前記事「カーシェアリングが急成長する理由と、車を取り巻く変化」では、急速にカーシェアリングが普及している現状と、その使い勝手のよさを報告するとともに、多くの人が抱いている「なぜいまカーシェアリングなのか?」という疑問についても、そのしくみやメリットをもとに解説した。
今回はオーナードライバーの目線からではなく、カーシェアリング業界に既存の大手自動車メーカーが続々参入しているマーケットの実態についても報告しよう。
同時に、前記事では触れなかったカーシェアリングのデメリットも整理したので、マイカーにかかるランニングコストを負担に感じ、カーシェアリングへの移行を検討している方はぜひ参考にしてほしい。
大手自動車メーカーが続々参入。その思惑とは?
いま、カーシェアリングの市場で大きく売り上げを伸ばしているのは、前回の記事で例に出した「タイム24」、そのほかオリックス、カーシェアリングジャパンなどだ。一方、これらの先行企業に対抗するように既存の大手自動車メーカーのトヨタ、日産、ホンダなども続々参入を果たしている。
単純に考えれば、カーシェアリングが増えれば車の購入者は減り、自動車メーカーの業績悪化につながりかねない気がする。しかし、メーカー関係者に言わせると、危機感はもっと深いところにあるという。
それは、── 若者が車に関心を持たず、運転する意欲をなくしていること──が最も深刻な問題だという。
そこで自動車メーカーの人たちは、こう考えたようだ。
── 若者たちに、まず車を運転することの楽しさや便利さを実感してもらいたい。そのきっかけとなるなら、あえて購入でなくともカーシェアリングでも十分 ──だと。
さらに、── 欲を言えば、そのシェアリングの車に、自社の車を選んでもらえれば、そのうちの何割かが車の購入に踏み切ってくれるかもしれない ──と。
こうした思惑から、大手自動車メーカーが競ってシェアリング業界に参入しているというのだ。
というわけで、各メーカーがラインアップしているシェアリング用の車は、どれも最新のイチオシ車種ばかり。つまり一般ユーザーは、その最新機種を格安で運転することができる。メーカーとしては、とりあえずハンドルを握ってもらい、アクセルを踏んでもらって、気に入ったら買ってほしい……と“動くショールーム”のひとつと考えているようなのだ。
ホンダ、日産、トヨタのカーシェアリング戦略
それでは、大手自動車メーカー各社の具体的なカーシェアリング戦略を見てみよう。
✓ホンダ ── エブリゴー
ホンダは、2017年11月からカーシェアリングに力を注いだ「エブリゴー」を新展開。東京、神奈川、大阪の3都府県97カ所を拠点に、人気の軽自動者「N-BOX」をはじめとするすべてホンダ社製の新車、しかも最高グレードをラインアップしている。
利用形態は一般的な15分刻みではなく、8時間からの設定。まとまった時間、最新機種に乗車することで魅力を知ってもらうためとしているが、料金は8時間で3480円ほどと、他社と比べて30~40%安い設定となっている。
✓日産 ── e-シェアモビ
日産は、最先端技術が搭載された電気自動車でのドライビングを体感できることを売りに、2018年1月からカーシェアリング「e-シェアモビ」を展開。当然ながら、配車は「リーフ」や「ノートeパワー」など日産自慢の電気自動車。東京、神奈川などを中心に全国30カ所にステーションを開設し、サービス提供を行っている。
「e-シェアモビ」は、いまのところ入会金は無料。15分206円の時間設定だけでなく、さまざまなオプションの時間設定を組み込んだ料金パックなどを用意し、ユーザーの利用目的に対応するシステムを備えている。
✓トヨタ
今年4月、トヨタは東京都内で直営の販売会社4社を2019年の4月に合併させると発表し、統合会社を利用して本格的なカーシェアリングサービスに参入する方針を明らかにした。またトヨタは、駐車場「タイムズ」を展開するパーク24と、カーシェアのデータ収集で業務提携したことも発表。トヨタの多目的スポーツ車(SUV)「C-HR」に通信機をつけて東京都内に導入し、カーシェアサービスに使ってもらうという。車の航続距離や位置情報などのデータを集めて分析し、新たなサービスや車載端末の開発につなげるとのことだ。
以上のように、自動車メーカー各社のカーシェアリングへの取り組みは、これからが本格稼働といったおもむき。街中に各社の最新モデルが、シェアカーとして闊歩する時代が間もなくやってくる見込みだ。
カーシェアリングのデメリット
ここまで、カーシェアリングのメリットを中心に解説してきたが、もちろん“いいことづくし”というわけではない。最後にデメリットや落とし穴についても解説しておこう。
✓デメリット1/乗り捨ては基本的に不可
レンタカーなどと違い、その車を借りた(配車)ステーションに戻すのが原則。なので、自宅近くなどの場所にステーション(拠点)を確保することが大切だ。
✓デメリット2/時間延長はできない
なにしろシェアなので、次に使う人がスタンバイしていると考えなければならない。予約時に決めた返却時間を、乗車後に変更することは原則できないので、待ち時間が読めない病院や役所などでの用事や、渋滞が見込まれる時間帯に使う場合は、慎重かつ余裕をもった返却時間設定が必要だ。
✓デメリット3/使用時間によっては割高になる
カーシェアリングは、細かい時間設定がひとつのウリ。逆に言えば1日以上など、長時間にわたって借りる場合はレンタカーなどより割高になるケースがある。長時間使用の場合は、事前に料金比較をしてから借りたほうがいい。
✓デメリット4/毎月固定費を取られることが多い
カーシェアリングの多くは登録制になっており、毎月固定費を支払うことになる。多くの場合、この固定費は利用時に割引となって相殺されることが多いが、車を利用しない月があればその月の固定費はまるまる払い損になる。
✓デメリット5/車が汚れている可能性がある
カーシェアリングの車の清掃は、基本は自己責任。レンタカーのように従業員が乗車後に清掃してくれるわけではない。使った人は、次の人に気持ちよく引き渡すのが原則なので、場合によっては前の人が汚したままの車にあたることもある。それがカーシェアリングだ。
マイカー所有時と比較して、月5万円以上は節約可能?
首都圏のスーパーやホームセンターなどの駐車場で、フロントガラスやリアガラスにカーシェアリングとわかるシールが貼られた「わ」ナンバーの車を、いまでは当たり前のように見かけるようになった。
なかにはカーシェアリングを活用して以来、月のランニングコストがマイカー所有時と比較して、5万円以上節約できている……という人も増えている。
当然ながら自動車税(または軽自動車税)、自動車重量税、駐車場代、自賠責保険代、自動車保険代、車検代といった費用を抑えることも可能となる。さらに、マイカー所有者にとって痛手となる、高止まりのまま推移するガソリン価格の高騰も、カーシェアリングを利用すれば気にする必要はない。
デメリットはあるものの、そうした観点で見れば、カーシェアリングが個人の家計にもたらす効果は非常に大きいといえるだろう。
最後に。
昨今は、充電ステーションの不足や、バッテリー切れで車が止まってしまうデメリットが懸念されていたEV(電気自動車)だけでなく、次世代型ハイブリッド車「PHEV(プラグインハイブリッドエレクトリックビークル)」も、シェアリングカーとしてお目見えしている。
主に電力で走行し、燃料は電気とガソリン(もしくはディーゼル)、排気ガスは限りなくゼロに近い新機種「PHEV」に試乗すれば、エコドライブを体感しながら、燃費や乗り心地を比較することが可能だ。
さらに、セダンに乗り慣れている人であれば、目先を変えてミニバン、ワゴン、スポーツ、SU、コンパクト、軽自動車などのボディタイプに乗ってみるのも、また楽しそうだ。
つまりは、あえて大手自動車メーカーの思惑に乗ってみる……。そのことによって新たな発見が得られるかもしれない。
── 以上、今回は一見カーシェアリングとは相いれないはずの自動車メーカーが、最近こぞって参入を始めている実態について報告した。しかし今回、国内自動車メーカーの取り組みを紹介したが、この実態を外国車メーカーが指をくわえて傍観しているわけがなく、最近では日本で大きなシェアを持つドイツ車などが、こぞって参入を打ち出している。
さらに、このカーシェアリングレポの反響が予想外に大きかったため、第3弾となる次回は、外国自動車メーカーのカーシェアリング参入について解説することにしよう。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、昨春退職。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。
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