強化したいトヨタ。
高いシェアを維持してきたタイやインドネシアの足並みが鈍化し、北米頼りのトヨタが強みとする「安全・環境技術、低コストの生産ノウハウ」、さらに、スズキの「小型車戦略、販売網、圧倒的シェア」といった強みを対等に持ち寄る提携交渉は、果たしてどのような結論を今後導き出すのでしょうか……。
 

競合が、瀕死の状態に陥るインド市場

 
インド市場のポテンシャルに着目し、市場に参入した企業はトヨタ、日産、ホンダのみならず、錚々たる欧州自動車メーカーも名を連ねます。
しかし、死にもの狂いで現地調達率を引き上げ → インド市場に見合った車を開発 → スズキに対抗する価格を実現……といった努力を積み重ねても、継続的な利益計上は難しく、10年以降の5年を見ても、スズキに挑戦すべくインドに乗り込んできた欧米勢が次々と敗戦を喫することに。

よって今日では「三十数年にわたり販売網・ノウハウを蓄積してきたスズキに挑めば、自身が瀕死の状態に陥る」という構図が、今日のインドの自動車市場における構図ともなっているのです。
 

インドで苦戦を強いられているトヨタ

 
では、トヨタはインドで現状どのような状況にあるのでしょう。

ここで驚くべき数字があります。
商用車と高級車を除いた15年の乗用車インド国内販売台数は273万台中、スズキが129万台(47.2%)、トヨタが14万台(5.1%)。
さらに、「インドの自動車販売台数ベスト10(14年)」では、1位「スズキアルト」、2位「スズキ ディザイア」、3位「スズキ スイフト」、4位「スズキ ワゴンR」、9位「スズキ オムニ」とが5車種。「ホンダ シティ」が6位にランクインしているものの、その他には国産メーカー、現代(韓国)の名はあれど、トヨタ車の名前はありません。これではトヨタもインドで商売が成り立たないでしょう。

大手国内メーカーとの包括的連携に拍車をかけ、「オールジャパン構想」を掲げる豊田章男社長率いるトヨタ。
そして、ハイブリッドや電気自動車などの最新鋭技術で後れをとっており、しかも廉価車で知られる「タタ自動車」ほどのコストパフォーマンスカーを開発できていないスズキ。
果たして「市場の5割奪還」がささやかれるなか、両者の提携はインド市場に風穴をあける起爆剤となるのでしょうか。
 

86歳にして世界に挑み続ける鈴木修氏

 
三十数年前に未開のインド市場への進出を決断し、以来、陣頭指揮を執ってきたスズキの会長兼CEOの鈴木修氏。15年夏に会長兼社長を退任し、長男の鈴木俊宏副社長が新社長に就任。
鈴木俊社長には欧州でも躍進する世界的小型車メーカーへ脱皮させる舵取りが求められますが、今なお現場をまわり、檄を飛ばす鈴木修氏の名言を最後にご紹介しましょう。

〈── 1位と2位が本気で戦い始めると、3位以下のメーカーなんて木端微塵に吹き飛ばされる。3位以下の企業は不安定で脆弱な存在にすぎず、やはり小さな市場であってもナンバーワンになることが大切 ── 鈴木修〉
〈── 経営者として10年先、20年先を見越した経営がいかに大切か ── 鈴木修〉
〈── ゼネラル・モーターズが鯨で、うちがメダカ? いやうちはメダカじゃなくて蚊ですよ。だってメダカは鯨にのみ込まれてしまうが、蚊であれば空高く舞い上がることができるので、のみ込まれない ── 鈴木修〉

『俺は、中小企業のおやじ』など数多くの語録集や著作物が刊行されており、社長就任時に売上3232億円だったスズキを、30年で3兆円企業にまで育て上げた鈴木氏。その言葉をひもとけば、インドにおける自動車市況の変化は遠い国での他人事ではなく、奥行きのある身近な名言として琴線に触れる方も多いのではないでしょうか。

≪記事作成ライター:岩城枝美≫
横浜出身。東京在住。大手情報サービス企業を29歳で退社後フリーランスに。教育、結婚、通信、金融、IT、住宅、ゴルフ系の出版物、Web、社史、社内報など、20年にわたりあらゆるジャンルの取材・執筆、ディレクションに携わる。


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