2回にわたって「カーシェアリングが急成長する理由と、車を取り巻く変化」「急成長するカーシェアリングに大手自動車メーカー参入。気になるデメリットは?」と銘打ち、カーシェアリング急成長の現状と理由について解説してきたが、その勢いは衰えることなく、いよいよ外国車メーカーの動きにも現れ始めている。
というのも最近、ドイツ車の名門メルセデスやアウディがこぞってカーシェアリングへの参入を発表していることをご存じだろうか。そう! 時代は変化し、一部の富裕層だけがハンドルを握れる特権を握っていた(?)あこがれの外車に、誰もが気軽に乗れる時代がやってきそうなのだ。
あのメルセデスが、期間限定、無料カーシェアを実施!
メルセデス・ベンツといえば、だれもが一度は乗ってみたい、高級外車の代名詞みたいなもの。
そのメルセデス・ベンツジャパンが、日本の自動車メーカーに対抗して、カーシェアに乗り出した。
それは、NTTドコモがすでに展開している「dカーシェア」とタッグを組んでのユニークなキャンペーンだ。手順はいたって簡単で、スマートフォンのアプリ「dカーシェア」にあらかじめ登録して、予約をすれば、メルセデスの一部の車種を無料で試乗できるというもの。試乗時間は最大で2時間、しかも「カーシェア」の位置づけのため、普通なら同乗するはずの販売スタッフもいない。無料で自由に乗りまわせるのだ。
試乗対象車種は、セダンの新型Cクラス、高級ミニバンのVクラス、小型車のsmartの3種類で、8月10日~12月30日までの期間限定となっている。
試乗したいユーザーは、アプリで車種、日時を指定して予約。あとはメルセデス・ベンツの情報発信拠点「メルセデスミー東京」か「メルセデスミー大阪」に出向いて借り出すことになる。
今回の取り組みは同社が行っている「Tap! Mercedes」(タップ!メルセデス)という新サービスの第一弾に位置づけられており、メルセデス・ ベンツ日本株式会社 代表取締役社長兼CEOの上野金太郎社長は、「スマホを扱うような手軽さで、メルセデス・ベンツに触れてもらいたいと」としている。
メルセデスの広報によれば、「現在のユーザーの中心は50代くらい」。今回の新しい取り組みによって、NTTドコモ「dカーシェア」のメインユーザーとなっている30代の車好きユーザーを、少しでもメルセデスに引き込みたいという思惑があるようだ。
アウディは、4時間7200円から貸し出し
もうひとつのドイツ車の雄、アウディもカーシェアの新サービスを始めている。
こちらも専用のサイトに登録することで、最短で4時間、最長で30日まで「アウディ」車を借りることができるというもの。
小型車の「Ai Sportback」(購入価格280万円台)なら4時間7200円で、アウディ自慢の高級スポーツ
カー「R8 Spyder」(購入価格2600万円台)であれば、5万1200円で借りることができる。2600万円台の車のハンドルを握る機会は、普通そうそうないものだ。
当然、購入となると手が出ないあこがれのドイツ車に手軽に乗れるとあれば、興味をもつ人もきっと多いことだろう。何より注目すべき点は、予約をすればコンシェルジュと呼ばれる担当者が、わざわざ車を届けにきてくれる点。さすがというか驚きは隠せないが、見方を変えればこの破格のサービスに、アウディの日本カーシェアマーケットへの強い意気込みが秘められていると察することもできるだろう。
アウディジャパンの斎藤徹社長は以下のようにコメントしている。
「東京のように大きな都市では過密化が進み、渋滞もひどい、また毎日車に乗るわけでもない。そういう意味では、車を所有する理由が希薄になっているのです。これからは“所有”から“利用”という時代に変わっていくと思います。メーカーとしても、そうした潮流に応えていかなければならない」
つまりは、自動車メーカー自身が、カーシェアリング時代の到来を認めているということになる。
カーシェアリング市場が急拡大するドイツ6都市
日本で続々、カーシェアリングを始めた外国自動車メーカー。では、本国ではどんな動きになっているのだろうか。
米国やオーストラリアなどの広大な国土をもつ国ではマイカー所有率がまだ高い。しかし、英国、韓国をはじめ、ベルリンをはじめとするドイツ6都市圏では、カーシェアリング熱が一気に高まっている。
特にドイツでの傾向は顕著で、従来は決められた場所(ステーション)で車を借りて、借りたステーションに返却するという日本でもおなじみの形態だったが、いま新たな形態のカーシェアリングが登場しており、それによって利用者はすでに100万人を突破。利用者の急増に伴い車両数、企業数も増加しており、2020年までには、カーシェアリング利用者が現状の倍の200万人に増大すると見込まれている。
その新しい形態のカーシェアリングをリードしているのが、ドイツの三大自動車メーカー、ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲンなのだ。例えば、BMWとレンタカー・リース大手のシクストが創設したカーシェアリングの合弁会社「DriveNow」では、「半径500m以内で車が見つかる」という利便性を前面に打ち出している。そのサービス内容を簡単にまとめると、
●台数が多いので、すぐに乗りたい車がみつかる
●決まったステーションはない
●乗りたい必要性が生じた時、パソコンやスマートフォンで近くの車を探す
●使用後は市内の路上駐車帯や公営駐車場に乗り捨てることができる
この新システムが短期間で爆発的に市民に浸透した理由は、
「安い、使いやすい、エコ、環境によい」といった利用者側の便利さ……、
都市行政が掲げる交通政策の一環に民間のカーシェアリングが活用された……
この2つの利点が挙げられる。
爆発的な勢いでマーケットが成熟し、カーシェアリングが新形態の「公共交通」として定着しつつあるベルリン。そんなベルリンでカーシェアリングを利用した人を対象にアンケートを実施したところ、
「自家用車を売り払い、今後はカーシェアリングのみを利用する」
そんな回答が予想をうわまわる割合で得られているという報告もなされている。
── 以上3回にわたって、カーシェアリングの急成長ぶりを解説してきたが、東京では180カ所以上の拠点で「24時間」「どこでも借りて」「どこでも返せる」電動アシスト自転車のシェアリングサービスが観光、買い物、移動の足として大流行している。同様に、カーシェアリングも今後は大きな変化を迎える可能性がある。いずれにせよメリット、デメリットをよく理解して、有意義なカーライフを送りたいものだ。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、昨春退職。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。
Follow Us