数億円もの名器・ストラディヴァリウスは、それだけ価値ある音色を奏でるのか? ①


Girl with violin

ステージで華やかな演奏を繰り広げるオーケストラ。
『のだめカンタービレ』ですっかりおなじみになった音楽家たちの世界ですが、彼らが手にしている楽器はどれも高価です。

中でも豪邸に匹敵する価格がつけられた楽器、ストラディヴァリウスは別格。
2014年1月に米ウィスコンシン州ミルウォーキーで当地の交響楽団のコンサートマスターがスタンガンで襲われ、愛用のヴァイオリン(ストラディヴァリウス)が盗まれました。当時のニュースでは“時価約6億円”と報道され、一躍話題となりました。

音楽家のみなさまには下世話な話題で恐縮ですが、崇高な音楽を奏でる楽器の価格とその音色について、2回に分けてフォーカスしてみましょう。
 

ヴァイオリンの代名詞、ストラディヴァリウス

 
弦楽器の代表はなんといってもヴァイオリンです。
中でもストラディヴァリウスやガルネリ・デル・ジェス、アマティなどの歴史的な名器の取引額は数億円にもなります。
日本音楽財団が東日本大震災の被災地支援のため、オークションで売却したのが「レディー・ブラント」という名のストラディヴァリウスでした。落札額は史上最高値といわれる約12億7000万円です。
いまやヴァイオリンの代名詞ともなったストラディヴァリウスの、いったいどこにそんな価値があるのでしょうか。

そもそもストラディヴァリウスとは、イタリアのアントニオ・ストラディヴァリが1644年から1737年にかけて制作したヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどを指します。
ストラディヴァリウスは制作者ストラディヴァリの名前をラテン語で表記したもので、一生涯のうち約1200挺ほどが作られ、現存するのは約600挺ほどといわれる貴重な楽器。
略して「ストラド」とも呼ばれ、個人で所有する演奏家もいれば、財団や企業がヴァイオリニストに貸与することもあります。“家を売ってストラディヴァリウスの購入資金にした”という話が実際にあるほどの価値を持ち、楽器や工芸品の域を超えた完璧な芸術品としてその名を轟かせています。
 

固有の愛称やエピソードを持つ名器

 
ストラディヴァリウスは制作後にたどった経緯やその歴史・エピソードから固有の愛称がつけられているものも少なくありません。
例えば、1714製のストラディヴァリウスは「ドルフィン」と呼ばれます。1800年代後半に所有していた楽器商が、裏板のニスがイルカを思わせると命名しました。ヴァイオリニストの巨匠ヤッシャ・ハイフェッツが愛用し、現在は日本音楽財団から諏訪内晶子に無償貸与されています。
しかも、この「ドルフィン」は保存状態と音質の素晴らしさで世界三大ストラディヴァリウスにあげられる「DAM」の「D」として有名です。「A」は1715年製の「アラード」(個人のコレクター所有)で、「M」は1716年製「メシア」(オックスフォードのアシュモリアン美術・考古学博物館所蔵)を指します。

また、千住真理子が運命的出会いにより入手したといわれるのが「デュランティ」です。このストラディヴァリウスは制作後すぐにローマ法王・クレメント14世に献上されたもので、法王没後はフランスの貴族デュランティ家の家宝となり、その後はスイスの公爵の手に渡りました。
およそ300年もの間、演奏されることがなかった希有な存在が、ヴァイオリニストのもとでようやくその音が奏でられることになったわけです。
 

誰もが魅了される美しい音色のために

 
そもそもストラディヴァリウスは木で作られていますから、製造後200年や300年が経った段階で最高の音が出るとされます。
シルクを思わせるしなやかで艶のある音、華やかで美しい響き、ふくよかで柔らかな音色……優れた心地好さを奏でるストラディヴァリウスが、たとえ最高の木材や作り方で完成された傑作だったとしても、その後の保存状態やメンテナンスによってはどれだけ音質が左右されることか。
楽器そのものの本当の価値を知る芸術家や演奏家、パトロンによって庇護されてきたことは間違いないと言えるでしょう。

その音色に魅了された著名なソリストとして、イツァーク・パールマンはメニューヒンが所有していたストラディヴァリウスの1714年製「ソイル」を愛用しています。また、アンネ=ゾフィー・ムターは1703年製「エミリアーニ」と1710年製「ロード・ダン=レイヴン」の2挺を持っているそうです。

そんなストラディヴァリウスの所有に際しては適正な管理が必要です。メンテナンスやコンディションのチェックなど繊細な注意を払う必要がありますし、当然費用もかかります。世界的文化遺産として演奏に適した状態で次世代へと引き継いでいくために、悪影響を与える地域への持ち込みも避けるなど、慎重な保全が求められるのです。

次回「数億円もの名器・ストラディヴァリウスは、それだけ価値ある音色を奏でるのか? ②」では、日本のプロ・オーケストラの実情、音色と価格との関係などについてご紹介しましょう。

(文中の敬称は省略しています)参考URL:日本音楽財団HP
 
 

≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、学校に通って介護資格を取得。現在は介護福祉士として勤務する日々。オペラをこよなく愛し、航空会社在職中より始めた音楽評論の執筆も継続している。


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